第百十四話 魔女
ケルグ山脈に入って数日後、カルドたちの部隊は魔物の痕跡を追い続けていた。
「騎士団長! こっちに瘴気があります!」
すぐに声のする方向に向かうと、部下の目の前には真っ黒な靄のようなものが狼の魔物の死体にこびりついていた。
「かなり強い瘴気です。……燃やしますか?」
「……しておこう。」
「了解。」
この魔物はケルグ山脈の中ではそこまで強くない部類だ。
なので、アンデッドになったところでこの過酷な山脈では恐らく数日も生き残れないだろう。
だから、普通なら死体をわざわざ燃やしてアンデッドにならないようになどしない。
だが、それはこの魔物が一匹しかいなかった場合の話だ。
「これでやられていた群れは3つ目か。」
「しかも、全滅のようです。逃げた跡がありません。」
「……凄まじいな。」
この魔物は数十匹以上で群れる。
その数があるからこの魔物はケルグ山脈の奥地にも進出し、生息域を広げている。
その数十匹が全滅とは余程である。
「逃げる暇すら与えられなかったのか。」
「一匹残らず斬殺されてます。」
「……魔法だろうな。死んでどれくらい経ってる?」
「寒さで腐敗が進まず、正確性があまりないですが……恐らく数日以内かと。」
「ならもう少し捜索範囲を増やすか。」
「他にも伝えておきます。」
「もし標的に会ったらすぐ逃げるようにとも言っておけ。」
かなり高度な魔法を使うアンデッド。
それ相手に普通の騎士が挑んだところで一撃すら与えられないのは目に見えている。
「はあ……そろそろ日が暮れる。少し休むか。」
「副官はあっちにいますよ。騎士団長が、呼んできたらどうですか? きっと喜びますよ。」
「…………まあいいか。」
なんか言い方に引っかかったが特に理由も思いつかなかったので気にしないことにして、カーネのもとに向かった。
「あっ。騎士団長。どうしました?」
残雪を踏む微かな足音で気づいたのか、すぐに振り向くとこちらに呼びかけてきた。
たまに思うが、カーネは五感が優れている。
聴覚は今の通りだし、視覚もかなり良いのを確認済みだ。
「そろそろ日も暮れる。休憩するぞ。」
「分かりました。……まだ明るいですけど……。」
「ケルグ山脈は思ってるよりすぐに日が暮れる。これくらいがちょうどいいんだ。」
「確かにそういえばそうでしたね……。」
そして、部下たちが設置しだしたテントに向かって歩き出した。
カーネも一瞬遅れてカルドの一歩後ろをついて行くように歩き出した。
「中々見つかりませんね。」
「まあ仕方ない。魔物の考えなんて俺たちには分からないしな。」
「それもそうですね。」
そこで、ネロのことが頭をよぎった。
あれもアンデッドという立派な魔物ではあるが、話せている。
「……元が人間のアンデッドなら会話することもできるか。」
「そうなんですか?」
つい口を滑らせてしまったらしい。
基本的に、アンデッドは言葉を話せても会話することはできないというのが通説で、一般常識だ。
「ん? ああ……まあ、できるやつもいるかもって話だ。」
そう、はぐらかしながら後ろに付いてきているカーネの様子を見ようと振り向いて――
カーネ目掛けて何かが高速で飛んでくるのが見えた。




