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悲劇の英雄が死ぬまでの長い長い物語  作者: サン
第三章 騎士時代

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第三十話 月光

偵察部隊は戦闘の体勢に移り、盾を構えたためレンジャー兵に一方的に撃たれることは無くなったものの、戦況は芳しくなかった。


「うぐっ!」

「援護してくれ!」

「くそっ! ちょこまかちょこまか!!」


レンジャー兵は森から隠密しながら一方的にクロスボウで撃たれており、さらには近づけば圧倒的な速度で逃げられるためどうしようもなかった。


「班長! 完全に囲まれています!」

「くっ……! レンジャー兵がいると知ってたら炎魔法を使える人間を連れてきたというのに!」


それを聞いて騎士の一人が言う。


「炎魔法に代用になるようなものは無いんですか!?」


だが班長が反論する。


「無い! 松明くらいしか用意できないしそれで炎魔法の代用になると思うか?」

「それは無理ですね……。」


矢を弾ける装甲の少ない軽装なので矢がかなりの脅威だ。

相手の腕とクロスボウの精度を考えると無理に突破しようとすれば頭を撃ち抜かれるだろう。

現在は唯一スキル「暗視」を持っている班長が暗闇の中、なんとか弓で反撃しているが牽制程度にしかならない。


その時、1本の矢がカルドの頭目掛けて飛んできた。

ずっと集中していたため精神的な疲労が溜まり、わずかに油断して盾を少しだけ下げてしまったことで頭が盾の陰から出てきたのだ。


矢を放ったレンジャー兵は殺ったと思った。

カルドも殺られたと思った。


だが次の瞬間、カルドは反射的に剣を使って矢をはたき落としたのだ。

自分でも何故できたのだろうと思うほどにギリギリだったし、目の前まで矢が迫ったことで心臓がうるさいほど脈打っている。


だが今のをまたできるらならばあるいはこの状況を打開できるのではと思った。

そして少し悩んでから班長に言った。


「……班長、もしかしたら包囲を突破できるかもしれません。」

「何?」

「自分が先頭で突っ込みます。……あとできればクロスボウとか投げナイフとか……無ければ槍とかでいいんでありませんか?」

「クロスボウは無いが投げナイフならある。」


そう言うと投げナイフを渡してきた。


「自分が前方のレンジャー兵をやります。その穴から脱出したら自分が殿になって逃走します。」

「お前の負担がかなり大きいが……自分から言い出したってことは策があるのか?」

「はい!」


カルドの力強い声を聞くとしばらく悩んでいたが行くことを決断した。


「どうせしばらくしたらレンジャー兵以外の兵も来るかもしれん。その前にやるべきだろう。……全員、話は聞いたな? カルドに続くぞ!」


カルドは先程から暴れている心臓を深呼吸して落ち着かせると前方を見据え、一気に走り出した。


レンジャー兵の間で少しだけ困惑の空気が流れた。

苦し紛れでせめて相討ちしようと来たのだろうかと思いながら一人の兵士がクロスボウの矢を先頭のカルドへと撃った。

暗闇の中から放たれた矢に気ずく間もなく貫かれると思った次の瞬間、カルドは矢をはたき落としていた。


「なっ!?」


撃った兵士が思わず驚きの声を上げる。

実はカルドは月の光が矢の鏃で一瞬反射した光を見てはたき落としたのだ。


さらにもう一度矢を放つ。

今度は近くの兵士ともタイミングを合わせたため同時に四本だ。

だがカルドはその内二本は盾で弾き、残り二本は剣ではたき落としていた。


(そんな馬鹿な! こうなったら距離を取りながら動けなくなるまで――)


その時、カルドの手元が一瞬だけ光った。

それに気づいた時にはレンジャー兵の心臓には投げナイフが投げつけられていた。


矢が飛んできた方向から敵の位置を予想して投げナイフを投げたのだ。


そうして偵察部隊は包囲を突破した。

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