58: ニトラ寮 3
008
市場から出ると……タージマハル? たぶんそうだよね。
「あれ……あれってタージマハルじゃないの……」
「うん……あれがニタラ寮の寮舎ね……」
その建物の外観はまさにタージマハルそのものだった。通路の真ん中には噴水つきの池があり……その周辺にはくつろいでいる学生がたくさんいた。
「姫子!!」「こんにちは!!」
多くの学生が姫子さんと顔馴染みのようだった……池田先輩が彼女の夫なのだから当然といえば当然だ……
姫子さんは小さく手を振って挨拶を返した。
「なんか……すごすぎるんだけど……」
「そうでしょ……ここはほぼタージマハルをそのまま再現してるのよ……」
「あら……来るのが早いじゃない……市場は歩かなかったの?」
池田先輩が私たちを出迎えに来た。
「さっき歩いてきたとこですよ……チャイも一杯買いましたし……」
「そうなんだ……お腹痛くなってきた?」
このおっさん!
「今すぐひっくり返してあげますよ……」
すると彼がまた近づいてきて……
「まあまあ……そんなこと言わないでさ……あっ、うっ!!!!」
池田先輩がからかいモードになると姫子さんが対処するのがいつものパターンだ。でも申し訳ないですね先輩、私も一発急所を蹴らせてもらいますよ。ずっとやりたかったんです。
「よくやったわクロエちゃん」
姫子さんはなんと拍手まで送ってくれた。
「蹴りが強すぎるだろ……人類が滅亡するぞお前のせいで……うぅ……」
「私に気安く触れないでくださいよ……私に触れていいのはルイスだけなんですから……他の人は禁止ですよ……」
そう言いながらリボンとマーベルをちらっと見ると、二人はうんざりした顔をしていた。
それほど愛情表現が嫌いなのか……やれやれ……
「では……よろしくお願いします」
私たちはタージマハルの中に入った。内部には本物に引けを取らないほど美しい建築が詰まっていた。豪華な調度品が数多く置かれ、どこにでも見事なシャンデリアが吊り下げられていた。本棚にはさまざまな書物が並んでいる……内部は広々として壮大で、かつての王の宮殿を彷彿とさせた。
「わあ……なんか……どこかの王様の宮殿だって言われても信じるわ」
「何度来ても同じように圧倒されるわね……」
「ここが応接間ね。他の子たちはあなたたちが見た通りで、市場で商売してる子もいれば、他の国に任務に行ってる子もいるけど……全体的にかなり活気ある寮よ」
私に急所を蹴られてまともに歩けなくなった池田先輩が、姫子さんに支えてもらいながら言った。
「うちの寮は部屋数がすごく多くてね、建物自体も広いから、他の寮みたいに建物が分かれてたりはしないんだ……」
「それで……この寮の寮長さんは……」
「ああ……ルンラーマさんのことね……彼はとても優しい人なのよ。それがまた不思議でね……他者を操る力を使う者ばかりの寮にいるのに、本人の性格は信じられないくらい穏やかなの……」
なるほど……そういえば……ここに来た人はみんな周りに優しいんだよな……
まあ、それはいいことだけど……
「この部屋ね……」
少し歩くと大きな扉の前に着いた……池田先輩が軽くノックすると、部屋の中から声が聞こえてきた。
「誰?……」
「俺です……会長に会いたいってお客さんが来てます」
「ああ……約束してたね。入ってもらっていいよ」
扉を開けると、日焼けした肌の若い男性が一人、屋上で外の景色を眺めていた。女子学生も一人一緒にいた。彼は背が高く、長ズボンだけを穿いて上着を着ておらず、引き締まった筋肉が見えていた。ぼさぼさの髪もしていた。
「こんにちは……ご連絡していたアンダーソンです。訓練許可を申請したいんですが」
私は訓練許可申請書を差し出すと、彼はすぐに署名してくれた。
「ふむふむ……ペニー……」
「はい?」
屋上に立っていたもう一人の女子学生が呼ばれた。
「お客さんを練習室に連れて行ってあげて……それと、彼女にかかってる操作魔法も解いてあげて」
えっ……? 操作されてる……私が?
「ちょっと待ってください!!! 操作ってどういうことですか?」
「そうですよ!! 私たち全然そんな話知りませんでした……」
「私たちはずっと一緒にいたのに……どうやって操作されるっていうんですか!!!」
「……クロエちゃんが……操作されてたの……」
私は必死に思い返してみたが、何も思い当たらなかった……
ルンラーマさんは手を上げて制止し……説明を始めた。
「実はそんなに深刻な操作魔法というわけでもないんです……推測するなら、アンダーソンさんの性格を自然な形に整えるような自動魔法ではないかと思いますよ……」
性格を操作?
「でもどうして……?」
「最初にここへ来た時、あなた自身は入学を断ろうとしていたのかもしれない……それで、あなたをこの学院に入学させ、少しずつ性格を変えながらここに馴染ませるために操作されたんじゃないでしょうか……」
「それをやったのは誰なんですか……」
聞きながらも、心当たりは既にあった。
「ウィリアム会長でしょうね……」
みんな黙り込んだ……ただ理由を待っていた。
「理由は単純明快で……アンダーソンさんが他の人より特別だからですよ」
みんな同時に頷いた。
あらゆる形式の魔法が使えること……相手の弱点を見抜ける目……そして何より……私はお母さんの娘だから……
「それに、ルイスくん自身も入試でノーマルを一体も倒さずに合格したって聞きましたよ……」
私たちだけじゃない……ルイスまでも……
マーベルから聞いた話では、この学院の入試条件はどんな方法でもいいからノーマルを一体倒すことだった。でもルイスはノーマルを倒さなかったのに合格していて、それが不思議だったのだ。
「彼のルーンはGoodDay、私のルーンはNight Mare……それに彼も相手の弱点を見抜ける目を持ってるんですよ……」
「それなら、会長がこのすべてを仕組んだと確信できるね……」
彼と私が特別だから……それが魔女に対処するうえで非常に重要な戦力になるということだ。
「では……よろしくお願いします、ペニー先輩」
ペニー先輩が魔法で操作魔法を解いてくれると……感覚は何も変わらなかった……つまりこれは、時間をかけて対象者自身が望む方向へと意識を誘導していく操作魔法の一種だったということだ……目標が気づかないまま時間が経てば、誘導は成功する。
「……………」
ということは……最初に断ったのは、ここが人を戦場に送り込む場所だと思っていたからに違いない……
でも今の私にはもう、それがそんなに悪いことだとは思えなくなっていた……
まあ、それでよかったのだろう……
ある塔
その塔は学院の試験場の中に建っていた……造りは古い牢獄のような塔と大して変わらなかったが、内部には家具や設備がひと通り揃っていた。
そしてこの塔こそが、メギロディアン魔法訓練学院の生徒会長の個人室だった。
「……?」
シャワーを浴びていた彼は、何かを感じ取った……シャワーヘッドからは水が絶えず降り注いでいた。
「誘導魔法が解かれた……ルンラーマか……」
「まあ、いいけど……」
彼はただ微笑んで……うつむいたまま水を頭に浴び続けた。
「もうクロエは馴染んでいる……今解いても問題はないな……」
今は冬だというのに、ウィリアムはそのままシャワーを浴び続けていた……
『HUNTER×HUNTER』が今週の日曜日に再版されるので、すごくワクワクしています…しかも読者数も増え続けているんです!本当に嬉しいです。




