7: メギロディオン魔法学院とエイガ寮 3
「つまり、あなたがどの系統に適しているかを確かめるために、儀式を行うのよ」
エヴェリンが微笑む。
ラケスが指折り数えながら挙げていく。
「身体能力に秀でるなら――ジャイアント寮。
武器運用に優れるなら――ライオット寮。
火炎魔法なら――アッキ寮。
氷結魔法なら――フウブ寮。
風属性なら――ヴェント寮。
雷属性なら――雷寮。
催眠系なら――ニトラ寮。
女神の祝福系なら――コウガ寮。
そして――」
背後から顎をすっと持ち上げられる。
「呪術系なら、私のエイガ寮よ」
マーベルが淡々と言い放つ。
呪い――。
響きだけで恐ろしい。
けれど、わたしたちの魔法は銃を召喚するもの。ならば武器系、ライオット寮だろう。
……だが。
できればコウガ寮がよい。
女神の祝福系というのなら、そこにいる者たちはきっと、女神のように優しく穏やかな人々に違いないのだから。
「..........というのは、会長自らが行わなければならないのですか?」
合格者が何人いるのかは分からない。けれど、すべてを会長ひとりで行うとなれば、きっと大変に違いない。
「実はな……」
――ぱさり。
突然、会長が上着を脱ぎ始めた。
「きゃああああああああああああああっ!?」
「落ち着いて、クロエ。会長はそんなつもりじゃない。目を開けて、彼の背中を見てごらん」
「な、なんという破廉恥な……! 殿方が人前で服を脱ぐなど、なんと恥知らずな振る舞いでしょう!!」
「……どうやら本気で嫌われたみたいだな」
「だから違うって。ちゃんと背中を見てみろよ」
マーベルが根気よく促す。
そんなに重要なものなのだろうか?
「……分かりましたわ」
恐る恐る視線を向ける。
そこにあったのは――
蛇……いや、**ウロボロス**。
己の尾を噛み、円を成す蛇――“永遠”の象徴。
それが、会長の引き締まった背に紋章のように刻まれていた。
体格も十分に目を引くが、それ以上に、その紋様は強烈な存在感を放っている。
「これは……」
「今度は、腰のあたりを少しめくってみろ」
「………………ええ、分かりましたわ」
そして、そこに刻まれていたのは――
「数字……? 365?」
「その通り。その数字こそが、この世界でお前が使える魔法の回数だ」
魔法の……回数?
ラケスが静かに説明を続ける。
「この世界の住人ではない者にとって、“ルーン”――第二の心臓とも言える存在が突然体内に生まれるのは、身体に大きな負荷を与える。ウィリアムのようにこの世界の生まれであれば制限はないが、召喚者は違う」
「だからこそ、世界の理によって“使用回数”が定められている。そうしなければ、肉体が先に崩壊してしまうのさ」
……つまり、わたしたちには限界がある。
「もし、回数がゼロになったら……どうなりますの?」
会長――ウィリアムは服を整え、椅子に腰掛けながら答えた。
「その時は即座にジャイアント寮へ移される」
「ジャイアント寮は、計画性なく魔法を使い切った召喚者の集まる場所だ。俗に言えば“更生施設”のようなものだな。中には気性の荒い者も多い。もっとも、身体強化系のルーンなら話は別だが」
……なんという恐ろしい。
エヴェリンが、わずかに皮肉を込めて言う。
「まあ、騒動が起きるとしたら、ジャイアント寮の暴動か、エイガ寮が作ったアンデッドの暴走か、そのどちらかでしょうけれど」
視線が、マーベルへと向けられる。
マーベルはわずかに眉をひそめ、言い返した。
「まるでフブ寮にはそういうことが一度もなかったみたいな言い方ですね。あなたとアディティヤ――アッキア寮の寮長、しょっちゅうお互いの寮を壊し合っていたじゃありませんか? しかも、和解したあとは“尊敬される人・ヴェロニカ様”に個人魔法で修復をお願いして、何度も注意を受けていたでしょう?
それにもう一つ。あのこ リボンはアンデッドを召喚するのが好きですけれど、ちゃんと毎回制御できていますわ」
マーベルはわずかに嘲るような笑みを浮かべた。
「……やれやれ、二人とも」
「ただの冗談ですよ、会長。エヴェリンはいつもこんな感じですから」
「そうそう、冗談よ、冗談……」
「…………まあいい。クロエ、手を貸してくれ」
「はい……」
「この儀式には、お前の血が必要だ。ルーンの種類を特定するためにな。少し痛むが、我慢してくれ」
そう言い終えると同時に、会長は私の人差し指を爪でそっとかすめた。
“我慢しろ”と言われたけれど、思ったほどの痛みはない。
次の瞬間――
皮膚の表面から、赤い血が一滴にじみ出た。
そして、その一滴は空気に触れた途端、光となってふっと消えた。
「わあ……」
思わず声が漏れる。
それを聞いた会長が、わずかに口元を緩めた。
「驚いたか?」
「さて、次だ。クロエ、利き手はどちらだ?」
……なんの質問だろう。
「えっと……右です」
「では、その右手を出せ。私の手と重ねて――そして、私の後に続け」
言われるままに、右手を差し出す。
大きく、温かい手が、私の手を包み込んだ。
「我は――創設者と大地に誓う」
「我は、クロエ・アンダーソン――創設者と大地に誓います」
「このインプリジアンの世界において魔法使いとしての務めを果たし、長きにわたりこの地を脅かしてきた魔女たちを討つことを」
「このインプリジアンの世界において魔法使いとしての務めを果たし、長きにわたりこの地を脅かしてきた魔女たちを討つことを」
「「大地と空、海と谷、天と奈落――汝と我が名のもとに、力を授け給え!」」
「「世界の魔力よ、我に宿れ。そして迷える我を未来へと導け。今この時――我が“ルーン”よ、目覚めよ!!」」
その瞬間――
眩い光が、私たちの重ねた掌から爆発するように溢れ出した。
希望の光。
それは部屋を白く染め上げるほどに強く、熱を帯びていた。
身体が――焼かれるように熱い。
まるで炎に包まれているかのよう。
左胸が、裂けそうに痛む。
何かが、内側から押し出されようとしている。
しかし、それでも私たちは我慢しています。
.
