第百七話 溜息
数日後、カルドは剣と盾を持っていた。
別に戦闘というわけではなく、訓練のためだ。
より詳しく言うならば模擬戦である。
経緯を説明するには時を少し遡ることとなる。
話は一昨日のことだ。
「騎士団長。お願いがあるのですけど……。」
カーネと偶然、出会った時、そう言われた。
カルドは反射的に頷いて話を聞き始めた。
「何かあったのか?」
「……その……私と模擬戦をしてほしくて……。」
「そのくらいならもちろん大丈夫だが……突然どうした。」
模擬戦自体は騎士の訓練としては普通だが、いくら元教官と元教え子の関係とはいえ、そんな出会い頭に、しかも唐突に話すような話ではない。
「私も、この2年で強くなったってのを教官に見てもらいたいというかなんというか……。」
最後のほうは消え入りそうな程の小声だったが、一応は聞こえた。
なぜかとても気不味そうな、申し訳なさそうな表情だったが、後ろめたいこともないだろうにどうしたのだろう。
まるで嘘をついてる時の子供のようだが、何の嘘をついてるのかも分からない。
もう少し予想してみるが、昔の教官に実力を見せて褒められたいとかいう理由だとすれば、恥ずかしがったりはするだろうが、申し訳なさそうとなれば違う理由だろうか。
それは聞いても教えてくれない気がしたので聞かなかったし、気にしないことにした。
そして、教え子がどれほど強くなったのかを知りたかったのが半分、仕事で疲れていたので気分転換にももってこいだと思ったのが半分で、カルドはその誘いに乗ったというわけだ。
カーネが実戦に近づけたいということなので、剣は実際に自分が使っているものだ。
さすがに鞘はついてるので切れはしないが、重量があるので急所に当たれば危ないだろうが、そんなことを気にする人間は騎士団にはいない。
重量面でも実戦に近づけるため、鎧も着てるので余計に大丈夫だろう。
もし怪我しても回復魔法を使える人間が訓練所付近に勤めているので、それらに来てもらえれば問題はない。
最近は鍛練以外で剣を振ることがなかったため、実戦形式となると久しぶりだが、問題はないだろうと思っていた。
カーネは訓練兵の時から優秀だったから、油断するつもりもまったくない。
ルールは急所への攻撃をしたら勝ち。
攻撃といっても寸止めだが、これは避けられないというのが分かるような攻撃でなければ、続行だ。
そこは感覚の話になってくるが、正式な決闘でもないので多少ルールが曖昧でも問題ないだろう。
ちなみに、寸止めできない魔法も当然禁止になっている。
そして、模擬戦は始まった。
お互い、黙り込んで集中しきっていた。
そして、模擬戦は長引いた。
長引いた割に決着はあっさりとついた。
カルドの勝ちだった。
その時、カルドは、自分に絶望していた。
勝利した直後、カルドが思っていたのはカーネに気づかれなかっただろうかということだけだ。
明らかに腕が落ちているということに。
いや、その言い方は正確ではないか。
一応、2年前よりは間違いなく、強くなっているので腕が落ちているというのはやや過言だろう。
なので、正確に言い直せばこうなる。
2年もあったのに大した成長をしていない、と。
カーネの動きを目で捉え、反応することはできた。
問題は、その後の動きが緩慢だったということと、明らかに疲れやすいということだ。
今、思い返せばここ最近は剣よりも魔法の鍛練のほうに力を注いでいた。
だからこうなったのだろう。
もちろん、魔法が悪いわけではない。
魔法は強力だ。
したことでデメリットがあるなんてこともないはずだ。
だが、騎士たる者が剣を使えないというのは、騎士としては失格である。
カルドは騎士になった理由が崇高なものではないため、最初は騎士のプライドというのも今ひとつ理解できなかった。
だが、何年もやってれば騎士としての自覚も、プライドもつくというものであった。
だからこそ、カルドは今回の件を深刻に受け止めていたのだった。
そういえば、もう一つだけ思ったことがある。
カーネの構えは、綺麗だったなと。




