第百十七話 剣盾
―カーネ視点―
氷剣が1本、首筋を掠めていき、その冷たさと、もしもう少しズレてたら死んでいたかもしれないという恐怖に背筋がぞわりとした。
足がふとした瞬間に竦んでしまうのではないかと感じる。
そこでふと、カルドを見ると思わず足が止まりかけた。
さすがに止まったら死ぬので止まらなかったが、それくらいは驚いた。
カルドは、カーネよりも2倍近くも多くの氷剣相手に立ち回っていたのだ。
しかもカーネと違ってスレスレで避けるということはない。
スレスレで避けるというのは体こそ、あまり動かさないので疲れにくいが、集中するので精神的に疲れるし、何よりリスクが高すぎる。
つまりはあちらの余裕を持った回避のほうが余程理想的な避け方だ。
だから、あれほどの数相手に立ち回っているのにまったくハラハラとした感じがしない。
見てて安心できる戦い方だ。
それに、綺麗な戦い方だ。
思わず見惚れて死にかけるところだった。
立ち回りが素晴らしい剣士というのは踊るように戦うとよく言うが、カルドはまた別だ。
踊るように戦う剣士は回るように、柔らかく、流れるように立ち回り、避けていくがカルドは盾を主体に動いている。
ハラハラしない理由はこれもあるのだろう。
避けるのではなく防ぐ。
だから、激しく動き回らず、そのため疲れにくく隙も少ない。
避けるとは違って盾で受け流してるから、多少ズレても盾で完璧には受け流せないというだけで、受け流せることには変わらないし、弾くこともできる。
避ける立ち回りでズレたら斬られて即死なのでこれは明確な差だ。
やはり、カーネはカルドを心の底から尊敬する。
だって彼は理想的な剣士だ。
剣と盾を使う剣士が目指すべき極致に片足を突っ込んでいる、あるいは既に辿り着いている状態の剣士が彼だ。
基本に忠実でありながら、柔軟で、堅固で、完成された剣技。
尊敬しないわけがない。
カーネは盾を使わないからまったく同じようにできたりはしなくても参考にできることはあるのだ。
戦闘のさなかで、カーネは強くなっていっていた。
もちろんそれはカーネの才能でもある。
だが、カルドの本気の剣技は、見るだけで参考になるほど凄いのだ。
カルドが氷剣の大半を受け持ってくれている。
きっとそれだけ警戒されているのだ。
ならば、負担の少ないカーネがカルドを援護するのは当然だ。
なので、カーネはカルドの背後の氷剣を次々と落としていく。
カルドを狙っているからかどれも隙だらけだ。
これでは自分の手柄とは言いづらいなと思いながらカルドを見ると、盾で氷剣を叩き壊していた。
いくら氷剣が脆いと言ったって、盾で簡単に壊せるようなものではない。
全速力で突っ込んでくる氷剣を完璧な角度、完璧な力加減、完璧なタイミングで盾で弾けば壊せるのかもしれないが、当然それは容易なことではない。
体感時間ではかなりの長時間、戦っていると、氷剣の総数が減っていることに気づいた。
補給が間に合ってないのだ。
カルドがチラリと後ろを振り向き、すぐに戻したのを見ると、どうやら他の騎士たちも大丈夫そうらしい。
そして、こちらを見るとアイコンタクトしてきた。
あのアンデッドに攻撃するのだろう。
カタナを握る手に、改めて力が入った。
カルドに、置いていかれないように、足手まといにならないように、しなければ。




