第百八話 依頼
―数日前―
「あの〜。魔導具について調べてもらいに来たのですけど〜。」
カーネはカルドに勧められて、整備課の元にまで来ていた。
工房の奥に向かって呼びかけると
「騎士団長から話は聞いてます。ええっと……これですか。」
体の細い、気弱そうな職人は、カタナを受け取ると、じっくりと眺め始めた。
「……かなり複雑ですね。刻まれてる魔法は……なんなんだ、これ……? 防御系統ではないけど、強化系統……でもないのか? いや、けどこっちは強化系統に似てる……。」
ブツブツと突然言い始めた職人は、なんというか、とても怖かった。
声をかけるのをとても躊躇うくらいには怖かった。
とはいえ、いつまでも躊躇ってても仕方ないので、思い切って声をかけた。
「あ、あのすみません!」
「攻撃系統をこっちの強化系統で強化してるのか……? そんなことができるのか……確かに理論上はできなくはないが……。」
駄目だったようだ。
とはいえ、待たせてることを思い出したのかすぐに顔を上げた。
「待たせてしまってすいません。」
「それで、何かわかりましたか?」
「いえ、無念ですが何も……。なのでしばらく預かってよいでしょうか。もっと詳しく調べてみたいんです。」
少し考えてみたが、どうせしばらくは使わないなと思い、了承することにした。
「わかりました。あと、ついでに手入れもよろしくお願いします。」
「もちろんです。…………さて、それでこの魔法は……。」
またもや自分の世界に入ってしまったようだ。
なので、そっとして立ち去ることにした。
「にしても、騎士団長の時は楽だったからまた同じ物なのかと思ったのになぁ……やりがいがある!」
ふと引っかかるものがあったため、つい脚を止めた。
「騎士団長も何か持ち込んだんですか?」
「え。ああ、はい。魔導具を一個持ってきました。」
「へえ〜……なんだったんだろう。」
最後の言葉を小声で言い、何だったのか聞いてみようとして、カルドに直接聞いてみればいいかとすぐに思い直した。
「では、よろしくお願いします。」
もう作業に没頭してるのか聞いてはなさそうだったが、仕事はちゃんとするだろう。
「あの〜。」
それは、自室に戻っている途中のことだった。
「ディズ……? どうかしたんです……どうしたの?」
やはり、自分と同じ軍人相手に敬語で喋らないのはどうも慣れないなと再認識しつつ、首を傾げる。
昨日ぶりだが、何事だろうか。
「実はちょっと話があるの。来てくれない? 長い話じゃないからすぐ終わるし。」
あれだろうか。
調子に乗ってる新入りを締める的なものだろうか。
ぽっと出の新入りが尊敬する上司と仲良くしだしたら複雑な心境になる可能性は、ないとは言い切れないだろう。
さすがにディズの性格的にはしなさそうだが、まだほとんど話せていないので、演技だった可能性はある。
「時間とかは大丈夫だけども……それでどんな話?」
「ええっとね……ちょっとここじゃ話づらいかな。私の部屋に来ない?」
演技だった可能性が若干増したが、断っても不自然だ。
「わかりました。」
「おっけ〜。じゃあついてきて〜。」
それから、少し歩いてディズの部屋にまで来た。
自室なので、当然躊躇なくドアを開けて入っていくディズの後ろを追うように、警戒しながら入っていく。
するとディズは素早く扉を閉めた。
その音に反応して思わず、カーネは身構えた。
「…………。」
「…………。」
部屋に入るまでは饒舌だったディズが、突如として黙り込んだ。
「あ、あの……。」
「一つ、話したいことがあるの。」
いつになく真面目な声だ。
「貴女は、騎士団長のことをどう思っているの?」
「ど、どうって……。」
「答えて。」
「…………尊敬する人。」
「……そう。分かった。ならお願いがあるの。」
振り返って、こちらを見るその視線は真剣そのものだった。
「二つ、してほしいことがあるの。私は、私たちは、何もできないことだから。……今は、片方しか言えないけども。」
「……内容は?」
「先に聞きたいのだけど、剣に自信は?」
「……それなりにはあるけど……。」
「なら、騎士団長と手合わせしてほしいの。それで、勝つか、引き分けに持ち込んでほしい。それだけでいい。けど、私たちではそれすらできなかった。」
「ちなみに私たちって誰のこと?」
「私たちは私たち。騎士団の一部のメンバーのことだと思ってもらっていいわ。」
「……ちなみに、引き分けって言ってたけど、騎士団長はどんな戦い方? 何年も前だし、今は変わってるかもしれないから聞いてみたいの。」
「端的に言ったら剣術と盾術と体術、それに闇魔法の天才ね。」
「それって全部じゃ……?」
「仕方ないよ。実際どれも一流だもん。闇魔法こそ、騎士の手合わせじゃ使わないし、体術も絞め技とか投げ技だと剣と違って有効打だったのか紛らわしいからって使わないけど……それ以外は当然、使ってくるわ。ちなみに複数人でも蹴散らされるわ。隊長格4人で挑んでも勝てなかったわ。さすがに騎士団長も大分疲れたみたいだけど。」
聞けば聞くほど希望がなくなってくる内容だ。
どう勝てと言うのか。
「貴女の実力を私はほとんど知らないし、貴女の性格とかもまったく知らないのに、いきなり無茶言ってるのは自覚してるんだけど……お願い。事情は後で必ず。」
だが、ディズの目は真摯なものだった。
まっすぐカーネの目を一点に見つめるまっすぐな目は、信じるに値するものだった。
「……やるだけ、やってみる。」




