第三十九話 会議
カルドやシンが街にいる間、帝国軍はさらにロッド王国の奥地へと侵攻していた。
それは順調だった。
小規模な勢力を各個撃破するだけですむため損害はほぼゼロ。
補給線も問題ない。
ロッド王国の国内ではいまだに勢力同士での協力をする気配も無い。
奪った領土の占領もロッド王国が内戦で荒れている時に来たために極一部の住民からは状況を変えてくれるかもしれないと歓迎されることすらあった。
まさに順調。
このままロッド王国を滅ぼせると誰もが思った。
だがその頃、ロッド王国内のとある勢力がとある行動を実行していた。
その勢力は軍事力が高いわけでも、政治力が高いわけでも、経済力が高いわけでも無かった。
どれも中途半端。
志も信念も無い。
ただ運良く近くの貴族に勝てて調子に乗っただけの弱い貴族だ。
この内戦に終止符を打てるような者もいない。
ただ、魔法学校と大規模な魔法研究所がある街を支配しているだけだった。
そして数人の優秀な空間魔法使いがいた。
―帝都―
ここは帝都の総司令部。
全ての作戦はここで立てられるといってもいい。
軍事の中心だ。
そして作戦会議室には4人の人間が集まっていた。
「さて、それでは作戦会議を始めましょうや。召集したのはそこのエデル騎士団長なので司会はど〜ぞ。あとここからは敬語は無しで話しましょう。」
重苦しい空気の中、黒色の士官服に身を包んだ男が最初に発言した。
恰幅のいい四十代後半ほどの男だ。
とてもだが戦闘が得意には見えない。
実際、剣も鎧も持っていない。
軽い言動や雰囲気は商人に似ている。
そしてその男から司会を引き継いだ男は目が冴えるような優麗な真っ白の鎧を着ている。
剣も持っていて騎士団長と呼ばれていて、さらには騎士の風格を纏っていることからも間違いなく戦闘が得意なのは分かるだろう。
顎に白い髭をたくわえておりほとんどお爺さんといってもいいくらいの年齢だが背筋はピンとしており隙は無い。
もし暗殺者に今襲われてもすぐに腰の剣で叩き切るだろう。
「この場にこの4人を集めたのはわしのところの諜報部が持ち帰った情報があってのぅ。かなり重要な話じゃから呼んだ。」
「ならさっさと要件を言えばどうだ? こっちだって暇じゃないんだ。」
話を遮って苛立ちを剥き出しにした口調で話したのは派手な赤色の鎧を着た騎士だ。
年齢は四十代前半ほどだろうか。
先程の白い騎士と違って目つきは悪く、目の下にはくまができていた。
なので嫌味でもなんでもなく本当に忙しいのだ。
何せ敵国へ侵攻する際にもっとも苦労するのは彼のいる騎士団なのだから。
「まあまあ、落ち着きましょうよアロガッツ騎士団長殿。焦ってもいいことは無いっすよ?」
軽薄そうな言動なのは灰色の鎧を着た男だ。
鎧と言ってもそこまで重装備ではなくあくまでも軽装だ。
騎士というよりは無精髭が生えているその顔や全体の雰囲気は傭兵のようにも見える。
この4人の中では一番若く、三十代ほどだ。
「ハイツ、貴様は黙っていろ。お前には話しかけていない。」
「へいへい。手厳しいことで。」
ハイツ騎士団長は肩を竦めながら黙った。
険悪な雰囲気が主にアロガッツ騎士団長から流れ出いるがそれを変えようとすぐに話題を振る者が出る。
「そういやうちの参謀がこの前、外国の珍しい菓子持ってきたんですがエデル騎士団長殿はいります?」
「フォッフォッフォッ。貰っておこう。にしてもエコム殿のところの参謀は優秀じゃのう。何かと気がきくしこの前も少々世話になった。後で礼を伝えておいてくれ。にしても外国の菓子なんぞ高かったじゃろう? 代金は払ったほうがいいかの?」
「そこで毎度ありなんて言うほど私はがめつくありませんよ。ハッハッハ。」
二人の会話で空気が険悪から重苦しいくらいにまでは改善したことを確認するとエデル騎士団長は本題に戻った。
「さて、本題に戻るが……どうもロッド王国の勢力の一つが怪しい魔法の研究をしてるようじゃ。」
「系統とかは分かんのか? それを知らんとどうしようもないし。……というか俺をこの会議に呼ぶ必要はあったのかね。俺は、というか灰鼠騎士団は魔物専門で対人戦の話なら門外漢だが……。」
「おぬしの騎士団にしかできんことがあるから呼んだんじゃ。それはそれとして系統は空間魔法とのことじゃ。戦争になる前に少し噂が流れていたがそれと同じだということじゃな。」
「空間魔法……中々珍しい。黒曜騎士団に空間魔法使いはいないから私に何か言えることは無さそうですな。」
「空間魔法は俺の赤竜騎士団でも使えるやつはほとんどいねぇ。空間魔法使いはエデル騎士団長の白薔薇騎士団が一番保有してるんじゃねえの?」
「まあの。魔法の内容自体はこちらで調査中じゃし別に魔法についての意見なんぞ求めておらん。魔法のことを聞きに来たのなら魔法使いにでも聞くわい。それで話したいのはその魔法の生み出すものじゃ。その魔法の効果も使い方も分からんのだがその魔法が原因でその勢力は力を強めておるようなのじゃ。」
「具体的にはどのくらいですかね? エデル騎士団長殿。」
「……半年で5倍以上の戦力になった。」
「5倍!? ロッド王国の成長具合は凄まじかったがあれでも数年はかけている。なのにその勢力は半年でそれほどですか……。」
「情報は正しいんだろうな? とてもだが信頼できねえがな。」
「とはいえエデル殿が言うならあってんじゃねえの? 信頼に欠ける情報を言うような人じゃないでしょ。」
「そして情報には続きがある。どうやら新しい戦術までをも生み出したらしい。」
「俺の赤竜騎士団の騎兵隊が一部それで壊滅したからな、それは俺も知っている。」
「赤竜騎士団の騎兵隊がですか……? それは余程の事態ですな。赤竜騎士団の騎兵隊は精鋭中の精鋭……それを壊滅させるとは。」
「どうやらドラゴンに乗って空から攻撃されたらしい。」
「ドラゴン……。」
「それで俺を呼んだのか。確かに魔物だな。確かに。ドラゴンかぁ……。ドラゴンかぁ……!」
「荷が重いとは分かっているが……できそうかの?」
「できないとは言わんさ。俺たち灰鼠騎士団は対人戦なら足手まといだが対魔物ならプロだという自負があるからな。問題は人が魔物を操っているということだ。それなら対人戦と変わらん可能性がある。まあどこまでドラゴンを乗りこなしているかだな。……ちなみに数は?」
「百以上は確認ずみとのことじゃ。」
「多いな……多いは多いが百ならやりようはある。まあなんとかするさ。」
「にしたって空間魔法をどう使えば戦力を上げれるんでしょうねぇ。」
「結局、そこは問題だろうな。」
「そればっかりは議論してもどうしようもあるまい。今は敵のドラゴンをどうにかすることを話そうじゃないか。」
その後、会議で灰鼠騎士団の一部が黒曜騎士団や赤竜騎士団と行動をともにすることが決まった。




