第百十三話 忌避
それから1週間後、カルドとカーネ、そしてその二人の部隊はケルグ山脈に来ていた。
「……なんか、懐かしいですね。」
「ん? ああ訓練兵だった頃にも来てたものな。」
「はい! あの時も魔物討伐でした!」
「まあ危険度が違うから……。」
報告書を読むのは上司の義務であるが、全ては見てられない。
そして、騎士団長の元まで届くほどとなると余程のことだ。
既に被害が出てるか、ちゃんと討伐隊を組まなければ危険な魔物の痕跡が見つかったかの場合になるわけである。
今回は後者だ。
アンデッド系の魔物が残す瘴気とは、汚染された魔力だ。
そして、強い魔物ほど魔力が多く、従って強いアンデッドほど瘴気が多い。
今回発見された瘴気はかなりの多量だったのだ。
「にしても、こんな場所にアンデッドなんて珍しい……というかあり得るんですね。」
「それは俺も思ったな。」
アンデッドというのは元が人間だった場合が大半だ。
そして、ケルグ山脈に人間はほぼ来ないので、アンデッドもほぼいないのだ。
「まあ、強力な魔物のアンデッドという可能性は十分ある。気をつけろよ。」
「はい!」
今回、連れてきたのは2個小隊、計六十名である。
ディズによるとこれでいい、というよりもこれ以上は逆効果になるのだそうだ。
一番重要なのはカーネということで、最悪カーネとさえ行けば良いのだとか。
どういうことかはさっぱりだ。
「にしても、寒いですね……。」
今は一応、春だがケルグ山脈は一年中そこそこ寒い。
冬よりはマシというだけで、夏ですらかなり涼しい。
「まあな。……防寒服を着るにはちょっと暖かいしな。ああ、そうだ。これでも着たらどうだ?」
そう言うと予備のローブを渡した。
「あ、ありがとうございます……。」
「…………。」
咄嗟に目を逸らしたのだが、カーネの視線が顔に突き刺さっている気がする。
どんな目なのかは見ないことにした。
「それにしても……ディズが魔物を見つけたんでしたっけ?」
「ああそうだ。それで、かなりの戦力がいると判断したらしい。まあ、あいつはいろいろ駄目なところのほうが多いが……目だけは確かだ。心配するな。」
嘘である。
ディズのスキルを知っていてもスキルを信じられない者は出る。
そのための方便である。
こっちのほうが事情を知らない人間にも説明しやすい。
「疑ってはいないんですけど……。」
それからしばらく歩き続け、山脈の奥地へと向かっていった。
ちなみに、さすがに鎧は装備していない。
山脈にそんなもの着てったら凍死するか疲れたところを魔物に襲われるかの二択だ。
素直に防寒具を着ていくに限る。
「そういえば、カタナは見てもらったのか?」
「はい。見てもらいました。ただ……結局よく分からなかったみたいです。」
「そうなのか? あそこの職人たちもかなり優秀なはずなんだがな……。」
「返してもらった時、とても悔しそうにしてましたよ。職人の名が泣くって言ってました。」
「彼ららしいな……。」
尚、この間ちゃんと周りは警戒しながらの雑談なのでさすがは騎士である。
ここが森なら雑談すらも無かったのだが、開けた土地なので奇襲は目視で十分発見できると判断してのことである。
何が言いたいのかというと、雑談しているのは決してテンションが上がっているからとかではないということである。
たぶん。




