第五十六話 相対
しばらくすると時間が迫るにつれて続々と訓練兵たちが訓練場に集合しはじめた。
そのため、例の彼女からは目を離すと他の集合している人間を観察することにした。
それから少々時が経ち、全員が集まったようだった。
時計を見ればまだ集合時刻の少し前だ。
「まだ集合時刻よりも前だな……まあいいか。傾注!」
帝都の学校で大抵の訓練はすましている彼らなのですぐにピンと背筋を伸ばし、こちらに耳を傾けた。
「ええ、ではこれから訓練を始める。まずは……俺にかかってこい!」
ちなみにこれ、マニュアルに書いてあることだ。
つまりカルドの教官は嬉々としてやっていたのはきっと気のせいだったのだろう。
多分きっと恐らく。
案の定、カルドたちの時と同じように訓練兵の間でざわめきが起こった。
だが何人かが前に出てきた。
その中に例の彼女がいたことに気づいたが気になっていてもあくまでも多数の訓練兵の一人にすぎない。
気にせずに進めることにした。
「よし、じゃあお前からだ。」
左端のガタイのいい男を指差して木刀を投げ渡すと前に出てこさせた。
ちなみにカルドは素手だ。
別に素手で無ければならないという決まりなどないのだがカルドの教官が剣はもちろんだが素手での戦いを得意としていたため結果的にカルドも素手での戦いが得意になった。
それと、訓練兵との差を見せつけるという意味も込めての素手だ。
「いつでもいいぞ。」
かなり警戒しているのかこちらを観察しながら距離を詰めてきた。
構え方が良い。
隙が少ない。
だがまだまだだ。
体勢を低くすると一瞬で間合いに潜りこみ顎にアッパーを叩き込んだ。
名も知らぬ訓練兵はカルドの動きが予想外だったのか反応する間もなくノックアウトされた。
「次。」
訓練兵の間で驚愕の声が漏れたが前に出てきた、つまりはカルドに挑もうとした数人はまったく戦意を失っていないようだ。
すぐにノックアウトされた訓練兵を他の訓練兵に救護室へと運ばせると次の訓練兵とすぐに戦い始めた。
それから数人の訓練兵と戦ったが全て圧勝した。
中には中々センスのある者もいたがやはり勝った。
カルド相手に長くても十秒程度しか保たなかった。
そして次が最後だ。
木刀を構えるとこちらの動きを一挙一動にいたるまで見落とさないようにと見つめながら出てきたのはあの黒髪の彼女だった。
彼女には最初から興味を抱いていた。
だが訓練兵の中で唯一の黒髪なのも、自分と同じ髪色なのも、関係ない。
彼女の立ち姿一つ見るだけで分かる。
恐らくはかなりの実力者だ。
木刀を持って、臨戦態勢だからこそ意識できるが最初に見た時から無意識にその実力に気づいていたからこそ彼女に興味を持っていたのかもしれない。
「…………!」
木刀を強く握りしめた。
どうやらカルドの雰囲気が今までとは変わったことに気づいたらしい。
中々、勘が鋭い。
別に、彼女に対して本気を出そうなどとは思っていなかったのだがついカルドは力を込めていたらしい。
頭の片隅で素手じゃなければ良かったかもなとかすかに考えながらも既にカルドの思考もまた、体勢と同じように臨戦態勢へと移行していたのだった。




