第百二話 来訪
エコム騎士団長による反乱から2年、ネロからの話からは1年が経過した。
ここまで一度もアンデッドになる機会は無かった。
そもそも恨みを抱くような事件が起きなかったからだ。
平和なのは良いことだ。
それは間違いない事実である。
再編された黒曜騎士団の練度も2年の間に随分と上がった。
対人での実戦こそ、あまりなかったがそれでも訓練でできることは多いのだ。
カルドは書類仕事に忙殺される日々から、最近になって解放されたため、自己の鍛錬もちゃんとできるようになった。
書類仕事にかまけて自己鍛錬をしないようでは本末転倒である。
まずは素振り。
訓練兵時代からずっと続けているだけあり、お手本のように綺麗で、素早く、力強い素振りだ。
こうしてただ素振りをするだけでも、頭が空っぽになっていられるため、自分は剣が好きなのだとよく再認識するものである。
もちろん、単なる切り下ろしだけでなく、払いや突き、切り上げなど、様々な形の剣技をしていく。
シュッという鋭い息を吸う音と吐く音、そして剣を振ってできた風斬り音が周囲によく響く程度には周囲は静寂に包まれている。
今日の訓練の時間はまだのはずだが、自主的に訓練でもしてるのだろう、微かに近くの訓練所から掛け声が聞こえる。
ちなみに声が微かにしか聞こえないのは、雪に音が吸収されているからである。
この要塞に来てから数度目の冬だが、今年は別段寒いわけでもないのに比較的雪が多かった。
そろそろ雪解けの時期のはずだが、大量に積もった雪はまだまだ残っているようだ。
冬明けから少しすると魔物も増え出す頃で、書類仕事も増えるため、近々起こるであろうそれを想像するだけで気が滅入るほどなのだが、剣を振って頭を空っぽにして気分転換している。
というより、部下たちにそうしろと言い詰めよられたのだ。
それを聞いて、最近は自主的な訓練があまりできてないなと反省して剣の鍛錬にはげんでいるわけなのだが、部下たちは何とも形容し難い表情になっていた。
不思議だ。
だが、体を動かし続けるのは負担だけで、意味がないからと休んでいるとどうしても書類仕事が頭にちらつく。
魔物用の装備の請求書やら、冬に使った耐寒装備の保管状況だとか。
そこで重要な事案もあることを思い出した。
忘れてたわけではないのだが、単にあまり意識していなかったのだ。
どういう事案かというと、赤竜騎士団からの増援、と言うと少々大仰なので、赤竜騎士団からのお手伝いの派遣と呼ぶことにする。
黒曜騎士団は、あの内戦の影響で人数が減ってしまったため、その埋め合わせのためだ。
いくら黒曜騎士団が人数が減ったとはいえ、国境線などに配備する部隊は大丈夫なのだが、ケルグ要塞などの後方拠点の人材が不足しているのだ。
ケルグ要塞などの黒曜騎士団管轄の後方拠点の大半は物資集積地兼新兵訓練所であるため、ここの人材が不足してると新兵教育に支障が出る。
ここ最近魔物が多くて黒曜騎士団のベテランたちが教育に時間を割けず、事実ここ数年は黒曜騎士団で新兵の受け入れができず、それぞれの騎士団がしていたくらいだ。
灰鼠騎士団が魔物退治を本来はするのだが、何せ帝国の国土全域で魔物が増加しているのだ。
ケルグ山脈という近場くらいは自分たちで対処しなければならない。
そしてその時、赤竜騎士団の方では逆に人材が多すぎて余っていたらしく、管理が大変なことになっていたのだそうだ。
帝都に用事があって行った際に、同じく帝都に用事で来ていた赤竜騎士団の騎士団長がそうボヤいていたのを聞いたため、こちらが人材の派遣について提案したのだ。
赤竜騎士団の一部と赤竜騎士団が抱えている新兵を黒曜騎士団が受け入れ、受け入れた騎士たちに魔物退治などをやってもらい、それによって手が空いたベテランに同じく受け入れた新兵たちの教育をやってもらおうという話になったのだ。
紆余曲折ありながらも結果的にその話は纏まり、安全面などのためにも冬明けすぐに彼らを受け入れることとなったのだ。
その日の昼頃、彼らはケルグ要塞に到着した。




