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もう魔王なんて呼ばれたくない!〜500年城に籠ってた吾輩、勇者学校に通って汚名返上するのだ!〜  作者: 高端 朝
【第二章】

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【第二十九話】撃たれてつるりんちょ

吾輩はフィリィを蹴り飛ばした。


「メイトっ……なにを!?」


視線を地面に向ければ、彼女もそれを追う。地に深く刺さった鋭きものは、


「棘……?」


「チッ……速度が遅かったか」


岩陰から棘々髪の少年が出てきていた。


「こう来たか、リーヴェンス」


「『棘猊(インファンディブルム)』」


唱えたリーヴェンスは自身の右腕、その長尺の細筒の上部をスライドする。ガチャリという音と共に、彼はフィリィを注視。


瞬間、鋭き棘が射出される。


……が、それは少女の桃色の髪を掠め、背後の樹木を穿った。


「なんのつもりだ、グラスィス」


己の腕を掴み、棘の軌道を逸らした背の高い緑髪の少年をリーヴェンスは睨んだ。


「この勝負、狩りの対象はスライムだ」


グラスィスに咎められるも、リーヴェンスは言葉を返す。


「軽傷を負ってもらうだけだ。勝負に負けたいのか?」


「僕たちは勇者を目指す身だぞ」


「勇者学校はルールを制定した上での勝負は割と推奨してるんだろ。この勝負のルールは何だ、お前が言い出したんだぞ」


「ルール?狩ったスライムの数が多い方の勝ちというだけだが……」


グラスィスは「まさか」と呟く。


「相手の邪魔をしてはならないなんてルールはない」


言い放つリーヴェンスに、グラスィスは眼鏡を外して笑い出す。


「なるほどねえ。わざわざ細かくルールを決めておく必要はないと思っていたが、どうやら僕は人の倫理観というものを信じ過ぎていたみたいだ!いいだろう、班長。ガンガンやっておしまいなさい!」


「了解だ。ぶっ放す」


「ぎゃあ!あやつら想像以上に相性がよい模様であるぞ!」


班のもうひとりはどこにおるのだ?奴もなにか……あ、居た。


「……いち、に、さん、し、ステップステップ、ワン、ツー」


「舞っておる!あやつ舞っておる!舞踊部志望だ!まるで蝶のよう!パワフルな蝶のよう!」


なにゆえ今踊っているのかは全くの不明!


「逃げるよメイト!」


フィリィに腕を引かれる。しかし視界の端にて、リーヴェンスは再び腕をスライド。此度は棘とは違う、一般的な魔力の流れも感じた。


「圧縮した風魔法か……!」


『棘猊(インファンディブルム)』……無茶な魔法だ!


トゲトゲ髪の少年の腕、先端の小さい穴がこちらを睥睨(へいげい)する。


対して吾輩はフィリィの手を振りほどく。


「フン!面白い魔法見せつけられて、逃げ出す吾輩ではないわ!」


こんなところで逃げ出してはレイメルナングス城主兼イベント大臣の名が廃るというもの!


疾走。


『棘猊(インファンディブルム)』。溜めが長いのは看破済み。人前で瞬間移動するわけにはいかぬが、足で間に合う距離である!


跳躍。


対岸のリーヴェンスから発射された棘は、我が赤き眼にて視認容易い。


「棘掴むから、驚くがよい!」


拳を突き出す。


しかし開いた手が凶器を封じる直前、体がブレた。


「痛ァ!」


高速の棘が我が掌を穿(うが)ち、小さな覗き穴を開通させた。


それだけでなく、スライム粘液で緩んだ地面は足を掬い、吾輩はスっ転んだ。


「正面から突っ込んじゃ駄目でしょ!メイトッ」


体がブレたのは、フィリィが突っ込んできたからであったわけだ。決意の表情を見るに、吾輩を庇おうとしたのだろう。


吾輩は寧ろ、吾輩自身に注意を向けさせたかったのだが……。


「意図が噛み合わぬのお〜〜〜!!!」


川のように地面を流れるスライム粘液は、吾輩、そしてフィリィを滑落させた。山の坂道を滑り、リーヴェンスもレインも、視界から遠のいていった。


麓まで一直線であった。


「ウワー」


ーーーーーーーーーーーーーーー


リーヴェンスは息を整える。喧嘩に慣れた彼でさえ、たった今起こったことを理解するのに数秒を要した。


「クハハハッ」


メイトとフィリィ、二人の完全なる連携ミス。「滑稽、滑稽」と、彼は笑う。


これにてリーヴェンス班の勝利は決したようなもの。だが、棘々髪の少年にとって今最も打ち倒したい存在はまだ健在。とはいえ彼女の仲間は山の下だ。


「独りになっちまったなあ。レイン・ラーエルク」


笑って振り返るリーヴェンス。しかしその笑みはすぐに消えてしまった。


「ラーエルク……?どこ行った?」


辺りを見回すリーヴェンス班。しかし求める姿は、何処にも無いのである。


だが彼らの視界のなかに、確かに彼女は居た。視えていないのだ。


内側が桃色の青紫長髪少女レイン・ラーエルクは彼らの真後ろでため息を押し殺し、静かにその場を離れた。


「漸くひとりになれた。不可視化していれば誰にも見つからない。早くスライム狩りの授業に戻ろう」


班のメンバーが滑落した方向には目もくれず進もうとするレイン。


しかしその足が止まる。刹那の時間、視界に黒き異様な塊が移った。


「え……」


振り向けば、その小さな塊も、レインと同じく顔に驚きを浮かべていた。


顔の数こそ違ったが。


一つの体と三つの頭。それを見、レインは思わず声に出していた。


「ケルベロス……!?いや、“視えてる”の……!?」


「バオンッ!」


透明同士、目が合った。


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