.
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どこからともなく煙が立ちのぼっていたが、はっきりしているのは、また一つ奇妙な感覚が生まれたということだった。
私たちは、その感覚がある体の部分を調べてみた。
胸に手を当ててみると、ドクン、ドクンと、二つの鼓動が同時に重なる音が現れた。
まるで、今の私たちには心臓が二つあるかのようだった。
これで確かになった。ルーンは、すでに私たちの中に誕生している。
「おめでとう、お嬢ちゃん。これで君も正式に我々の学院の一員だ」
皆が私たちに祝福の拍手を送り、それと同時に会長が吉報……いや、凶報と言うべきかを発表した。
「いやはやまったく……今回召喚された子たちは、みんな只者じゃないね。私は実に嬉しいよ……おめでとう、クロエ・アンダーソン。君はエイガ寮に入ることになったよぉ!!!」
今度は会長だけが祝福の拍手をしており、皆は私たちも含めてただ静まり返っていた。
ちょっと待って……私たちのルーンは、呪い系統の魔法なの?
で……でも……私たちが銃を出したのは……あの光はどこから来たの?
どうして呪いなんだろう。
「エイガ寮に人が入るのは、どれくらいぶりだったかな」
エヴェリーンが突然、沈黙を断ち切って言った。
「そうだな……百二十年くらいになるかな」
百二十年!!! ちょっと待って、この人たちはここにどれくらいいるの?
「でも、私たちがここに来る前の世界で考えれば、まだ十二年だけですよ」
ここの時間と私たちの元の世界の時間は、そんなにずれているの? 一年がこちらの十年なの?
「うーん……そうだな。でも、いくつかの星よりも珍しい現象と言えるね」
会長は、信用できない視線で私たちを見つめながら言った。
「どうしてクロエのルーンは呪い系統の魔法になったんですか?」
マ—ベルが尋ねた。
「私にも分からない……インプリジアンはあらゆる魔法を使えるが、召喚された者の魔法の能力を詳細に知ることはできない。せいぜい、その者の魔法がどの系統に属するかが分かるだけだ」
「私たちの推測では、世界の均衡の法則というやつだろう。『何ものも何ものより上ではない。弱き者も頂点に登ることができる。同時に、頂点にいる者もまた弱くなり得る』だからこそ、インプリジアンは召喚された君たちに協力を求めたのさ」
ラケスが会長の説明を引き継いだ。
先ほどのラケスの言葉を要約すると、インプリジアンの魔法は一見すると明らかに召喚された私たちよりも強く有利に見えるが、魔女たちを討伐し追い払えるのは私たちである。つまり、実際に戦えば召喚された側でも、この地の住人であるインプリジアンに対抗できる。ただし、それなりの技術と実力が必要になる。
別の言い方をすれば、もしラケスの言う世界の均衡が本当に存在するなら、インプリジアンを滅ぼすほど強大な魔女にも弱点があるはずだ。あるいは、神でさえも討つことのできる弱点を持っているのかもしれない。
「…………」
エヴェリーンの言葉が頭の中に浮かんできた……。
『もし暴動とか重大な事件が起きたら、ジャイガント寮が抗議活動をするか、エイガ寮がアンデッドを作り出して制御できなくなり、暴れ出すかのどちらかだ』
ジャイガント寮が抗議するのも十分まずいが、エイガ寮の、呪いという形の魔法となると……。
私たちは、終わりのない呪いの渦に落ちているということなのだろうか。
元の世界でもいじめられ、見下され、新しい世界に来ても、こんな問題だらけの寮に入ることになるなんて。私たちは本当に呪われているのかもしれない。
でも……正直に言うと……
「さあ……そろそろ寮に戻る時間ですね。明日、生徒会側は新入生の報告書を作って、先生方とあのお二方の偉人に提出しないといけないんじゃないですか?」
私たちは、エイガ寮がそこまで悪いとはまったく感じなかった。
「ああ、そうだった……もうこんな時間か。よし!! お前たち、帰るぞ。私はもう風呂に入りたい」
「賛成です、エヴェリーンさん」
「ウィリアム……早くして。明日は早起きしなきゃいけないんだから。私は新入生の報告書を急いで仕上げないといけないの、あなたを起こしている時間なんてないんだからね……」
「ラケスは心配性だな。俺の母さんか?」
分からない……もしかしたら、マ—ベルのような人がいるのかもしれない。
「じゃあ……行きましょう。あなたに紹介したい友達がたくさんいるの」
友達……か。
私たちは思わず微笑んだ……こんなふうに笑ったのは、どれくらいぶりだろう。
新しい友達……だね。
とても楽しみだ……。




