第百十二話 直感
ある日、カルドがいつものように書類を確認していると、とある報告書が目に止まった。
内容は、ケルグ山脈で正体不明の魔物の痕跡のことだ。
「うう〜〜〜ん……念のために調査するか。」
何せ、新種の魔物だったら大問題だ。
それが強力な魔物だった場合で、それで被害が出た時など目も当てられない。
被害内容によってはクビになる可能性も低いがゼロじゃない。
別に、地位が欲しいわけではないがクビはさすがに困るし、騎士のプライド的にも許容できることではない。
そのまま痕跡の詳細に目を通すと、濃度の高い瘴気が発見されたとの記述があった。
瘴気ということはアンデッド系の魔物だ。
ふと、脳裏にネロの存在が思い浮かんだ。
「まさか……な。」
「何がです〜?」
「うおっ!? ……ディズか。いつの間に……。」
「窓から入りました。」
振り向くと、確かに窓が開けられてる。
間違いなく先程までは閉まっていたはずだ。
「鍵かけといたはずなんだが……?」
「…………。」
ディズが無言で、だがニッコニコしながらピッキングセットを握る両手を見せてきた。
「…………。」
「警備とかもうちょっと考えたほうがいいんじゃないすっか〜?」
「ああ……そうさせてもらおう。」
次は魔導具で鍵を掛けてみるかと考えながら、そういえばこいつはスラム街出身の元こそ泥だったとかいう話を思い出した。
「それで、その報告書はなにですぅ〜?」
「……魔物の目撃情報だ。」
「貰いますね〜。」
そう言うと一瞬で引ったくっていき、目を通しだした。
というか、仕事はどうしたのだ。
こいつも一応はそこそこの階級の軍人のはずなのだが。
「へえ〜〜〜。副官に全部書類押し付けてるからよく分かんないけど「おいこら!?」なんか大変そうですね〜。」
今度、ディズの副官を労ってやることを誓いつつ、ディズの手から報告書を奪い返す。
若干、クシャクシャになった報告書を少しでもシワを消せないかと手を動かしながら、ディズと話す。
「まあいい。さっさと仕事に戻れ。」
「はぁい。」
なんとも気の抜ける返事だ。
「騎士団長。」
「なんだ?」
「そんなシワ寄せてたら老けるよ〜。」
「誰のせいだと思ってんだ!? クビにされたくなきゃ働け!!」
「わっかりましたぁ〜。」
これまた気の抜ける返事をしながら、ディズは部屋から出ていった。
と、思ったら一瞬で戻ってきた。
「あっそういえばお話したいことがありま〜す!」
「それ話したら帰れ帰れ!」
「ええっと……その魔物の調査、カーネちゃんと騎士団長で行ったらどうですか〜?」
「はっ?」
一つも意味が分からない言葉を言われた。
どういうことだろうか。
「だ、か、ら、二人で行ってきたらどうですかっていう話ですぅ〜。」
「お前は頭がおかしいのか?」
「まあ冗談なんですけども。」
「やっぱクビにするか。」
「やめてくださいよぉ〜。けど、カーネちゃんの部隊と騎士団長の直属部隊で行ったらどうですか〜?」
カーネをちゃん付けして呼んでるのは面倒なので突っ込まないことにした。
「なんでそんなことをする必要があるんだ。戦力過剰だろうが。まっ――」
「直感。」
ピタリとカルドの口が止まった。
「……真面目な話か?」
「うん。」
「………………はぁ〜〜〜ーーー。」
彼女の直感は信頼できるものだ。
スキル『直感』。
効果は勘が良くなるというものだ。
その精度は異常なほどよく当たる。
「分かった。そうしよう。……カーネの部隊についてだが、それもか?」
「それも。多分、他の部隊じゃ駄目。」
「そうか……。」
ディズのスキルは信頼するべきだということはこれまでの経験談だ。
ちなみに、さすがに無条件で信じてるわけではない。
もし一度でも嘘をついたり、悪用したら即処刑とかいう重い契約書も結ばれている。
魔法も多用しているので刑は間違いなく執行されるはずだ。
「ちょっろ。」
「おおん???」
「冗談〜〜〜。」
思わず舌打ちしたくなるカルドだった。




