第五十八話 名前
「……降参です……。」
彼女ももはやこれまでと諦めたらしく降参した。
内心、少しだけホッとした。
これ以上やり合っていたら怪我をさせてしまいそうだった。
そしたらすぐに救護室にでも運び込んで回復魔法でもかけてもらえばいいのだが、それでも多少、いたたまれない気持ちになっていたことが予想できた。
少しだけ荒れた息を整えながら臨戦態勢を解いた。
「ふぅ……。」
彼女も息を整え始めた。
かなり息が荒い。
レベルがあまり高くないからスタミナのステータスが低く、疲れやすいということだろうか。
そうなるとあそこまでカルドとやり合えたのはやはりレベルなどではなく、技術やセンスということになる。
そういえば、戦闘中に行なっていたあの超高速移動は何だったのだろうか。
明らかにスキルの類と思われるがあそこまで加速するスキルがあった記憶はない。
とはいえ、スキルというのは数々の秘密があり、まだまだ解明されていないものだ。
誰もがスキルを持っているのにも関わらず、何故存在するのか、何故名前が付いているのか、何故それがあるとそれに応じた効果がでるのか、何1つ分かっていないのが現状だ。
まあそんなことは研究者なり哲学者なりが調べることだ。
この場合話しているスキルの秘密というのはその使い方についてだ。
所持しているスキルは効果が分かるのだが隠された使い方や効果も存在する。
さらにはどうやったら手に入るのかが分からないスキルも。
つまりは彼女が未知のスキルを持っていても何の不思議もないということだ。
これらのことを頭の片隅で考えつつもやはりどうしても彼女のことを考えていた。
とても興味深かった。
自分が言うのもなんだがその若さでそこまでの強さに何故なれたのか。
とはいえ現在は一応訓練中だ。
流石に訓練中に聞くようなものではない。
後にでも聞くとしよう。
それはそれとして名前くらいは聞くことにした。
「なあ、君。名前を教えてくれるか?」
すると彼女は不思議そうに数度、瞬きしてから言った。
「カーネです。」
「そうか。カーネか。……覚えておこう。」
最後の一言だけ小さめに呟くようにして言ったが果たして彼女に聞こえていたのだろうか。
その後はカルドと組手をして救護室に運び込まれた面々はそのまま救護室で休ませ、それ以外は普通に訓練をした。
彼女、カーネは少し休憩してからすぐに訓練に加わっていた。
若い奴は元気なものだと思ってから自分の言動がなんとなくおじさんみたいだなと思ってげんなりしたりはあったが訓練自体はつつがなく終了した。
その際に、組手には参加しなかった訓練兵たちの様子や実力も観察できたので初日としては上々だろう。
だが、カルドとカーネの組手が教官と訓練兵の間で行われるような内容ではなかったため、しばらくの間、訓練兵たちが興奮しきっていた。
中々集中しきれない者には鉄拳制裁でも加えようかと考えながらそいつらを見つめたら何故か集中し始めた。
そんなに顔に出やすいのだろうか。
小声で解せぬと何度も呟くはめになった。
というよりも、あんな組手をして彼女が不審がられたりしないかと思ったが何も無かった。
なんなら「さすが彼女だな。」「相変わらず凄い強さだ。」などという会話が微かに聞こえてきた。
その中に「あの教官、彼女相手によく勝ったな」などという会話も混ざっていたのには大いに困惑した。
というよりショックを受けた。
そんなに弱いと思われていたのだろうか。
幸い、そんな心配はその日の夜に払拭した。
夜になり、教官たちが使うために訓練場の隣に建てられている食堂で夜飯を食べているとシンがやってきたのだ。
「おっ。やっぱりここにいたか。訓練兵たち、どうだった?」
「ん? まあ……中々だな。」
「カルドがそう言うってけっこう凄いのでは……?」
「は?」
「いやだって、カルドってめっちゃ強いし。」
「はあ……。というかなんでここにお前がいんの?」
「ああ、そうそう。上官にカルドに資料を渡しといてって言われんだった。」
確かに、左手に紐で纏められた紙の薄い束がある。
受け取って確認してみると表紙に訓練兵一覧と書いてあった。
どうやら訓練兵の名前や簡易的な情報が書いてあるらしい。
確かに、これは渡しておかなければならない資料だろう。
そしてその資料の表紙をめくって一番最初に書いてある情報を見るとカーネの情報が書いてあった。
なんと今年訓練兵になった者の中で首席だったらしい。
特に実技は満点を取っている。
だが何故か注意事項の欄に態度と書かれている
続きを見ると初日に教官をぶん殴ったらしい。
しかもその教官が気絶した後もととめをさそうとして周りに止められたらしい。
自分の顔が引き攣っていく感覚がした。




