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クロエの不思議な魔法の記録  作者: Sakusaku


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6: メギロディオン魔法学院とエイガ寮 2

002


「お前が足を踏み入れたこの世界は、いくつもの名で呼ばれている。だが総称するなら――“インプリジアン”だ」


彼は静かに語り始めた。


「見ての通りの大地だ。この地では、魔法を使うことができる。だが、この世界がどのように生まれ、いかなる歴史を辿り、誰が創ったのか――それを知る者は誰もいない」


唯一の手がかりは、ただ一つの伝承のみ。


『天界の救済者の伝説』。


それだけだという。


かつてこの世界は、楽園のように平和な地だった。誰もが穏やかに暮らしていた。


だが、ある日。


空から“堕ちた”存在が現れる。


天より落ちた悪魔――人々はそれを「魔女」と呼んだ。


六百六十六の魔女。


それぞれが異なる目的を持っていた。


ある者は人類を滅ぼし、

ある者は人を捕らえ実験し、

ある者はただ静かに生きていた。


だが結果は同じ。


楽園は崩れ去った。


この地の住人たちは当然、必死に抗った。

しかし敗北した。


「だが……魔法を扱う者として、そこで絶望するわけにはいかなかった」


彼らは最後の手段を選んだ。


名もなき儀式。


それは、異なる世界から魔法使いを“招く”というものだった。


そしてその時――


二人の少女と、一人の少年が現れた。


三人は瞬く間に魔法を習得し、魔女たちを次々と退けた。


結果、六百六十六いた魔女は三百三十六にまで減らされ、残りは世界各地へ散った。


三人は“インプリジアンの救済者”として語り継がれることになる。


やがて彼らは、継続的に異界から魔法使いを召喚する仕組みを整えた。


残る魔女を討つために。


そして、一人の少女が学院を設立した。


その名は――


メギロディアン魔法学院


「メギロディアン魔法使い育成学院」


「そして今――お前もまた、召喚された一人だ」


胸が冷たくなる。


それは、つまり。


「それは……死地へ向かえと言っているのと同じではありませんか?」


思わず言葉が荒くなる。


「この役目を拒んだら……どうなるのですか?」


彼は迷いなく答えた。


「元の世界へ戻る。ここでの記憶をすべて失った状態でな。なぜなら、お前はすでに試験に合格し、この世界の魔法使いとして承認されたからだ」


「……試験?」


「お前が走り回り、フリントロック銃を召喚して魔女の眷属を撃った――あれが試験だ」


――あれが?


あの、生きるか死ぬかの状況が?


わたしたちと、あの人が、命を落としかけたあの瞬間が?


