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悲劇の英雄が死ぬまでの長い長い物語  作者: サン
第三章 騎士時代

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第二十九話 接近


しばらくの間、偵察任務をしていると騎士の一人が小さな声を上げた。


「不味い! 敵だ!」


その場に緊張が走る。

そちらの方向を見れば離れた場所に大量の光が見える。

松明か、ランタンか。

どちらにしても隠密行動している味方の偵察部隊が目立つ炎や光を使うわけが無いので敵なのは確定だ。

もし近隣の村の狩人にしてもあんなに多いわけが無い。


「何故こんな場所に敵がいるんだ!」


騎士の一人が小声ではあるが焦燥の声を上げる。


「班長! まさかバレたんでは?」


班長が状況を冷静に分析しながら言う。


「いや、それは無い。この距離、この暗さ、しかも森から偵察という条件が揃っていたのにバレるなんて余程高いレベルのスキルをフル活用しないと厳しいだろう。そこまで上げている奴が偶然いてこちらを偶然見たなんてほぼありえない。何よりもあの部隊はこちらに向かってきてるようには見えない。」

「ならば隠れていれば見つかりませんかね?」

「……いや、偶然とはいえこの距離まで近づかれたら索敵用のスキル持ちのスキルレベルによっては場所が特定されるかもしれん。撤収するぞ。」


偵察部隊の面々はそれを聞くとすぐに敵部隊とは反対方向へ逃げ始めた。

この暗闇ならば索敵用のスキル持ち以外は警戒しなくていい。

しばらく森の中を歩き続けた。


そしてふと後ろを振り返ると敵部隊は遠くへ離れていくのが見えた。

無事に逃げ切れたようだ。

その事をカルドが報告する。


「敵部隊は反対方向を行きました。この距離ならさすがにバレないでしょう。」


それを聞いて他の騎士たちもはるか後方で反対方向へと遠のいていく光を見て安堵した。

班長も安堵の溜息を漏らした。

あの松明の数ならかなりの数の部隊だっただろうしそんな部隊に出くわせば抵抗する間も無く数の暴力で押し潰されていただろう。


「よし、迂回しながら一旦退却してその後で出直――」


次の瞬間、班長のすぐ真横にあった木に深々と矢が突き刺さった。


「なっ!!」

「て、敵襲!?」

「どこからだ!?」

「早く隠れろ!! 矢が降ってくるぞ!!」


すぐさま木に隠れると遠くから大量の矢が降ってきた。


「どういうことだ!? なんで位置がバレている!」

「さっきの部隊が戻ってきたのか!?」

「いや、あの部隊が来たにしては早すぎるしそもそもまだあっちに光が見える。」

「まさかあの部隊は囮か! 生存優先で退却!! 背中を撃たれるなよ!」


班長の素早い状況判断に従い森の中を全力で逃げ始めた。

先程から矢が何本も降ってくる。

明らかに数人程度ではなく、小さな部隊くらいの人数で撃ってきている数だ。


「追いかけろーーー!!」


その時、森に追撃の号令が響いた。

もちろん逃げる側が追いかけるわけが無いので敵部隊だろう。

一瞬ちらりと後方を見ると森林戦用なのか緑色に皮装備を染め抜いた兵士が森でも取り回しのしやすい短めの剣を片手に、背中にはクロスボウを背負って突撃してきている。

三十人はいるだろう。


「レンジャー兵!!」

「なんだと!?」


レンジャー兵とはロッド王国特有の兵科である。

森林戦に特化しており、森林での立ち回りで勝てる者はいないとまで言われている精鋭だ。


「くそっ! いつもは西に行ってたが西と戦争してないからこっちに呼んできやがったのか!」


レンジャー兵は多彩なスキルを持っており、足場の悪い森林でも素早い動きで迫ることができる。


「森なのに何てスピードだ!」

「追いつかれます!!」

「仕方ない! 迎撃する!」


騎士たちは焦燥の表情を顔に浮かべながらも武器を構えるのだった。

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