64: 人々が密か違法な酒を売っていた時代を振り返る。
014
「さて……」
今回は一人で来た……みんなはそれぞれ魔法の訓練をしているからだ。寮の入口前に着くと、私はノックして合図を送った。
ヴェント寮の正面玄関は、ゾルディック家のような分厚い鉄の扉だった……ノックすると、のぞき穴からこちらを確認する目が見えた……
「訓練の申請をしたアンダーソンです……」
向こうはのぞき穴を閉め……正面扉が開いた。中に入ると、レトロな服を着た女子学生が私を正面扉の隣にある守衛室へと案内した。
「こんにちは……」
「あ……こんにちは……」
「この戸棚から服を一着選んで……男性用でも女性用でもどちらでもいいわ……ここは一九三〇年代のレトロファッションしか着られないの」
なんてルールだ……でも着なきゃいけないのか。
「わかりました……」
彼女は出て行った。私は戸棚から服を選んだ……女性用は戦いに向いていないと思い、スーツを選んだ。
「少し髪をまとめようかな」
着替え終えると……自分がボディガードみたいに見えた。
「わあ……なかなかかっこいい」
部屋を出ると……あの女子学生が車を用意して待っていた……
「乗って。ボスのところへ案内するわ」
まるでマフィア映画の中にいるみたいだ……
「はい……」
寮の中には建物が非常に多かった……その雰囲気を見るかぎり、一九三〇年代のニューヨークに間違いなかった……ただし、ホームレスも破壊行為も現実のそれとは違って存在していなかった。
しばらく走ると……彼女が話しかけてきた。
「ボスのことは知ってる?」
「知らないです……私を訓練に受け入れてくれた人がボスなのかどうかさえ分からなかったので……」
ヴェント寮の同じクラスの生徒から教えてもらった電話でやり取りしたのだが……誰が電話に出たのかは分からなかった。
「そうなの……じゃあチャンニーかな。ボス自身は電話に出ないから……」
「はあ……」
「実はね……私たちのボスはもともとカモッラのボスを継ぐ候補の一人だったの……でも殺されそうになったから、インプリジアンで勢力を広げたってわけ……」
「カモッラ?」
「イタリアの犯罪組織のことよ……」
犯罪……組織……
まずいことになった……訓練を受ける前に死んでしまうんじゃないか……
「着いたわ……」
車から降りると……目の前にそれほど大きくはない邸宅が現れた……古い車が何台も停まっていて……玄関前には警備員が立っていた……
「……………これは」
マフィアの邸宅だ……見ただけで分かった……
「ついてきて……」
私とその女子学生は一緒に邸宅の中へと入っていった……
廊下を少し歩くと……中から話し声が聞こえる応接間に着いた……
「ボス……お客様がいらっしゃいました」
「来たか……」
部屋に入るなり、部屋に何人もいるというのに、誰がボスなのかは一目で分かった。
「座りなさい……」
清潔感のある装いの若い男だった……白い髪をうしろにかき上げ……高級なスーツを着ていた。目はライオンのように鋭く……気圧されるオーラに思わず素直に座ってしまった。
「あなたがアンダーソンの娘か……」
「……はい」
私は震え気味の声で答えた。
「ふむ……なぜ私のところへ訓練に来たんだ……」
「私のルーンは……他の種類の魔法も使えるんです……」
「それは知っている……私が聞きたいのは……なぜ他でもなく私のところへ来たのかということだ……」
彼は同じことをもう一度聞いた……でも意味はまったく違った……私はしばらく考えた。頭の半分以上を使って、答えと呼べるものを絞り出そうとした。
しかもこの人たちは全員武器を持っている……
「……わかりません……」
「分からない……か」
言い終えると、彼は拳銃を取り出して私の頭に向けた……
「その答えは……なかなか気が利いているな……」
私は目をきつく閉じた……撃たれて死ぬのを覚悟した……
そして彼は引き金を引いた……でも弾が切れていた。
「ははっ……ははっ」
彼は小さく笑った……すると部屋の全員が面白そうに笑い出した。
「えっ……これって……どういうこと……」
「ただからかっただけだよ……旧世界のカモッラみたいに振る舞ったらインプリジアンから追い出されると本気で思ってるか……」
目の前の言葉についていけなかった……なんなのこれ……
「じゃあ……あなたたちは悪い人たちじゃないってことですか……」
「悪い人間、それは違う……私たちはただ、この世界で足を洗うことができた悪者たちに過ぎないよ……」
確かに彼の言う通りだ……マフィアはどこの世界でも合法な職業ではない。
ボスはワイングラスをテーブルに置き……ワインを注いだ。
「だから……今回の訓練で私たちは一切手を抜かない……」
彼から凄まじい気迫が放たれてきて……私は一瞬ひるんだ。
「私の名前はドンニ。私とこの寮の全員が、この寮の各地点に散らばる……あなたは正面玄関からここへ辿り着いてみせなさい……このワインを飲み干せたら……訓練の許可証にサインしてあげよう……」
私はこぶしを強く握り締めた……ヴェント寮での訓練を受ける覚悟を決めた。
「はい!……」
正直なところ、「ヴェント寮」のコンセプトを思いついたのは、すでに20章ほど書き進めた後のことでした。タワー全体を1930年代のニューヨーク風にしたらすごくカッコいいだろうと思ったんです。というのも、当時読んでいたライトノベル『バッカーノ!』にすっかり夢中になっていて、そこからインスピレーションを得たからなんですよ。




