第百五話 後輩
数日後、カルドはカーネと話す機会を設けることができた。
「仕事は終わったんですか?」
「じゃないとここにいないさ。……こうして話せるわけだが……何から話すかな。」
「そうですねぇ……。」
実のところ、予め何を話すか考えていたのだが緊張のせいか、綺麗さっぱり忘れていたのだ。
何話すつもりだったかを、思い出そうとして諦めた。
「ああ……そうだ。カ……君のその剣について聞いていいか? 見たことない形状だが……。」
カーネと呼ぼうとして、今は立場がいろいろあるかと思い、君と言い直して話しかけた。
なぜか一瞬ションボリした感じがした気がする。
だがすぐにあちらもこちらと同じ、話題に困っている状態だったのだろうか、話題を振られてホッとしたようだ。
「これは……確か、まだ訓練兵だった時にこれについて話したことがありますよ。」
「そうだったか? 覚えてないな……ああいや、思い出した。確かに話してた。そうか、師団の副官まで出世したから使うことを許されたのか。」
「はい。階級のあかげで上に申請したら案外簡単に通っちゃいました。」
「そうか……ちなみにその剣見せてもらってもいいか?」
「はい! もちろんです。」
騎士が自分の得物を他人にポンポンと渡すのは本来あまり褒められたことでもないのだが、信頼の証だと考えれば悪い気どころか良い気にしかならない。
そして手渡された剣を鞘から刀身が見えるように少しだけ抜いてみた。
「……おお……。」
ほんの少しだけ出した刀身は、とても美しかった。
良いものだ、とか斬れ味が良さそうだ、とかではなくまず最初にその感想が出た。
思わず感嘆の吐息を吐いた。
「それで……どうですか……?」
声に反応して視線を上げるとカーネが不安げにこちらを見ている。
どうやらカルドが黙り込んでしまって不安になったらしい。
「素晴らしい剣だ。間違いなく名剣って言われるような代物だし……この刀身を見ただけでかなり優秀な人間が作ったってわかる。……にしても軽い剣だな。やはりカトラスとかと同系統か? だがそれにしては刀身が鋭いように見える。」
「これはカタナって言うんですよ。」
「カタナ? 知らない武器だな。」
「はるか東のほうで使われている武器だそうですよ。斬れ味と軽さを最優先している武器で、値段のわりにけっこう折れやすいんですよ。これはどうにも特別らしくて、そう簡単には折れませんけど……この細さだから壊れないか怖いんですよね。」
なるほど、やはりカトラスとはまったくの別物らしい。
カトラスは質を悪くしてでも安く量産する武器なので、質を第一にしてることれとは構想からして別だ。
「なるほどな……これ、魔導具か?」
「よく分かりましたね。そうみたいなんです。だけど何の魔法か分かってないんですよね……魔法使いの人に魔法の気配がすると言われて知ったんですけど……。」
「なるほどそれで知ったのか。実は自分も一度魔導具について調べたことがあるんだが、整備課のところに行ってみるといい。騎士団長の名前を出せば部外者でも相手してくれるだろう。」
「ありがとうございます!」
「ああ、そうだ。礼と言ってはなんだが、それの銘を聞いていいか?」
「ええっと……それが何もないんですよ。」
「銘が刻まれてないのか? 珍しいな……。」
普通は剣に銘を刻むのが一般的だ。
普通の剣なら工廠や製作者の名前を刻むが、これほどの名剣なら固有の名前を与えられたっていいはずである。
「うう〜〜〜ん……まあ考えても仕方ないな。」
「そうですね。」
「そうなると君が考えたらどうだ? 持ち主なのだから。」
「それはそうなんですけど、思いつかないんですよね。……そういえば、騎士団長も武器変わってますよね。」
「ああ、そうだな。騎士団長になった際に皇帝から剣と姓を授けられるんだ。それで貰ったものさ。」
「姓ってことは貴族になったんですか! ちなみに何て言うか聞いてもいいですか?」
「ノイバラと名乗っている。カルド・ノイバラだ。」
にしても、一族の代々の名前だったとはいえ、ノイバラとはよく言ったものだ。
確か野茨の花言葉は――
「カルド・ノイバラですか、そうですか……! ちなみに、その剣についても教えてもらっていいですか?」
「ああ、これか。見るか?」
つい先程、カーネからカタナを預かった時に思ったことを棚に上げて、カルドは自身の剣を渡した。
思った以上に重かったのか、一瞬驚きで目を丸くしたようだが、さすがに取り落とすようなことはなかったが、恐る恐るといった感じでカルドがカタナにしたような刀身をすっと抜いた。
「綺麗…………。」
ただ、一言そう言うとしばらくの間、黙り込んだ。
気不味くなるほどの長い時間、静寂に包まれた。
「ああっと……。」
どう話しかけたものか、悩んでいるとその様子に気がついたのかカーネが慌て始めた。
「あっ! す、すみません! ぼおっとしてました。」
あまりの慌てようで、剣を取り落とさないか心配になるほどだ。
「…………落とすなよ?」
つい口に出してしまった。
そのせいかさらに慌てだした。
「あ、え、と、そ、その。」
カルドの剣がお手玉状態になっているのをみてるとカルドは焦ってきた。
そして、想像通り、途中で取り落としかけた。
ので、すぐにキャッチした。
「そ、その……すみません。」
とても気不味そうな声が小さく響いた。
あと、あまりの焦りようを見られて恥ずかしいのか真っ赤な顔で、しかも上目遣いで見てきた。
その方がなんとも言えない気持ちになるのでやめてほしい。
そして、それを偶然目撃した人間は語る。
『初々しいカップルでも見てんのかと思った。』
そのような証言をしたのがバレて散々な目にあわされるのは当分先の話である。




