第百十話 伴走
「騎士団長!」
手合わせから数日後、カルドが剣を振っていると、カーネが現れた。
「……何かあったか?」
正直、あの手合わせのことがあるのであまり会いたくはなかったが、変に振る舞っても不自然でしかないので平静を装って対応する。
「訓練、一緒にしていいですか!」
「…………?」
突然何を言い出したのかと思ったのは仕方ないだろう。
訓練、それはまあ当然分かる。
分からないのはなぜ自分としようとしているのかということだ。
「駄目……ですか?」
若干、甘えるような声を出してきた。
どうも、訓練兵時代よりも色気というのが出てきてるような気がする。
そしてそれを理解して、ちゃっかり利用しているような気もするので、ちょっと怖い。
「いや、それは構わないんだが。……なぜ一緒にしたいんだ?」
「自分の教官の剣技を見て参考にするのは当然です!」
嫌味の可能性が一瞬よぎったが、カーネの性格上、冗談でも言わない気がするので、本当に参考にしたいだけらしい。
「まあいいか……。」
「ありがとうございます!」
するとカーネは木刀を持って、すぐにカルドの横に並んで振り始めた。
「ん? 刀はどうした。」
「今、魔導具職人?の方に見てもらってるんです。」
「ああなるほど……。」
「…………。」
「…………。」
そこから数十分ほどの間、無心で剣を振り続ける時間があった。
いつもは1人でしているので、自分以外の人間の音がすぐ横からするのは、少し緊張したが、不思議と居心地は良かった。
ふと、カーネの表情を一度だけ確認したが、何を考えているのかは読み取れなかった。
前だけを向いて、汗を流しながら剣を振っている。
剣を振るたびに散る汗が、眩く光っていた気がした。
彼女を見ていると、なぜか微笑ましいという感想が浮かんだ。
そして、自分も教え子に負けないようにやらねばと自分自身を叱咤し、カルドもすぐに訓練に専念しだし、その後カーネの様子を確認することはなかった。
ただ、なぜか目が痛かった。
―カーネ視点―
(危なかった。見てたのバレてないよね……? やっぱり、この人は凄い。ただの素振りでも参考にすることがこんなにあるなんて! 角度、力の入れ方、呼吸のタイミング……見てるだけで自分の無駄なところを再確認させられるし、なにより凄いのが振るたびにどんどん良くなっていってる。ちょっとずつだけど、見るたびに早くなってる。なんて凄いんだろう! 手合わせした時に感じた弱点もみるみる減っていってる……。無理言って見させてもらってよかった!)
その時のカーネの表情に込められた感情は、憧れと、尊敬と、敬慕だった。
剣士が理想の剣を見つけた時のような、職人が理想の素材を得た時のような、旅人が見たことのない美しい景色を見つけた時のような、そんな表情でもあった。
心の底からの明るい、キラキラとした表情。
人によっては一生見る機会に恵まれないかもしれないほど希少な、それでいて美しい感情。
(ああ……やっぱりこの人は剣の天才なんだ……私も、この人に剣を教えられた者として、強い剣士に……!)
その時カルドは、そんなカーネの表情を見ることはなかった。




