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哀しいどこにでもある物語  作者: サン
第七章 動乱時代

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第百十五話 殺意


「カーネ避けろ!」


そう叫ぶとカーネはさすがの反応速度で飛び退いた。

高速で飛んできた物体は、カーネが先ほどまでいた空間を通り過ぎ、地面に深々と刺さった。


「氷の剣……!」


探してたアンデッドの攻撃方法はこれに違いない。


すぐに視線をカーネに移す。

無事そうだ。

カタナを抜いてすぐに体勢を整えており、混乱している様子もない。


ならばとすぐに攻撃が飛んできた方向に視線を向けると、1人の女が立っていた。

真っ黒な服を着て、杖を持ち、フードを深々と被っている。

周りには氷の剣が何本も宙を回転しながら浮いている。

あれを飛ばしたのだろう。


そしてその体からは黒い靄、瘴気が漂っていた。

明らかに人間ではなくアンデッドだ。


「まさか人のアンデッドだったなんて……騎士団長?」


カーネが話しかけてきたが、カルドに答える余裕は無かった。


あの姿、見覚えがある。

それは当然だ。

何度も何度も夢の中で見た。


「ネロ……!!」


挿絵(By みてみん)


「騎士団長!」


こちらの様子に気づいた部下たちが慌てて武器を持って走ってきている。


だが、相手のほうが早かった。


杖をほんの少し振り、それに合わせて氷の剣が一斉に飛んできた。


すぐに避けようとしたが、速いし、なにより数が多い。

避けきれないと判断し、すぐに盾を構えた。


「ぐっ!?」


重い。

しかも盾で受け流されたというのに宙に浮きながらこちらを切り裂かんと飛び回り始めた。

ただ飛ばすだけでなく動きを制御することができるらしい。


しかも、一つ一つがかなり素早く、重く、鋭い一撃だ。

まるで騎士を何人も同時に相手しているかのようだ。


とはいえ、対処の難易度は普通の騎士とは段違いだ。

こっちは何せ剣だけが浮いている。

本来狙うべき使い手がいないわけだし、小さくて当てづらい。

魔法のせいで、軌道も普通の剣術とはわけが違う。

急に加速したと思えば、瞬時に停止して、ほぼ直角に曲がる。


それを同時に5本も相手させられている。

全方向からの集中放火。

かなりやりずらい。


周りではカーネや部下たちも氷の剣に苦戦しているようだ。

剣はどうやら何本でも出せるらしい。

なんとか攻撃が当たって壊せてもすぐに補充される。

とてもだがキリがない。


「援護しろ!」


そう言うとすぐさま部下が数人飛び出してきて、カルドの周りを飛び回っていた剣に斬りかかった。

一瞬とはいえカルドの周りから剣が消え、余裕ができた。


その隙をついて一気にアンデッドへと接近する。

近距離から見て、やはりネロだと確信しながら、剣を振り上げた。

なぜここにいるかは分からないがこちらを攻撃してきた以上、敵なのは間違いない。


その時、フードで隠れていた目元が見えた。

その顔は、確かにネロだった。

だが、その目は、奥で轟々と炎が燃え盛っているかのようだった。

怨嗟、敵意、嫉妬、復讐、怨念、憤怒、哀惜、後悔、苦渋、憎悪、嫌悪、殺意、軽蔑、蔑称、怨恨、不安、忌避、固執、執着、不信、猜疑、侮蔑、傲慢、そんな、普通はどれか一つ、多くても二つ三つしかないような負の感情を纏めて燃やしているかのような炎だった。


そこで怯みこそしたものの、剣はいつも通りの速さ、重さで振り下ろされた。

だが、すぐに横から氷の剣が集まり盾のようになる。

防ぐつもりらしい。


だが、先ほどから戦ってよく分かっている

どうやらこの剣は大した強度ではないということに。


躊躇いなくそのまま振り切る。

予想通り、カルドの剣は、氷の剣を砕き、ネロへと当たり――




すり抜けた。


「なっ!?」


その時、視界の端から氷の剣が飛んでくるのが見えた。

咄嗟に飛び退るが、それを予想していたのだろう。

緩やかな曲線を描きながら軌道を曲げ、カルドの左肩を切り裂いた。


幸い、腕を切り落とされるほどの致命傷ではないが、痛みで左手に力が入らない。


そこに、追撃の剣が飛んできた。


「くそっ!」


左手の盾は使えない。

ならばとすぐ剣を振ってはたき落とした。


そして、そのすぐ後ろ、1本目の影に隠れるようにして迫ってきている剣に気づいた。

これは、防御しきれない。


「援護します!」


その時、カーネが飛び込んできた。

そして、カルドに飛んできた氷の剣を全て叩き落とした。


その時の彼女は、心強かった。


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