第二十一話 開戦
展開が速い?
気のせいですね。
「…………大丈夫か?」
カルドが死んだ魚の目になっているシンに声をかける。
「大丈夫大丈夫大丈夫。」
「……返事が上の空なんだよなぁ……。」
だがそれも仕方ないかとカルドは溜息をついた。
何せ、戦争の1週間前に騎士になって国境勤務になったのだから。
そう、騎士になった1週間後、戦争は始まった。
ヘクタ帝国がロッド王国へ宣戦布告したのだ。
「さあて…………実戦だ。」
そして現在、ヘクタ帝国軍の前にはロッド王国の軍が立ちはだかっていた。
「何が悲しくて前線勤務なんだか。せめてケルグ要塞勤務にしとけよ、近いんだからさ……! な〜んで前線に到着した当日にロッド王国に攻めんだよ……。」
未だに愚痴を言うシンを嗜めながらカルドも気分は最悪だった。
戦争が始まった直後の戦闘はお互い準備万端なので最も多く兵士が参加する激戦となる。
当然、死亡率も高いのだ。
おかげで
現状の全体での戦力は以下の通り。
ロッド王国、二百五十万。
ヘクタ帝国、百二十万。
尚、ロッド王国の兵数はあくまで推定であり、最低で二百五十万というだけである。
これだけ見てもかなり不利に見えるが実際のところ、ヘクタ帝国は質にも懸念が生じる。
ロッド王国と違い、騎士を除けばヘクタ帝国に常備軍というものは存在しない。
騎士以外は徴兵された元農民が大半なのだ。
ヘクタ帝国軍、百二十万のうち、正規兵(騎士)は四十万、民兵八十万。
しかも正規兵のうち、十万は灰鼠騎士団。
灰鼠騎士団は対魔物のスペシャリストだ。
戦えないとまでは言わないがそこまで対人は得意でない。
残り三十万のうち、二万が白薔薇騎士団。
彼らも帝都の防衛が主任務なので戦闘には基本的に参加しない。
つまり今回の戦争に主に参加するのは赤竜騎士団の十万と黒曜騎士団の十八万だ。
それらとその他の徴兵された兵士たちで部隊を構成して、指揮をしやすくしたり、役割を分担するために細かく部隊を分割したりしている。
ちなみに増援は無い。
傭兵などは負けそうな国に雇われるわけが無いので論外。
逆に相手は傭兵の分が増える可能性が多いにある。
こんな状況でヘクタ帝国が宣戦布告したのには理由がある。
まず1つ目。
ロッド王国に総兵力は完全に負けているが実のところ、ロッド王国は西方諸王国連合なども警戒しなければならないため二つに兵を分けるしか無い。
運が良ければ西方諸王国連合がロッド王国と戦争を始める可能性すらありえる。
西方諸王国連合はロッド王国に領土をかなり奪われているため報復する機会を待っているのだ。
そして2つ目の理由。
ロッド王国は現在、兵士を前線にあまり展開できていない。
なぜならほんのついこの前までロッド王国では開戦派と保守派の政争が起きていたからだ。
それは国民の間でも普及しており、内戦とまではいかなくてもデモが頻繁に起きており、その対策に兵を各地に散らばせているのだ。
さすがに宣戦布告されたら政争どころではなくなるので戦争の準備に移るだろうが後手に回るので準備に時間がかかるだろう。
「上層部の読みは当たったか……。」
「そうみたいだね。」
現在、ヘクタ帝国軍の前にいるロッド王国軍はそこまで多くはない。
数はほぼ互角に見える。
実際、大した差は無いだろう。
ヘクタ帝国の作戦は主力は敵の大部隊を倒すことと敵要塞の破壊のみに専念して、残りの部隊で残党狩りや街の占領、敵別働隊の足止めと国土の防衛などを行うというものだ。
こちらの主力部隊の構成は赤竜騎士団十万と黒曜騎士団九万と民兵二十一万の計四十万。
全体が百二十万なので三分の一が参加しているとなるととてつもない数だ。
小国、それどころか中規模国家相手ですら容易に滅ぼせる構成だ。
そしてヘクタ帝国の戦力的にこれが出せる限界だ。
他の部隊は各地で防衛していたりなんやらかんやらでここにはいない。
仮にもしこの部隊が壊滅したらヘクタ帝国が滅びかねないくらいには戦力を投入している。
そしてヘクタ帝国軍に対するのは目の前にいるロッド王国軍五十万。
こうしてこの戦争の最初の戦闘は総勢九十万の兵が参加する大合戦になるのだった。




