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悲劇の英雄が死ぬまでの長い長い物語  作者: サン
第四章 隊長時代

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第四十五話 陰謀

諜報部を不審に思うのは決してカルドだけでは無かった。

それ以外にも多数の人間が諜報部への不審感を募らせていたのだった。


「エデル殿。要件は……分かっていましょう?」

「……うむ。諜報部の件であろう。」


エデル騎士団長が悩ましげな表情で額を抑えながら言う。

エコム騎士団長は少し苛立った様子だ。


「単刀直入に言いましょう。最近、諜報部は信頼ができない。」

「それはわしも思っていたことじゃ。恥ずかしながら最近になってからようやく気づいたのじゃがな。まさか直属の部下がそのようなことになるとはのぅ……。」

「直属とは言っても大して関係はありますまい。あくまでも白薔薇騎士団の部署の一つの話……気になされるな。……とはいえエデル殿にも多少責任を問われるでしょうがね。」

「まあ責任は取らねばなるまいのぉ。……ちなみにどう思う?」

「間違いなく裏切りでありましょう。嘆かわしい。」


先程から苛立っているのは帝国に裏切り者が出たからだろう。


「ロッド王国……というよりも例の勢力によるものじゃろうな。しかも奴らといえどそう簡単に諜報部と連絡は取れまい。つまり……。」

「諜報部とあの勢力の間に立つ者がいると……恐らく貴族の誰かが寝返ったんでしょうな。」

「う〜む……まさか貴族がとはな……。」

「今の帝国は腐敗しきっている……軍はまだしも貴族の腐敗は悲惨ですよ。汚職やら裏金やら……政争に明け暮れて政治をまともにしない。……はぁ……。」


エコムは裏切り者である貴族に失望しているようだ。

普段、冷静なエコムにしては珍しく激昂を隠そうともしていない。


「……冷静さが欠けとるぞ。落ち着け。」



それを聞いて苦虫を一度に何匹か噛み潰したような顔になったが少しは落ち着いたようだ。


「……そのようですな。まったく……商人たる者――」

「常に冷静、愛想よく、計算高くあるべし、じゃったか?」

「…………。」


セリフまで言われたことでさらに苦虫を噛み潰した顔になったのは言うまでもあるまい。


「騎士団長の中で唯一、騎士じゃないのはおぬしだけじゃ。おぬしは元商人。先代の騎士団長はそんなおぬしのいついかなる時も冷静な部分や商人独自の視点に活路を見いだしたのじゃからシャキッとせい。」

「……エデル騎士団長には敵いませんな。その通りです。先代には随分と世話になったものですよ……先代のためにも帝国のためにも、やらねばなりますまい。」

「それでいいんじゃ。……裏切り者の特定はできそうかの?」

「諜報部が使えませんからな。かなり厳しいでしょうが……なんとかやりましょう。裏切り者は排除しなければならない。ひとまずはロッド王国領付近の貴族から洗いますかな。一番、接触されやすく、感化されすいですしな……。あとは諜報部と何かしら関係のある貴族ですが……諜報部と関われる者たちは忠誠心の高い者だけ。あまり期待はできませんな。いや、この場合は裏切っていないのだから喜ぶべきですな。」

「なんとか腐敗した貴族を一掃できればいいのじゃがなぁ……中々難しい問題じゃ。我らが皇帝は最近、体調が優れないようじゃから負担はかけとうないしのぅ……。」

「そうですか……まあ自分だけでも仕事はやりきりますよ。帝国のために動くことが私の、先代から受け継がれた義務なのだから。……では。」


そういうと席を離れ、部屋の扉を開けた。

扉をくぐり、閉める直前でエデルが聞いた。


「一つ聞きたい。」

「…………。」

「おぬしは帝国のためになにをするつもりじゃ。」


どう腐敗した貴族の対策をするかという話ではないのはその重い雰囲気でわかった。


「……いつから気づいたのですかな?」

「しいて言えば老兵の勘じゃな。」


エコムがクスクスと口元を抑えながら笑う。


「そればっかりはどうしようもありませんな。」


そしてエコムは短く、一言だけ言った。


「この身が滅びようとも戦い続けるだけですよ。」

「…………そうか。」


そして扉を閉める音だけがその場に響いた。

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