第六十話 教鞭
カーネと話してから一カ月が経った。
相変わらず、彼女は優秀だった。
「囲め囲め!」
「盾持ちが前に行けよ!」
「分かってらぁ!!」
「うぎゃっ!」
「あっ!?」
「盾が!?」
ある日、部屋で作業していると外から何故か戦闘している声が聞こえてきた。
窓から覗くと数人の訓練兵が黒髪の少女――カーネを囲んでいた。
どうやら雰囲気的に模擬戦のようだ。
自主練をしているらしいがカーネ一人にボコボコにされている。
今もまた、盾持ちの一人は盾を叩き割られ、剣持ちの二人が木刀でぶっ叩かれたところだ。
「…………強いな。というか木刀で盾を破壊ってどうなんだ。いくら木でできた模擬戦用の盾とはいえ高レベルでもないのにどうやっているのやら…………。」
訓練兵たちが次々となぎ倒されていく。
まったく相手になっていないものの、訓練兵たちも中々の連携だ。
すぐさま空いた穴を埋めようと動いている。
間に合わなければ意味は無いが。
全方位から攻撃をするが完璧に防がれたり避けられたり、一切攻撃が当たっていない。
数分の内にカーネのみが立っているような状況になり、訓練兵たちはバッタリと倒れている。
何度も思うが彼女は強い。
それこそ、一対一で彼女に勝てる人間などかなり限られるほどに。
なので、よくカルドと組手をする。
他では相手にならないのだそうだ。
それが原因で何かと組手をせがまれ、距離感が縮まったような気もする。
そして彼女のおかげでカルドもまた、実力が伸びていた。
最近は若干、伸び悩んでいたので嬉しい誤算だ。
ある時、他の教官に聞いたのだがこの仕事は退役した騎士はもちろんだが現役の、しかも若い騎士がすることが多いのだそうだ。
その理由は訓練兵数名を同時に相手にしたり、剣術を論理的に説明したりすることで教官自身も実力が上がるからではないかとも話していた。
こうしてみるとその考えは正しいのかもしれない。
ちなみに余談だがカーネが話してくれたのか他の訓練兵たちからもカルドは信頼できると判断されたらしい。
冷たい視線は、向けられなくなった。
代わりに不安のような心配のような、そんな視線を感じるようになった。
特に、カーネと話していたり組手をしている時に多い。
考えても何も分からなかったし、悪感情でもなさそうなので気にしないことにしたが。
その次の日、二人は組手をしていた。
「っ!」
「ちっ!」
今回は前回と違ってカルドも木刀を持っている。
前回のあれはあくまで教官の実力を知らしめるためなので、訓練となればより実戦形式のほうがいい。
普通、戦場に素手で挑む馬鹿などいないのだから参考にもならないのだ。
お互いが剣を使って戦うことで素手対剣の戦いの時とは違う気づきが当然ながら得られる。
「……君……何か違うんだよなぁ……。」
「!?」
彼女が驚愕の表情を浮かべている。
何か誤解してるのかもしれない。
というか間違いなく自分の思っていることとは違うことにしか取られないだろう。
「いやねぇ……武器が何か違うんだよ。君、実は元々何か別の武器使ってたんじゃ?」
「…………ええ、はい……。」
図星だったのか目を丸くした。
そんな表情も可愛らしい。
「じゃあ……ってそうか。訓練兵だからか。」
訓練兵は騎士団の使う基本的な武器を一通り使い、その中から得意だったものを選んでそれを重点的に訓練することになる。
戦力の均質化という面からも武器の整備や管理の面倒などからも、ただの一兵士、一騎士に専用の武器を渡すわけにもいかないのだ。
「一応、ここに来る前に使っていた物は持ってきてます。使用は許可されませんでしたが……。」
これは別段、問題無い。
元旅人、元傭兵、元裏社会の人間などが騎士になろうとすることなどが極々稀とはいえあるため、その人間が元々使っていた武器で、尚且つある程度の実力がある者なら所持は(あまり良い顔はされないが)許可されている。
そういう人間は特殊な武器を使うことがあるし、使い慣れている武器のほうが戦力的にもいいという判断だ。
代わりに、もしその武器が壊れたり破損してもわざわざ特注の武器を作るなど手間でしかないので国の援助は受けられない。
自腹で頼むしかない。
しかもそういった特殊な武器はどうしても作れる人が限られるので作れる鍛冶師に顔が利かないとより面倒なことになる。
そして特注の武器など値段が高いのは当然なので、必然的に階級が高く、給料が良く、修理のためにそこそこの期間仕事を休むことが認められる程度には上に顔が利かなければならないことも多い。
そういったことであまりこの決まりを使う者はいない。
ちなみにオマケだが騎士団によって使う武器や装備の傾向が分かれている。
白薔薇騎士団は大剣や細剣や戦鎚で、重装備。
赤竜騎士団は馬上槍や剣槍や短弓で、軽装備。
灰鼠騎士団は長槍や斧や弩弓で、軽装備。
黒曜騎士団は片手剣や斧槍や長弓で、重装備。
ちなみにこの教練では先程話した基本的な武器はこれらである。
その際、何が得意かによって正式に騎士に就任したときに何処の配属かも決まることが多い。
黒曜騎士団が教育したとしてもその訓練兵が黒曜騎士団になるとは限らないのだ。
それどころか黒曜騎士団がほとんどの訓練兵を鍛えているため割合的に考えても大半が黒曜騎士団以外になる。
なお、白薔薇騎士団だけは教育内容が外交や法律だったりで高度な内容なので受付からして別だ。
―閑話終了―
「まあ君の実力ならすぐに昇進できるだろうしすぐにその武器も使えるか。」
「…………。」
何故かカーネが何とも言えないような表情になった。
「……どうした。」
「いえ……すぐに昇進って言いますが教官が言うと何というか……。」
最初よりも慣れてきたのか若干、口調が砕けてきていることに気づきつつ、話を聞いた。
「ん?」
「いえだって、教官って私たちと年齢が近いのにもう中隊長ですよね? 話題になってますよ。」
「ああ……なるほど。」
「そういえば、どれくらい歳が離れてるんですか?」
「え〜と…………。」
資料に書いてあった彼女の年齢を自分の年齢から引いた。
「五……くらい。」
「くらい……ですか?」
「子供の頃の記憶が薄いんだよねぇ……。その影響でか誕生日も覚えてないんだよね。」
「そうなんですか。」
その後、カーネや他の訓練兵たちとの訓練は夕方まで続いた。




