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クロエの不思議な魔法の記録  作者: Sakusaku


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10: メギロディオン魔法学院とエイガ寮 6

  007


「着いたよ。寮『エイガ』だ」


「わあ……」


 寮とは言っても、正直に言えば、中世の王国と呼んだほうがいいくらいだった。正面には大きな木の扉があり、その横には小さな扉がある。周囲は高いレンガの壁に囲まれている。


「早く……みんな待っているよ」


「うん……」


 中に入ると、雰囲気も外観も正門とはまるで別世界だった。角の丸い四角形の建物が精巧に作られ、全面にガラスが張られた建物が三つ並んでいる。周囲には広い花園があり、右側には……えっと……太い縄のようなものが巻かれた赤い扉があった。その中には、小さな家があり、神の像が置かれていた。私たちにはとても不思議に見えた。


 左側は、いくつものグラウンドがある広い草原になっている。


「こっちだよ」


 マ—ベルは、美しい花園に挟まれた道を私たちに案内した。月の光を浴びていても、その美しさはまったく変わらない。そして前方には、空に届きそうなほど高いガラスの建物が並んでいた。美しく、そして私たちには不思議に見えた。


「ここは寮なの? それとも王国なの?」


「実は、うちの寮が一番小さいんだよ。本当に大きいのはニトラ寮だね。あそこは小さな国くらいの大きさがあるんだ」


 それって本当に寮なの?


「もともと私たちの寮は、もっと汚れていたんだけど、だいたい千二百……五十年前くらいかな。当時の寮長が21世紀から来た人で、ここを改修してね。それが終わった頃に私が召喚されたんだ」


 ここに長くいるほど、時間の感覚がどんどん狂っていく……でも慣れないといけない。


「マ—ベルは、インプリジアンに来てから何年になるの?」


「六百二十年だよ」


 現実の世界の基準で考えると、六十二年か。


「まあ……二週間くらいすれば慣れるよ。その間に分からないことがあれば、みんなに聞けばいい……」


 建物の扉を開けた瞬間、マ—ベルは会話を止めた。


「どうしたの……」


「しっ……」


 彼女は急いで私たちの口に指を当てた。


 建物の中はとても暗く、何も見えない。


「クロエ……」


 マ—ベルが小さくささやいた。


「どうしたの……」


「電話があるでしょ、左のテーブルの上。分かる? ダイヤルを6に三回回して、それから受話器の間にあるボタンを押して」


「待って、マ—ベル……何が起きてるの?」


「リボンがまたアンデッドを召喚して、制御できなくなったんだ。早く。終わったら棒でも固いものでもいいから持って、私についてきて」


「わ……分かった」


 私たちは言われた通りテーブルへ向かった。


「えっと……6……三回回して……それから押す」


 すると、すぐに何度も電子音が鳴り始めた。


「棒……棒……ない。これでいいや」


 私たちは、革のようなものが貼られた奇妙な金属板を手に取った。


「おお、折りたたみ椅子か。いいね。じゃあ行こう」


 マ—ベルはゴルフクラブを武器として取り出し、私たちはリボンの実験室がある地下室へ向かった。


  008


 途中、マ—ベルは照明の魔法を使って前を照らしたが、それでも怖かった。


 私たちは地下室の扉まで進み、そこに一人の少女が倒れているのを見つけた。


「ま……マ—ベル……ちゃん?」


「えっ! 姫子ひめこ!!! 大丈夫!? みんなどこに行ったの!!??」


 まだ意識はあるようで、少し安心した。


「わ……分からない……私は……食べ物を探しに来ただけ……でも急に……襲われて……」


「分かった!! クロエ、薬箱を取ってきて!! 前の部屋の棚にある!! ガーゼも!! 姫子ひめこの腕に噛み跡がある!! 深い!!!」


「うん!! 分かった!!」


 私たちはすぐに扉へ走り、別の部屋へ向かった。しかし、その瞬間、扉を開けると――


「きゃあああああ!!!!!!!」


「ガアア!!!!!」


 アンデッドたちが、その部屋から一斉に飛び出してきた。まるで中に押し込められていたかのようだった。


「外に助けを呼んで!! 姫子ひめこも連れて!!」


「でも!!」


「早く!!!」


「さあ、姫子ひめこ、ゆっくり立って……」


 ドーン!!! 地下室の扉が破壊され、アンデッドたちが一気に溢れ出してきた。


「きゃあああ!!!!!!」


「早く下がって!!!」


 前後からアンデッドに挟まれた。


姫子ひめこを壁にもたれさせて、テーブルで守って!!!」


 マ—ベルは全力で彼らを打ち払おうとしたが、どうにもならなかった。私たちも折りたたみ椅子で叩こうとしたが、結局効果はなかった。


「噛まれないで!! 噛まれたら姫子ひめこみたいに感染するよ!!」


「マ—ベル!!! ナイフ!!! テーブルにナイフはある!?」


 私たちが入った部屋には吊るされた鍋がたくさんあった。つまりここは厨房で、厨房ならナイフがあるはずだ。


「時間を稼いで!!」


 マ—ベルは姫子ひめこが休んでいる場所の横にあるテーブルへ走り、すぐに引き出しを開けた。


「ビンゴ!!!!!」


 その瞬間、マ—ベルはナイフをアンデッドの胸へ正確に投げつけ、私たちはゴルフクラブで頭を叩いて一歩後退させた。


「クロエ、交代!! 姫子ひめこの様子を見て!!」


 マ—ベルは大きな肉切り包丁を持ってこちらへ走ってきて、私たちも姫子ひめこのところへ急いだ。


「はい、交代!!」


 マ—ベルはアンデッドを斬りつけ、血が大量に噴き出した。まるで血袋がいくつも破裂したようだった。


姫子ひめこ!!! 姫子ひめこ!!!!! 私たちの声、聞こえる!? 今、すごく痛い!?」


 姫子ひめこは応えようとしたが、口から出たのは弱々しい声だけだった。


「マ—ベル! 姫子ひめこの様子が悪くなってきた!! どうしよう!!」


「こっちも余裕がなくなってきた!!」


 マ—ベルがどれだけ斬っても、ほとんどはすぐに元の状態で起き上がる。しかし、斬られて消える個体もあり、数は多少減っていた。それでもまだ多かった。


 しばらくして、マ—ベルは動きを止めた。


「はぁ……はぁ……」


 マ—ベルは限界に近かった。


「マ—ベル! 下がって!!」


 私たちはマ—ベルの手から肉切り包丁を奪い、彼女を押し下げた。


「やああああ!!!!!」


 私たちは全力で振り回したが、当たるものもあれば当たらないものもあり、ほとんど当たらなかった。そのため、アンデッドはすぐに私たちを包囲した。


「クロエ!!! 後ろ!!!」


 その瞬間、私たちは妙な感覚を覚えた。


 この部屋はとても暗く、アンデッドを細かく観察するのは不可能なはずだった。


 しかし私たちは見えていた。細部まで見えていた。彼らの皮膚が白いレンガのようだということまで分かった。そして、ほんの一瞬後――


 ザクッ!!!!!


 私たちは体をひねり、肉切り包丁で頭を正確に斬りつけた。そしてすぐに距離を取った。


「さっきの……何……」


 これまで言った通り、アンデッドの“ある個体”は元に戻る。しかし今の個体は、二度目に死んだかのように動かなかった。


 どうして見えたんだろう……頭にある濃い赤色が。


「もしかして……私たちの魔法……ルーン……?」


 不可能なことが、インプリジアンでは当たり前になる。


 なら……さっきのように……目を閉じて集中し、そして目を開けた。


 カチカチカチ……


 古い歯車が回るような音が、私たちの左目のあたりから聞こえた。左目が熱くなり、ガラスのように割れていく感覚があった。


「クロエ……まだ大丈夫……?」


 マ—ベルが大きな骨切り包丁を持って戻ってきた。


「マ—ベル……頭を斬って……そこが弱点」


「あなた……もうルーンの魔法が使えるの?」


「分からないけど……すごく気分がいいんだ」


 そして数秒後――


「私たちも混ぜてよ!!」


 別の少女二人が扉を蹴り、入口を塞いでいたアンデッドを向こう側の壁まで吹き飛ばした。


「遅れてごめんなさい……上の階を片付けていました」


「ミンディ!!! ドロシー!!!」


 それが二人の名前らしく、すぐにこちらへ走ってきた。


「怪我は!? 薬を持ってきたよ!!」


姫子ひめこが噛まれた!! 応急処置が必要!!」


 ミンディとマ—ベルがアンデッドを抑え、銃も使って簡単に数を減らしていった。


「こんにちは、あなたが新入生ね。私はドロシー。16世紀から来たの。よろしく」


「私たちはクロエ。大英帝国、18世紀から来た。よろしく」


「いいね。クロエ、まず傷を洗うよ。後ろの棚に水がある」


 ドロシーは慎重に姫子ひめこの傷を洗い、薬を塗った。


「少し我慢してね、姫子ひめこ


「次は右の棚から布を取って。傷を閉じる」


 私たちは棚へ向かって這ったが、一体のアンデッドがこちらへ来た。しかしドロシーが偶然頭を撃ち抜いた。


「取ってきた」


「いいね……腕を上げないようにして、しっかり結んで」


「そのまま動かないで。あと二分くらいでコウガ寮の救援が来る」


 その時、ミンディが叫んだ。


「手伝って!!!! 残り二十体もいないよ!!」


 ドロシーは私たちを見て、子どものように笑った。


「準備はいい?」


「いつでもいいよ」


 ドロシーは銃を渡してきた。


「これは……火打石銃」


 純銀で作られ、金の装飾が施されていた。


 私たちは残り十数体のアンデッドに向き合った。


「みんな……弱点は頭」


「ありがとう」


「いいね」


「すごいね」


 私たちは銃口を頭へ向け、最後に一言。


「「「「バン!!」」」」


 四発、四体消え、残り六体。ドロシーが短銃を連射して二体、残り四体。ミンディが一体、マ—ベルが二体。


 そして最後は――


 私たちだった。


 銃を折り、弾を込め、構える。


 私たちは同時に言った。


「「「「ジャックポット~!」」」」


 こうして、エイガ寮の騒動は幕を閉じた。

  009


「お前は本当にすごいな!お前のルーンもただ者じゃない!」


「お褒めいただきありがとうございますわ」


 二分後、救援チームが私たちの寮の前に到着した。もちろん彼らは学生も連れてきたが、私たちがすでにすべて片付けてしまっていたので、彼らは少し不満そうだった。だが、どうでもいいことだ。


 巻き添えを受けた学生たちは大きな問題はなさそうだった。医療班によると毒もそれほど強くはないらしい。ゾンビに噛まれた者は五人だけで、その中には原因となったリボンも含まれている。


 このあと本人はきっと大目玉を食らうだろう。


「さて……負傷者には私が治癒魔法をかけておいた。医学棟で一晩安静にしていれば怪我は良くなるはずだ。私はこの件を会長ウィリアムに報告してくる。それからマ—ベルは明日、生徒会長室に報告書を提出してくれ。運が良ければ、エイガ寮は二日ほど休講になるかもしれない。明日電話で知らせる」


「はい」


「ああ……それともう一つ」


 医療班の責任者であるエイドリアンは、事件が終わって集まっている私たち全員を見渡した。


「よくやった。あれほど危険な状況を食い止めたのは見事だ。それに、噛まれた仲間たちへの応急処置も本当に素晴らしかった。実に見事だ」


 エイドリアンは締めくくりに拍手をしてから、その場を後にした。


 .


 .


 .


「では……騒動も終わったことだし、エイガ寮三十二人目の正式なメンバーを紹介しよう。どうぞ、アンダーソンさん」


 私たちは少し前に出た。女子学生たちはまるで珍しい物を見るかのように、輝いた目で私たちを見ている。


「あ…こほん! まずは、私たちを温かく迎えてくださってありがとうございますわ。最初はエイガ寮について色々と良くない想像をしてしまって、本当に申し訳ありませんでした」


「ですが、マ—ベル、ミンディ、ドロシーと話してみて、この寮の皆さんがどれほど私たちに優しいかが分かりました。ですから、もし私たちが友達になれたら、とても嬉しいですわ」


 皆は小さな子を見るかのように、優しく微笑んでいた。


「私たちはクロエ・アンダーソン、イギリスから来ました。皆さん、どうぞよろしくお願いしますわ」


 先ほどまでの静けさを破るように、拍手と祝福の声が上がった。


 そしてこれからは、魔法を使う一人の少女の長い物語が始まるのですわ。


 改めて、どうぞよろしくお願いいたしますわ……





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