第百話 死人
それからというもの、カルドが夢に来る頻度は増えた。
「……また来たの。」
「まあな。」
カルドは来る頻度が高くなるほど、表情も疲れたような表情になってきていた。
というより、疲れたから来たのだろうが。
「魔法の調子はどう?」
「だいぶできてきたな。」
「それは良かった。……今なら私にも勝てるかもしれないわね。」
「からかわないでくれ。勝てる気がしない。」
「そう? 嬉しいこと言ってくれるのは良いのだけど、謙遜はやめたほうがいいわね。」
「謙遜じゃない。」
完全に言い切ったカルドにネロが視線を向けると、カルドが緊張していることに気付いた。
一瞬、躊躇った後にカルドは口を開いた
「ネロ、お前は恐らく人間じゃないだろう?」
「ふぅん……。」
あまりにも予想外の言葉に紅茶を飲む手をピタリと止めて、話を聞く体勢に移る。
「お前のおかげで魔力についての理解が深まったからか、分かるようになったんだ。」
「…………。」
「恐らくはアンデッド。それも高位の存在じゃないのか?」
カルドのその目には、今までは見えなかった、ネロの周囲を囲む大量の黒い靄のようなものが見えていた。
所謂、瘴気と呼ばれる存在だ。
瘴気とは人間の怒り、妬み、嫉み、強欲、そういった負の感情によってできた魔力である。
一応は魔力の一種と言われており、場所によってはかなりの量が漂っているものの、普通の魔力とは違うため魔法で使うことはできない。
それどころか人間は瘴気に触れるだけで体調を崩し、量や質によっては即死すらする。
魔法に使おうなどとした日には即死する瘴気だが、瘴気を代償無しで使うことができる者がいる。
正確に言えば者、という言い方は適切ではない。
何せ彼らは死者、アンデッドである。
アンデッドについては今ひとつ調査が進んでいない存在であり、分からないことが多いものの、確実に言えることが2つある。
元は人間だったこと、にも関わらず人間とは共存不可であることの2つだ。
アンデッドは、人間の負の感情である瘴気が死体に集まることでできると言われており、人間の負の感情というのはその大半が人間への感情だ。
そのため、人間には負の感情しか抱かない。
復讐、憤怒、憎悪、嫉妬、軽蔑。
そんな存在が人間と手を取り合うことはないのだ。
「……てっきり、最後まで気づかないかなと思っていたし、そうだったら良かったのにね。」
「否定しないんだな。」
「ええ。隠しても無駄だもの。もう貴方はほとんど確信しているのでしょう? じゃないと貴方の性格上、そんなふうには言わないわ。」
「……そうかもな。」
「今の貴方の状態ならそんなこと気づかないと思ってたのだけどね。巧妙に隠してたつもりなのだけど……。」
「騎士団長だからな。」
「そういうものなのかしら……? さすがは騎士団長様ってことかしらね。」
クスクスと笑うネロは、アンデッドだということがバレたにも関わらずいつも通りの様子だ。
「茶化すな。……今まで、俺に何の魔法をかけていたのかも何となく分かった。相手の警戒心を減らすものと、相手に僅かな快感を与える……というより元気を回復させる程度の効果の魔法か。警戒心を解くのはまだしも2つ目の魔法についてはなぜやったのか見当がつかんがな。」
「2つ目の魔法は……まあこのままだと廃人になるかもと思ったのと、後は夢に来れば気分が楽になるということを無意識に覚えさせるためね。」
「なるほどな。……廃人?」
廃人というのはどういうことかとカルドが首を傾げる。
「ええ。貴方は自覚してないようだけど、相当削れているのよ。貴方の心は。」
「……そんな精神力が弱いつもりはないんだが?」
「確かに貴方は比較的、精神力が強いわ。けどそういう問題じゃないのよ。というよりも、多少精神力が強くても無駄な程に貴方の心の傷は抉られていっているのよ。」
「……何が目的だ?」
「私はアンデッド。人を殺すのが唯一にして最大の目的。」
「つまり俺の殺害か?」
ゴクリと唾を飲み込む音がやけに鮮明に聞こえた気がした。
「いいえ。」
「……じゃあなんだ。」
「貴方を次の宿り木にしたいのよ。この怨念たちは。」
「はっ……?」
カルドは、そこから衝撃的な事実を知ることとなる。




