第十六話 撃退
「今のは何だ……!?」
興奮冷めやらぬ様子でざわめきが起きる。
明らかにとてつもない力を持つであろう魔物が出たのだから当然だ。
指揮官が叱咤し始めたことで段々と落ち着いてきた。
だがその時、遠くから何かの鳴き声が聞こえた。
声が聞こえた方向を見ると空から何かが飛んできているのが見えた。
「ワイバーンだ!!」
ワイバーン、それはドラゴンの劣等種の総称である。
ドラゴンよりも小さく、賢くもなく、魔法なども使えなければ炎も吐けない。
だがドラゴンは単独、多くても番でしか行動しないがワイバーンは基本的に群れで行動するという厄介な特性を持っており、ドラゴンと比べても遜色無いレベルの大きな翼による飛行能力は時にドラゴンをも越える速さとなる。
遠くに見えるがワイバーンならすぐにここまで来るだろう。
つい先程の大蛇の上空を旋回していた群れだろうか。
ワイバーンはケルグ山脈では高い飛行能力が原因で縄張りが広いのと高い索敵能力のせいで遭遇率が高く出会うこと自体はそこまで珍しくない。
だがそれはあくまで山脈の奥のほうでの話だ。
こんな浅いところまでワイバーンが出ることは無いはずだ。
つまりワイバーンと遭遇する可能性など考慮していない。
0%では無いので最低限の訓練は施されているが所詮はつけ焼き刃の戦術だ。
「うわあぁ! ワイバーンが来るぞ!!」
「十匹はいるぞ!」
「落ち着け! 対空陣形だ!」
指揮官が指示を出したもののただでさえ実戦経験の少ない新兵が突然の予想外の襲撃で落ち着いていられるわけがなく既に恐慌状態の一歩手前だ。
ワイバーンは一匹でもCランク上位の強さ。
つまりは小さな町は滅んでもおかしくない。
十匹ならばAランクはくだらない。
Aランクなら大きな街が滅ぶほどでとてもだが新兵しかいない小さな部隊が相手できるような存在では無い。
一部の新兵は既に逃げ出していた。
逃げ出さなかった新兵たちは怯えながら必死の形相で弓を構えると一斉に放った。
ワイバーンの群れの先頭にいた個体に集中砲火が刺さる。
だが大半の矢は弾かれ、かろうじて刺さった矢も大した効果は無さそうだ。
少なくともまだ元気に飛び回っている。
それを見て絶望した新兵がさらに逃げ出す。
そこからは乱戦だ。
もはや戦いとすら言えないような代物だったが。
陣形も組めずに逃げ回りながらどんどん追い詰められていく。
次々と負傷者が増える。
指揮官だけはさすがの腕でワイバーンを相手にたった一人で立ち回っているが決め手に欠けている。
「おい、シン! なんとか撃ち落とせ! 速すぎて俺じゃ当てらんねえ!」
「無茶言わないでくれ! 目にでも当てないとこんな矢じゃ落とせないよ!」
「じゃあ目に当てろ! 落ちてきたら俺が斬り殺す!」
「努力する! だけど集中できないからワイバーンの気を引いておいてくれ!」
それを聞いてカルドが囮になる。
ワイバーンは尻尾の先に毒がある。
解毒薬はあるが量が少ないので極力盾で防ぐ。
だがワイバーンのほうが当然ながら力が強い。
いつ突破されてもおかしくない。
その時、矢のうちの一つがワイバーンの目に吸い込まれるようにして命中した。
ワイバーンは突然視界を半分失ったことでパニックになり墜落してきた。
「よしゃあ! 俺の出番だ!」
カルドはそういうとワイバーンに斬りかかる。
だがワイバーンの必死の抵抗で近づけない。
また飛び去られたら成すすべが無い。
「加勢する!」
「ありがてぇ!」
周りの人間も墜落したワイバーンを囲むとワイバーンを抑え込み始めた。
「くたばれええぇぇーーー!!」
そしてカルドの剣がワイバーンの心臓へ突き立てられていた。
血が吹き出し、最後に微かな断末魔を響かせるとワイバーンは絶命した。
「よし! この調子で殺していくぞ!」
カルドとシンの活躍を見て冷静になった新兵たちが集まり、連携を取り始める。
しばらくするとワイバーンは半分ほどが永遠に動きを止めていた。
そしてそこまでいくとワイバーンたちはリスクのほうが高いと判断したのかどこかへ飛び去っていったのだった。