「……あれが、試験……?」


あまりにも理不尽だ。


「ならば、わたしたちは辞退いたします」


即答だった。


もしあれが“選別”だというのなら。


良い素材だけを料理に使い、悪い素材は捨てる――


そんな発想と何が違うのか。


人間は食材ではない。


死ぬために選ばれる存在ではない。


もしその試験が学院創設以来続いているのなら――


彼らの“人道”は、とうに失われているではないか。


「……理由を聞いてもいいだろうか?」


彼は静かに問いかける。


「わたしたちは、あの時……本当に死にかけたのですよ。あれよりも何倍も危険な魔女と戦えなど、そんなこと――お断りです」


彼はしばし沈黙した。


ここまで強く拒絶されるとは思っていなかったのだろう。


やがて彼は立ち上がり、ゆっくりとこちらへ歩み寄る。


「……それは残念だな。せっかく君を助けたあの青年は、すでに我々の学院の保護下に入ったというのに」


「……あの方が、魔法使いとして?」


思わず彼の瞳を見つめる。


「そうだ。礼を言いたかったのだろう? だが君が帰れば、二度と会えない。惜しいことだ」


その瞳は、何よりも強く輝いていた。


正直に言って――あまりにも美しく、目を逸らせない。


「……このまま帰ってしまって、本当に良いのでしょうか」


心が揺らぐ。


「それは君自身が決めることだ」


「ですが……いくらお礼を申し上げたくとも、命を賭けるなど――」


その瞬間だった。


会長はわたしたちの耳元へ身を寄せ、そっと頭に手を置く。


低く、はっきりとした声が囁かれた。


「メギロディアン学院創設者の一人、そしてインプリジアンの血を継ぐ末裔として――

この私、ウィリアム・クレイ・アンダーソンの名において命じる。

クロエ・アンダーソン――我が血を引く曾孫よ。無条件で学院へ所属せよ」


――。


――――。


「……今、何か仰いましたか? 少々聞き取れませんでした」


「いや。ただ……君はどうしてそんなに良い香りがするのかと思ってね」


「はぁっ!?!?」


ちょっと待ってほしい。


皆から尊敬される“会長”とは、こういう人物なのか。


「申し訳ございませんが、今後二百歩以内には近づかないでいただけると大変助かります」


両手で顔を覆い、そっぽを向く。


「はは……努力しよう」


彼はどこか愉快そうに笑う。


視線が妙に意味深で、ぞくりと背筋が冷える。


「では……寮へ向かえばよろしいのですね? 道をお尋ねしようかと――」


「私が送ろうか?」


「結構です。まだ純潔を失う予定はございませんので」


「……手厳しいな」


最後まで言わせず、わたしたちは扉を開けた。


そして――


外へ一歩踏み出す。


黄金色の月光に照らされた世界が、そこに広がっていた。


見たこともない建築様式。宙に浮かぶ光。静かに流れる魔力の気配。


異世界だと分かってはいた。


けれどこれは――“別世界”などという言葉では足りない。


まるで現実そのものが塗り替えられているようだった。


その時。


背後から、柔らかな声が響く。


「インプリジアンへようこそ、少女よ」


その時だった。


白髪の少女が一人、制服姿でわたしたちを迎えるように立っていた。傍らには三人――そのうちの一人はエイドリアンだ。


「え、ええと……はじめまして……で、ございます」


「あっ、自己紹介を忘れていたわね。私はエヴェリン。フウブ寮の寮長よ。そしてこちらの男の子たちはコウガ寮所属。色黒のイケメンがラケス、隈のあるお医者さんがエイドリアン。それから――」


同年代ほどの少女が、わたしたちの前へ歩み出る。


整った顔立ち。鋭い瞳。わたしたちと同じく波打つブロンドの髪。日焼けした肌に、どこか挑発的な装い。


――決して、軽々しく関わってはいけない類の人だ。


「やあ。私はマーベル、マーベル・チョンラティチャ。タイとドイツのハーフよ。今はエイガ寮の仮寮長をしてる。よろしくね」


「わ、わたしたちはクロエ、クロエ・アンダーソン。グレートブリテン及び北アイルランド連合王国から参りました、新米の魔法使いでございます。どうぞよろしくお願いいたします」


……タイとは、どこなのだろう。聞いたことがない。


「さて――この子の寮を決めましょうか」


エヴェリンが椅子を二脚用意する。わたしたちはその一つに腰掛けた。


「試験に合格すれば、そのまま寮に入るのではないのですか?」


「いいえ。召喚された魔法使いは、それぞれ異なる資質を持っているわ。寮は単なる住居ではない。系統ごとに魔法を鍛えるための場所なの」


壁に寄りかかり、腕を組みながらエイドリアンが説明する。


「召喚者の心には“ルーン”と呼ばれるものが宿っている。それが目覚めるのは、“ルーン覚醒の儀”に参加した時だ。会長の手によってな」


エヴェリンが補足する。


「ルーンとは、その者の固有魔法の系統を決定づけるものだ。例えばエイドリアンのルーンは『奇跡級治癒』。名の通り、重傷をも癒やすことができる」


ラケスは眼鏡を押し上げながら続ける。


「私のルーンは『月を奉じ、陽を支える加護』。戦闘において仲間を強化・支援する神授系魔法だ。能力は違えど、どちらも“女神の祝福”に属する。これがルーンというものだ」


なるほど……。


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