第十二話 下積み
作戦を説明された次の日の早朝、新兵たちは今までの訓練用ではない真剣を持って山脈を突き進んでいた。
今回の作戦の内容はこうだ。
山脈のかなり浅いエリアに大量発生しているコウモリ型の魔物の撲滅を目標としており、まずはその巣穴になっている洞窟を探し、その後その洞窟の入り口を封鎖。
その後は中に油などを流し込んで火を付けるだけだ。
洞窟で火を付けると毒が出るのは有名な話だ。
火が奥の方まで燃え移らなくてもその毒で死ぬだろう。
ちなみにこの作戦が新兵に任された理由はまず魔物自体がとても弱く一匹ならFランクに分類されるほどだ。
ちなみにFランクは訓練もされていない普通の成人男性一人でも多少怪我しながらだが倒せるくらいの強さだ。
とはいえ数が多いため定期的に間引かないといけないのだ。
もう一つ理由があり、黒曜騎士団は現在、山脈のもっと奥深くでより危険な魔物を退治しているのだ。
なのでこの作戦は人手がいるため他の任務で出払っていて人手不足の黒曜騎士団ではすぐには厳しい、だが麓の村に被害が出るのは看過できないということで残っていた新兵がやることになったのだ。
麓なのでそこまで危険な魔物はいない。
そもそも軍団に積極的に襲いかる魔物もいない。
結果的にほぼ遠足だ。
少々地形が厳しいという違いだけはあるが。
「重い…………。」
「なんで俺たちが運ぶんだよ……! 普通、馬車とかでは!?」
「地形が地形だから仕方ないさ……諦めろカルド……。」
今回の作戦はコウモリ型の魔物の討伐でありその魔物のいる洞窟を封鎖することで一匹も逃さずに倒そうという魂胆なのだが封鎖するための柵や洞窟に行くまでの間の予備込みの不味い食料、洞窟に流し込む油などをを持っていかなければならない。
残念ながらこの山脈は大半が手つかずなので道はほとんど無い。
しかもコウモリ型の魔物のいる洞窟は道からかなり外れている。
そして馬車は整備された道でないと使えない。
もちろん流石に全ては持っていけないので山岳など悪路でも進めるロバを連れてきている。
多少はロバに任せられるがそれでもある程度は人間が運ばなければならない。
こんな悪路でしかも重荷付き、おまけに遠出の経験皆無の新兵、進行は決して早いものでは無かった。
実戦で同じ状況、同じ速度での進行なら致命的だがこれは緊急性の少ない任務だ。
今のうちに慣れとけという意味もあるのだろう。
それはそれとしてとても重い。
予備を含めた大量の食料と水。
防具(重装兵はさすがにいない)、武器(大剣などの重い武器を使う兵士は悲惨)、相手は空を飛ぶコウモリなので万が一洞窟から逃げ出した時用の弓と矢(矢じりが金属なので地味に重い)、などを持っている。
「ヤバい……死にそう……。」
「シーーーン!!!」
シンはカルドと違いパワータイプというよりもスピードタイプなので力が弱い。
なのでとてもつらそうだ。
ちなみに話は変わるがカルドは片手剣と中型の丸い盾、シンは両手でも使えるサイズの片手剣と予備の何かと使える短剣、そして2人とも長弓と矢を多少持ってきている。
弓は基本使わないが使えていたほうが良い武器だ。
防衛戦では一人の剣を持った腕ききの正規兵と弓の多少使える民間人では価値に大差は無い。
結局の話、よほどの強さでない限り遠距離攻撃のほうが勝つのだ。
しばらくして夕方になりようやく休憩時間になった。
テントを張り、この山脈は夜はかなり冷えるので最優先で焚き火を付け始める。
シンは見るからにホッとしている。
「ようやく休める……。」
「そんなこと言ってないでさっさとテント張るの手伝え! 座り込むな!」
カルドの怒声に渋々シンも手伝い始め手早くテントが立てられた。
「食料を食べていいとさ。」
「やった!」
実はカルドとシンではシンのほうが食い意地を張ることが多い。
性格的には真逆なので知らない人間にはよく驚かれている。
「シェフ、カルド! 今日のメニューは?」
「シェフ……? まあいいか。ええ、今日のメニューは……。」
シンの言動に怪訝そうな顔になるが気を取り直してバッグから今日の食料を取り出す。
「1つ目、歯が鍛えられる素晴らしい定番食料、
黒パン。」
「ようは滅茶苦茶硬いパンということだよね? あれ歯が折れそうなくらい硬いんだよなぁ……」
カルドはシンのツッコミを無視して続ける。
「2つ目、砂糖たっぷりのドライフルーツ。」
「甘ったるいあれかぁ……甘すぎて苦手なんだよね。砂糖漬けにしたら腐りにくいし糖分確保のためとはいえ尋常じゃないくらい甘いんだよね……。」
「3つ目、とても安くて自然の味のするスープ。」
「具の少ない味の超薄いスープでしょ? まあ黒パンを浸して柔らかくするのに使うから良いんだけど。」
「4つ目…………これ飲んどきゃ数日は何も食わなくても良い最強飲み物!」
「ただの水でしょ!? 微妙な間の時にどう取り繕うか悩んだよね!?」
「うるせぇ! 客は黙って食っとけ!」
「ひでぇシェフだ!! 客に黙れとはなんだ!」
「というかそっちのほうが食い意地張ってんだから文句言うなや!」
結局その後、もそもそとした黒パンを無言で食った。




