29: 地獄
001
水曜日の放課後
「これって本当に寮なの?……」
「そうよ……何を変なことを聞いてるの」
目の前に広がるのは、美しい建築様式を持つ宮殿のような建物だった。空気は蒸し暑かったが、夏の制服を着てきてよかった。エイガシ寮でさえ立派だと思っていたのに、アッキ寮はそれ以上だ。
「うーん……この宮殿は来客用のゾーンだけよ。実際の宿舎は奥の方にあるから」
「すごい……」
私たちとリボンは正門へと歩いて行った。周囲の気候がかなり暑いため、かなり遠くに車を止めてここまで歩いてきた。
「夏の制服が黒い半袖のセーラー服なの、改めて見ると不思議な感じがするわね……」
「だって考えるのが面倒だったんだもん。これで十分よ。髪にリボンも結んだし、かわいいでしょ……」
「その格好を見てたらなんかヤンキー女子を思い浮かべるのよね……」
「誰がヤンキーよ!!!!」
「黒い半袖セーラー服に黒いショートスカート、ピンクの髪、ピアス、口が悪い、剣道の木刀まで持ってる……完璧に当てはまるじゃない」
「もう……このオタクめ……ほんとに嫌になる」
「白いソックスまで履いたら完璧ね……」
「あなたって……友達でよかったわよ……そうじゃなかったら……もう……」
「はいはい……さあ行きましょう……」
「ふんっ!日に日に性格が変わってきてるわね。あの上品なお嬢様はどこに行ったのかしら……まったく人間って不思議ね」
「あっ……えっと……うちの寮に何か御用でしょうか」
ここもエイガシ寮と同じような造りで、大きな門があってインターフォンがあった。ボタンを押すと寮生が出てきて用件を聞く仕組みになっていた。
「その……アーディタクさんに会いに来ました。魔法の訓練をしに来たんですが」
私たちは男子生徒に練習申請書を差し出した。リボンは一緒に訓練するわけではないので書類は出さなかった。
「ああ……アーディタクさんのお客さんですね。どうぞ」
彼がドアを開けて、私たちをその美しい宮殿の中へと招き入れてくれた。
「すごくきれい……」
「でしょう!うちの寮長がずっと大事に管理してきたんですよ。アーディタクさんは最初期の寮長の一人ですし」
「えっと……学院が創設された頃からいるんですか?」
「まあ……そういうことになりますね。確か最初期の生徒会メンバーの一人でもあるらしいですよ」
「ふーん……でも不思議ですね……あの方って、こういった建築とかに興味を持ちそうには全然見えなくて……」
「そうなんですよ……本当に人は見かけによらないですよね。さあ、着きましたよ」
「ご案内ありがとうございます」
二人でお礼を言ってドアを開けようとしたところ、男子生徒が私たちを引き止めた。
「えっと……ご存知かどうかわかりませんが……アーディタクさんのそばではエバリンさんのことは話題に出さないようにしてください……」
アーディタクさんがエバリンさんのことを「氷みたいな奴」と呼んでいたのを聞いただけでも、仲が良くないのは明らかだ。お互いの寮に損害が出るほどの仲なら、絶対に話題にしない方がいいだろう。
「なんでそんなに仲が悪いんですか」
ずっと気になっていた。
「えっとね……聞いた話では、アーディタクさんは見た目がヤンキーみたいだけど実はとても優しい人なんです。エバリンさんはそういう見せかけだけみたいな人が好きじゃなくて、直接指摘するようになったのかもしれないですね……」
「それだけですか?」
「人って外見だけで判断しがちで……その人がどんな人かを見ようとしないんですよね。見ただけで勝手に決めつけてしまって」
「……………」
「まあ……とにかく訓練がうまくいくといいですね」
「あ……えっと……ありがとうございます……」
二人で顔を見合わせて肩をすくめてから、ドアを開けて中へ入った。
「ははははははは!また俺の勝ち!記録しとけよ、負けたやつは飯一食おごりだからな!!!!」
アーディタクさんは他の生徒たちと楽しそうにゲームをして遊んでいた。
