第十九話 予感
ワイバーンとの戦いから少し後のこと。
世界は変わりつつあった。
「聞いたか? あの話。」
「もちろん聞いた。」
「どうなると思う?」
「う〜ん。できれば何も起こらなければ良いけどね……。」
シンの言葉を聞いてカルドが溜息をつく。
「さすがにここまできて何も無いなんて無理がある。やっぱ起こるだろうな。戦争。」
「もう準備も始めている。今更止められない……か。」
2人揃ってもう一度溜息を出した。
こうなった原因は遡ること少し前のある日。
このヘクタ帝国の帝都で事件は起こった。
――――――――――――――――――――――
「きゃあああぁぁぁ!」
帝城で女性の悲鳴が響き渡る。
帝城で皇帝を守る任に就いている白薔薇騎士団はすぐにメイドの悲鳴だと気づき、すぐに駆けつけた。
そこには皇帝が血を吐いて倒れていた。
「なっ!?」
騎士たちにも動揺が走る。
「何をボサッとしている! 回復最優先! 帝城は封鎖しろ!」
隊長の声で百戦錬磨の騎士たちはすぐに皇帝に回復魔法をかけるとメイドに事情を聞いた。
「何があった!」
しばらくは混乱で何も話せなかったが何度も聞くと掠れる声で震えながら途切れ途切れで答えた。
「食、事をとって、いた、ら突、然、倒れました。」
それを聞いて騎士たちは皇帝に解毒魔法をかけた。
すると効果が出てきたのかみるみる皇帝の顔色が良くなっていった。
ひとまず一命を取り留めたようだ。
それを見ながら騎士たちは安心するとともに不安を覚えた。
誰がどう見ても皇帝に毒が盛られたのだ。
盛った相手が誰であれ間違いなく大きな動乱がこの国を襲うだろう。
そして優秀な騎士団の調査によって時間はかかったものの犯人、及び暗殺を指示した黒幕は判明した。
隣国、ロッド王国だ。
おそらく、前回の戦争の決着をつけようという魂胆だろう。
その下準備として暗殺を決行したのだ。
帝国はすぐさま軍をロッド王国との国境沿いに配置した。
そしてロッド王国も仕掛けた側であるからに当然、国境に軍を敷いていた。
お互い、宣戦布告こそしていないがいつ戦ってもおかしくない状況になるのだった。
――――――――――――――――――――――
カルドが頭を抑えながら言う。
「俺たちも実戦投入か?」
「多分ね。けど場所的にも練度的にもケルグ要塞とかの防衛に当たるんじゃないかな?」
「そう思う根拠は?」
「そもそも位置的に一番近い重要拠点がケルグ要塞っていうのと自分たちはあくまでも新兵。練度は低いから激戦区になる前線には投入されない……と思いたい。多分、数が重要になる防衛戦とか後詰めとしてとかで使われるんじゃないかな?」
「成る程ね〜。」
カルドがふと何気なく言う。
「そういえば。ケルグ山脈ってなんで重要拠点なんだ?」
「ん?」
「だって地形的にはどう考えてもここはそこまで重要じゃあない。攻められると不味い都市も無ければ交通の要所でもない。なんならロッド王国との国境ですらない。ロッド王国からここに攻めるには国境を突破して迂回してくるか海から攻めないといけないからわざわざ攻めるには面倒すぎる。守らないといけない理由があるにしても海岸や国境に軍を集めるべきだ。わざわざ内陸にするのはなぁ……。海際で守るほうが断然守りやすいし。」
「ああ、そういうこと……。それには理由があってね。」
そう言いながらシンは近くの街道を通っている馬車を指差しながら言った。
「あの馬車、何を積んでると思う?」
「は? そりゃあここ通るってことはケルグ要塞に運び込んでいる物だろ? それなら武器とか食料だろ。」
「半分正解。」
「半分?」
「武器は正解。違うのは運び込んでいる場所。……あの馬車どの方角に向かってる?」
「どの方角って……あっ!」
「そう、あの馬車は東に行っている。まあ正確には東に迂回してロッド王国との国境に行く。つまり――」
「ここは言うなれば軍事拠点ではなく鉱業が発展した鉱山街と言うことか。」
「その通り。ケルグ山脈。特にケルグ要塞のあるケルグ山脈中央は良質な鉱石が豊富にある。それこそ採り尽くせないほどの。だからこそ鍛冶も盛んに行われている。帝国はこの巨大な工房を失ないたくないんだ。」
「……多少、国境の戦力を削ってでもか?」
「そう。なんせ帝国の武器の半分はここで作られている。」
「半分!? それはとんでもないな……。」
「しかも量だけでなく質も凄いときた。しかも魔物と地形が原因で取れてないだけでもっと多くの資源がある。おまけに宝石も取れるから帝国の財政を支えているんだ。ちなみに海際で守るほうが良いっていうのだけどもちろん海際にも戦力は置いてるし要塞もあるよ。ここはその要塞がピンチの時に戦力を送ったり万が一、その防衛線が突破された時にここまで防衛線を下げるためなどの理由があるんだ。だからケルグ要塞で守るわけじゃない。」
「成る程なぁ〜〜。」
「まあ食料はこんな寒いところじゃ取れないからそれだけ運び込んでるよ。……まあケルグ山脈はとても重要なんだ。」




