第五十七話 組手
二人の戦いはまず、お互いの間合いの読み合いから始まった。
動きがやはり、訓練兵のそれではない。
明らかに実戦を一度は経験した者の読み合いの仕方だ。
少なくともかなり鍛え上げられている
だが実戦の回数をそこまで重ねていないのだろうか、緊張で少し動きが硬い。
間合いでは素手のカルドが負けている。
だが経験ではカルドが勝っている。
カルドもそうなのだが彼女もかなりの慎重派のようで睨み合いから中々抜け出せない。
ここは体裁的にも教官の自分から仕掛けるべきだろう。
一気に懐まで踏み込んで仕掛け――るふりをしてフェイントをした。
フェイントに引っかかった彼女は迫ってきたカルドを裟斬り振りにしようとしてしまったため、振り切った後だ。
そして今度こそ一気に近づく。
木刀を引き戻すよりもカルドが殴るほうが断然、速い。
だが彼女は驚きの行動に出た。
木刀を振ったその勢いそのままにバックステップをしたのだ。
カルドにフェイントをかけられたと判断して、バックステップという選択肢を選ぶまでの時間の異常なまでの短さもさることながらその飛距離も凄まじい。
3メートルは飛んでいるだろうか。
前方で、尚且つ助走をつけたというならレベルにもよるが簡単だ。
だが真後ろにぱっと飛んだのだ。
いくら軽装でもあそこまで飛べるとは。
ある程度は戦闘していてレベルが上がっていたとしてもたかが知れているため恐らくレベルに頼らない部分、つまりは脚力や筋力などをかなり鍛えているのかそもそも体の動かし方が上手いのか、あるいはその両方か。
とはいえ戦闘中にそれらのことを考えている暇はカルドには無い。
さらに一歩踏み出そうとしたが咄嗟に体勢を低くした。
すると一瞬だけ前に頭があった位置に木刀が振り抜かれ、風切音が微かに響いた。
そして、体勢を低くしたまま近づくことで今度こそ懐に潜り込むことに成功した。
完全な零距離。
これなら木刀は上手く振れない。
まさかこれで彼女が格闘術を身につけていたらお手上げだが幸いそんなことはないらしく、その端正な顔からは純粋な驚きと尊敬――そしてこの状況でも衰えていない戦意のこもった眼差しが見て取れた。
この状況でも戦意が衰えないのは褒めるべきことだがさすがにチェックメイトだ。
だが次の瞬間、彼女が消えた。
「なっ!?」
本当に消えたわけではなく、目で追えないほどの速さで動いたことがギリギリ見れた。
カルドも、他の人間も分かるような機会が無かったから知らないがカルドは動体視力がかなり、というよりも天才としか言えないほど優れている。
そんなカルドですら残像のようなものがわずかに見れた程度だった。
微かに見えた残像は後ろへ続いている。
一瞬で後ろに回り込まれたらしい。
今までの彼女の動きを見るにかなりのスピード型のようだがそれにしたって異常な速さで、恐らくは何倍もレベルの高いスピード型のステータスの者すらも越えるほどの速さだろう。
スキルか何かとしか考えられない。
だがその事実に驚愕している暇すらもおしい。
振り向いていたら間に合わない。
半分も振り向かない内に後頭部を木刀で叩かれているだろう。
そのため、カルドはわざと前に倒れ込んだ。
頭の天辺あたりに木刀が掠った気がするがなんとか避けれた。
だがすぐに追撃が来ることは予想できるため、倒れ込む勢いを使って前転して距離をとる。
その際に足の踵で顎を蹴り上げようとしたのだがさすがに彼女の正確な位置が見えない状況ではかすりもしなかった。
そのままさっと起き上がるが彼女は流石の速度で近づき、既に上段の構えで木刀を振り上げている。
確かに上段の構えというのは優秀だ。
最も速さも威力も出る構えだ。
だが、それと同時に大きな隙がある。
胴ががら空きだ。
彼女が振り下ろし始めるよりも速く近づく。
まさか自分からやられに来るとは思っていなかったのかほんの一瞬だけ動きが止まったがすぐに動き始める。
だが、それとほぼ同時にカルドは手を伸ばした。
彼女の手を掴むために。
「えっ。」
彼女はすぐ真正面にいるカルドにしか聞こえないほど小さな驚愕な声を上げた。
カルドの手が彼女の細い手首を掴んだのだ。
当然、この状態では木刀は振り下ろせない。
そして直接掴んでいる状態ならば逃がすことだってあり得ない。
今度こそ勝負有りだ。
バックステップはモンハンの回避距離上昇のスキル積んだ状態の太刀のバックステップ斬りみたいなイメージをしてもらえればいいです
とは言っても自分は太刀使いじゃなくて片手剣使いだったからあまりその動き方に詳しくないのですが……
太刀使いは友達のほうだったんですよねぇ……
モンハンしたことない人はすいません!!