「まったく……格闘ゲームをやるたびに負けるのよ。あら……お客さんが来てるじゃない」
「え……あれ……四時に約束してたんじゃなかったっけ?」
「もう五時ですよ!立ってください!他のみんなが順番待ちで死にそうになってます」
さっきまで一緒にゲームをしていた女子生徒がぼやきながら紙扇子でアーディタクさんの頭をはたいて、やっと立ち上がって払いのけた。
「わかったわかった。おい、次にやるやつ、コントローラー壊すなよ!!」
「はーい」「はーい」
「誰かに似てるわね」
私たちはそばでぽつんと立っているピンク髪の少女をちらりと見た。
「私に絡まないでよ」
「はいはい……ついてきて……」
宮殿の奥へと続く廊下を歩いていった。廊下も内装もどこから見ても、炎のごとく血気盛んな生徒たちの集まり場所とは到底思えない雰囲気だった。
「こっちだ……」
そしてこの寮の練習場に辿り着いた。漫画でよく見るような学校の校舎に似た建物で、正面には芝生の広場があった。
「俺も誰かに教えるのは得意じゃないんだけど……戦い続けていれば自然と結果が出るんじゃないかな」
「よろしくお願いします……」
「そうそう……危うく忘れるところだった」
アーディタクさんはポケットから透明なカプセルを取り出した。
「これって……」
「仮設の模擬戦闘室を作り出すカプセルだよ……」
「どういうものですか……」
「詳しくはわからないけど……これで周囲を模擬戦闘室にできるんだ」
なるほど……これがあればいつでも戦闘訓練ができる。サリバン教授に手を煩わせなくていいし。
アーディタクさんがカプセルを振ってから芝生に向かって投げると、パンッと割れた。
ジュワジュワ……青い煙が辺り一帯に広がった。全く匂いのない煙だった。そして煙がゆっくりと集まって、広場の幅と同じくらいの大きな四角形の形になり、透明な青い壁が出現した。
「すごい……」
「いいだろ……じゃあ始めよう」
私たちは模擬戦闘室へと入り、構えを取って戦いの準備をした。
今は合気道をある程度練習してきたし、動き方も少しはわかっている。
「一ヶ月以内に火の魔法を使って私の体に触れることができたら……練習の認定証にサインしてあげるよ」
私たちは素早く飛び出して彼を捕まえようとした。彼も同時に飛び出してきた。
私たちが避けるとアーディタクさんがこちらと逆方向に突っ込んでいった。その隙に私たちはすかさずルーンを発動させた。
ガキッ!《365→364》
『Selix Doré(女神の火縄銃)』
いつもと同じ火縄銃が右手に現れた。私たちは長い銃を左手一本で構えた。
【前よりも軽い……合気道の訓練が効いてるんだね……】
アーディタクさんに銃を向けた。しかし彼はただ向こう側に立ったまま動かなかった。
「……………???」
なぜ……立ち止まって……あれ……なんか……目がくらみ始めてる……
「一つ言い忘れてたことがあってね……」
「……………あれ……」
「さっきからずっと暑く感じてると思うんだけど……」
「……そう……なの……」
駄目だ……聞こえてこない……相手が何を言ってるか……
「実はね……玄関の前からずっとルーンであなたの体温を上げてたんだよ」
「……!!!!??????」
「今のあなたの体は熱射病状態なんだよ……」
「……………」
「漫画「炎炎ノ消防隊」を読んだことありますか?…彼女は、元修道女と戦っている主人公にそっくりなんです。」
「……何……ですって……」
「まあ……でもこれはまだほんの一部だけよ。ここからが本番だよ!!!!」
ガキッ!《44,907→44,906》
『Fire Attention(奈落の業火に引き寄せられし者)』
大地が轟音とともに割れて、まるで地獄に落ちたかのような猛烈な炎が吹き上がった。
「はっ……はっ……」
今すぐ立ち上がらないと……死ぬ……
正直に言うと、1~3日に1章のペースで書くのはものすごく疲れるのですが、読者の皆さんがこの物語を読み続けられるなら、それだけの価値はあります。




