表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロエの不思議な魔法の記録  作者: Sakusaku


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/60

5: メギロディオン魔法学院とエイガ寮

  001


 わたしたちは、ある部屋で目を覚ました。


 目の前に広がる白い天井には、豪奢なシャンデリアが吊るされている。この場所が相当贅沢な造りであることは一目で分かった。


「目が覚めたか?」


 意識を取り戻したばかりだというのに、わたしたちはすぐに声のした方へ顔を向ける。


 そこに立っていたのは、すらりと背の高い青年だった。おそらく兄上よりも高い。長袖の服に、外側から奇妙な形の白衣を羽織っている。鷹のように鋭い目つき、目の下には濃い隈。茶色の髪は乱れ、整っていない。


「…………」


 彼は、今にもわたしたちを殺してしまいそうな目でこちらを見ている。


 状況が呑み込めないまま、わたしたちはただ見返すことしかできなかった。


「まあいい。返事をしなくても、元気なのは分かる」


 口ぶりから察するに、彼は医師なのだろう。だが見た目は、わたしたちとそう年が変わらぬように見える。


「ここは……どこでございましょうか?」


「医務室だ」


 ぶっきらぼうに答え、こちらを振り向きもしない。


「では……わたしたちはこれで――」


「まだ起きるな!」


 突然の制止に、思わず肩が跳ねる。


 わたしたちは再びベッドへ身を横たえた。


「何か問題でも……?」


 怖れながらも尋ねる。


「今の君の身体は、俺の回復魔法にまだ順応していない。無理に動けば、最悪の場合は麻痺が残る」


 ――回復魔法?


 先ほど、この若い医師はそんな理解不能な言葉を口にした。


 はは……そんなものがあるわけがない。


「冗談を仰っているのですか?」


「俺が患者相手に冗談を言うように見えるか?」


「……っ!」


 一瞬だけ、彼の目が人ならざる冷酷さを帯びる。


 この人は……怖い。


 あの性悪な貴族たちと、どこか似ている。


 正直に言えば、恐怖で身体が強張る。逃げ出したい。だが先ほどの言葉のせいで、動くこともできない。


「申し訳……ございません」


 結局、謝ることしかできなかった。


 相変わらずだ。わたしたちは弱いまま。


「……まあいい。君は今、この“世界”に来たばかりだ。信じられなくても無理はない」


 どうやら、咎める気はないらしい。


 謝れば終わる。それもまた、何も変わらない現実。


「……その魔法とは、何のことでしょう?」


「君がフリントロック銃を召喚して、魔女の眷属“ノルマル”を撃っただろう。あの鶏ガラみたいな奴だ」


「……っ!」


 記憶が蘇る。


 迷い込んだ場所。あの骨のような怪物。そして、銃。


 それから――誰かが、助けてくれた。


 優しくて、穏やかで……


 けれど顔が思い出せない。


「それにしても大したもんだ。あの状況で自分の傷を処置するなんてな。しかも上出来だ」


「い、いえ……あれは別の方が」


 どうして彼は、あの時のことを知っているのだろう。


「ふうん……なら、その誰かも大した腕だな。ここでもやっていけるだろう」


 そう言って、彼は赤いラカラアヴァットを投げてよこす。


「これは……」


「君の傷口を縛っていた布だ。おそらく、その“誰か”のものだろう」


 そうだ。わたしたちは転び、あの人が手当てをしてくれた。


 けれど――その人は誰だったのか。


「お礼を申し上げなければ……」


 血の滲んだラカラアヴァットを、強く握りしめる。


「さて……そろそろ大丈夫だろう。立てるか、お嬢さん?」


 彼は椅子から立ち上がり、わたしたちを支える。


「痛みは?」


「ございません」


「よし。なら寮へ戻って休め。明日また診る」


「寮……というのは、寮のことでございましょうか?」


 頭の中には、あまりにも多くの疑問が渦巻いていた。


 混乱している。何もかもが分からない。


「ええと……俺は説明があまり得意じゃなくてな」


 若い医師がそう呟いた、その時だった。


「ならば、私が説明しよう」


 いつからそこにいたのか分からないが、一人の青年が室内に姿を現した。


「何度申し上げれば分かるのですか。お越しになる際はノックを、と。ウィリアム会長」


 口調も発音も、わたしたちの故郷と同じはずなのに。


 それなのに――


 彼からは、何よりも高貴で、眩い光のような気配が静かに立ち上っている。


「すまないな、エイドリアン。少し個人的に話したい相手がいてね」


 そう言って、彼はわたしたちへと視線を向ける。


「そうですか。では、私は退室いたしましょうか?」


「うむ。邪魔をして悪かった」


 若い医師――エイドリアンは、静かに部屋を後にした。


 扉が閉まる。


 部屋には、わたしたちとその青年だけが残された。


 沈黙。


 けれど先に口を開いたのは、彼の方だった。


「体調はどうだ?」


 低く、男らしい声。


 しかし同時に、羽のように柔らかく、優しさを含んでいる。


「大事はございません……ですが、先ほどの出来事にまだ困惑しております」


 正直な気持ちだった。


 彼は小さく頷く。


「そうか。では、私が説明しよう」


 一歩、こちらへ近づく。


「少し長くなるが――きっと、お前の疑問の多くは解けるはずだ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