52: 犬を飼い、子供を愛する冷酷な銃撃犯。
002
金曜日、医学棟……
魔女との戦闘で、多くの学生が怪我を負っていた……程度は人それぞれだったが。
「もう大丈夫だって言ってるじゃない……」
「うぅ……助けに行けなくてごめんね……うわあん!」
今泣いているのは他でもない、私自身だった。ドロシーを助けに間に合わなかった罪悪感で、病院着の彼女を見た瞬間、涙が止まらなかった。
「このバカ! ちょっと傷ついただけじゃない……泣くのやめなさいよ!」
「いたっ!!」
ドロシーに手刀で頭を叩かれた。
「傷はもう治ってる……あと二、三日入院して身体が完全に回復したら寮に戻れるわ……」
「うん……」
「子どもみたいに泣くのね、あなたって」
もちろんそれを言うのはピンク髪のヤンキーに決まっていた。
「うるさいわよ……」
「それでヒメコはどうなったの?」
「昨日もう医学棟を出たわよ……でも池田先輩が、しばらく寮で休んでてほしいって言ったらしくて……今日は私たちと一緒に来られなかったの」
「ふふ……先輩ってば、普段はあんなに飄々(ひょうひょう)としてるのに、ヒメコのこととなると別人になるわよね……」
そこへ看護師さんが扉を開けて、午前の面会時間が終わりだと知らせてきた……私たちは挨拶して先に失礼した。
「そういえば、もう学期の中ごろから終わりにさしかかってきたわね……」
「うん……あっという間にもう半年近くなるわ。最初、クロエはまだ新入生だったのに……」
よく言われるように、幸せな時間はいつも早く過ぎていく……この感覚こそが、長い間ずっと求めていた幸せに辿り着いた証拠なのかもしれない。
「はあ……試験の話が出るたびに気が滅入るわ……二人に頼って勉強を見てもらうしかないわね」
「あなたが勉強できないって今さら知ったわ……」
「なんですって! そんなに死にたいなら来なさいよ、このガリ勉!」
「ここ病院の中よ、静かにして……」
マーベルが止めに入ってくれて良かった。そうじゃなかったら……ふん! からかわれたこと、まだ根に持ってるんだから。
「中間試験って筆記なのかしら……なんか普通すぎる感じがして」
「まあ……中間試験ってそういうものよ……でも正直に言うと、ここの試験ってもといた旧世界と全然違うわ……」
「マーベルの故郷ではどうやって試験をするの?」
「基本的には教科書の一単元が終わるたびに小テストがあるの……確認テスト、って呼ぶのかな?」
「つまりほぼずっと試験があるってこと……」
「そうね……」
それを聞いたリボンが安堵のため息をついた……ここで勉強していなくて本当に良かったわ。
「インターネットで調べたところによると、それは学習者の成長を評価するためのテスト制度らしいわ。今の時代は色々(いろいろ)な国でも使われてるって書いてあった」
私はスマートフォンを取り出してすぐにネットで調べた。この四ヶ月でスマートフォンの使い方もすっかり身についた……少し誇らしい気持ちになった。
「今の時代に生まれなくて、少しだけ良かったと思う……」
「でもここだって現代の国際標準の教育制度を使ってるから、十分すごいわよ」
「勉強すればするほど頭が痛くなる……まあいいか、あと二日で日曜日だし」
三人でロビーへと階段を下りていると、ユイカちゃんが私に歩み寄ってきた。
「クロエ……今、話せる?」
「あら……二人って知り合いなの?……何の用?」
「シーモさんが呼んでるの……あなたに話したいことがあるって……」
ついに……お母さんのことを、聞けるんだ……
「そうなの……分かった……じゃあ二人とも先に行ってて……」
二人に手を振ると、リボンが今日は私たちグループの料理当番だから早めに戻ってくるようにと釘を刺した。
二人で駐車場に向かうと、セダンが一台停まっていた……
駐車場には他にも車が並んでいたが、そのセダンはひと目で分かるほど際立っていた。
「いい車ね……」
思わず口に出した……車に詳しいわけじゃないけど、赤いセダンでフォルムが美しかった。改造はされているけど、レーシングカーというよりは高級感を出す方向に仕上げられていた。
「ありがとう……行きましょ、待たせたら悪いから」
「ところでクロエって運転できる?」
「えっと……リボンが教えてくれたの。何かあった時に他の人の代わりに運転できるようにって……」
「私も前は運転できなかったけど、ヤグチが教えてくれたの」
「仲良しなのね……二人って」
「まあね……弟はあんなにたよりなさそうに見えるけど、いざとなったら頼りになるのよ……」
「いいなあ……私にもお兄さんがいるけど、そういうやりとりってあまりなかったから……」
「……世の中ってそういうものよ」
「それとシーモさんってどんな人なの?」
「うーん……なんて言えばいいかな……すごく頼りになるリーダーで先輩よ。言葉はきつくても、その言葉はいつも的確なアドバイスなの」
「なるほどね……」
約束したなら果たさなければならない……その言葉はずっと頭に残っていた。お母さんの言葉だとしても……彼がはっきりと口にしてくれた言葉として。
「厳しそうに見えて、抜けてるところもあるのよ……まあ行けば自分でわかるわ……」
そこまで言われたら行かないわけにはいかなかった。
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雷嵐塔……
この寮は学生寮というよりも軍の基地に近い雰囲気だった……中に入ると、舗装された道路が建物の間を走っており、建物は五、六棟しかなかった。霸嵐塔より少し大きいが、それでも小さい方だった。
道路では学生たちが走っていたり、射撃の練習をしていたり、体を鍛えていたり……極めつけは目隠しをしたまま銃の組み立てをしている学生までいた。
「こっちよ」
寮の敷地の中心には、ひときわ大きな建物があった。アメリカの議会図書館のような形をしていた。
「わあ……すごく大きい……」
「ここが寮の本棟ね……ラウンジ(らうんじ)や娯楽室もあるわ……あっ、ロビーに漫画も置いてあるし、数ヶ月前にゲームルームもできたのよ」
「へえ……思ってたイメージと全然違うわ……」
「でしょ……これだけ大きな建物があるんだもの……」
扉を開けた瞬間……目の前の光景に笑いを堪えるのが大変だった。
ユイカちゃんから抜けてるところもあると聞いてはいたけど……ここまでとは思っていなかった。
「あら……来たのね……」
目に飛び込んできたのは、豪華に飾られていたはずのロビーが、今や子供部屋のようになっている光景だった。
華やかなはずの部屋はピンクのカーテンで覆われ、リボンや風船があちこちに飾られていた。シャンデリアには星の飾りがぶら下がり、ドラムセットが置かれ、大きなクマのぬいぐるみが何体も並んでいた。
そして部屋の中央には、この空間にまったく似合わないシーモが座っていた……
本を読みながら……
「わんわん……」
小さな子犬を撫でていた。しかもそれだけではなく、二階の階段のほうからは女の子の笑い声が響いていた。
「あ! 早く来てくれた! ようこそ私たちの寮へ!」
その子が明るく声をかけてきた。ピンクのロリータドレスを着て、バラ飾りのカチューシャをつけていた。まるで人形のような可愛らしい顔立ちだった。
「お嬢様……ヤグチは?」
「お腹を壊したみたいで……薬を飲ませたから大丈夫だと思うけど」
お嬢様……? ちょっと待って……
ここって……本当に探索隊の寮よね……?
今日、どれくらい読者が増えるかは分かりません。もし過去3日間と同じくらい増えれば、とても嬉しいです。




