【第二十八話】VSトゲトゲ連合
「よう、雑魚ども──」
スライム狩りが開始され、三人一組の班に分けられた初級一組の生徒らは森に散らばり、標的を探し始めた。
吾輩はフィリィとそして、青紫の長髪の少女レイン・ラーエルクと組むことになった。ショウ先生が言うには、レインは体力・魔力の測定においてはクラス一の成績だったそうである。
そう聞くと、昨日の大立ち回りも納得と言ったところだろうか。
吾輩にとって、学校の授業など五百年の生の中で初めてだ。ゆっくり丁寧に励もうと考えておったが、どうもそうはいかなくなったようである。
背後から声がしたのである。
「──肩と顔面の具合はどうだ?フィリィ・サリアー」
振り返ると、そこには橙色の棘々髪の毛の少年が口の端を上げて立っていた。
「リーヴェンス……!」
青き木々が茂るラスィム山の中腹。狩りの開始早々、我らは昨日試合にてフィリィを破った少年とその班メンバー二人と“鉢合わせ”たのだ。
いや、恐らく“待ち伏せ”されたな。
「言ったろ、向いてないから学校やめろって。なのにテメーはここにいる」
リーヴェンスは怪訝そうに自身のトゲトゲの髪を弄る。
「やっぱ、力の差ってぇのは体の芯にまで叩き込まなきゃなんねぇみたいだな」
唸り、彼は腕を鳴らす。魔力が流れるのを感じた。
リーヴェンスの魔法、『棘身発現』が彼の体を棘へと変化させる……その直前にて、レインが言い放った。
「勝ったのは私です。ウニ頭」
「……なに?」リーヴェンスが動きを止める。
「これ以上、面倒をかけないでください。私は授業に集中したいんですよ」
レインの言葉に、リーヴェンスは荒ぶり彼女へ詰め寄る。
「勝ったのはテメーじゃねぇ。あれは卑怯な不意打ちだッ!」
止めていた棘の発現を再開。腕が鋭利に、数多の尖りへと変ずる。その拳をレインに向けた。
「それと俺をウニ頭と呼ぶんじゃねえッ!殺すぞ」
「なぜウニを嫌がるのだ、かっこいいではないか、ウニ!」
我が従者にはウニもおる。馬鹿にされては黙っておれぬ。
「センスが独特な奴は黙ってろッ!」
叫んで、リーヴェンスが腕を振り上げる。矛先は吾輩へと移った。
「来るがよい」
目に見えぬ防御魔法陣『護甲透陣』を展開。棘撃に備える。
直撃の瞬間、
「待ちたまえ!」
リーヴェンスの背後で黙っていた二人のうちのひとりが割って入った。緑髪の少年の眼は、眼鏡の下で笑っていた。
「暴力反対だな。僕は」
トゲトゲ髪の少年が睨むが、彼は特に気にする素振りも見せず語り出す。
「二人の希望を同時に満たすいい案がある。授業を行いながら勝負するんだ」
「なに言ってんだグラスィス・ダブリューダブル」
「狩ったスライムの数を競うのさ!」
リーヴェンスはハッとしたように、「……そうか、いいだろう」と引き下がる。魔法を解除した。
しかしレインは困り顔。
「いや意味不明……そういうのノイズなんですけど……」
「待てレイン。面白いではないか」
吾輩はやる気満々である。
「燃えてきた」
フィリィも続く。
「はぁ……!?」
「確かに昨日、結果的にフィリィが負けたことは事実。だがしかし、彼女は致命の一撃を与える機会を得、それを対話のため、自ら捨てた。それでもリーヴェンス、お主が己を上だと言うのであれば、証明するしかあるまい。のお、フィリィ」
桃色の髪の少女は強く頷き、宿敵へと向き直る。
「私たちが勝ったらメイトへの侮辱を撤回&謝罪してもらうから」
「そして気絶したフィリィに鋭き棘腕で迫ったこと、説明してもらうぞ」
リーヴェンスは怪訝な顔で、
「言ってろ」
振り向く。
「勝算はあるんだろうな、グラスィス」
彼が問いかけると、緑髪の少年は眼鏡をかけ直し、ニヤリと笑う。
「僕は魔物博士と地元では評判なのさ!僕がいる時点で、この勝負は僕らが勝つ出来レースでしかない」
「面白ぇ。テメーはスライムの居場所を探せ。狩るのは俺がやる」
「もちろんさ」
二人の息が合ったところで、とある者が手を挙げた。
「あのー、俺は?」
ずっと静かに地面を見ていた、リーヴェンスのもうひとりの仲間。少年は己の黒髪を弄りながら気まずそうにしている。
「テメーは数合わせだ。足手まといにならなければそれでいい」
「あーね、了解」
「よし、行くぞ。案内しろグラスィス」
「了解、班長」
こうして、突発的な勝負は開始の宣言もなく始まった。
「ぐぬぬ、あっちもなかなか相性がよさそうだね」
「フン!吾輩らが組んで負けるなど有り得ぬ!」
「どうでもいい……仲良しグループじゃないんだけど」
我らレイン班は山を下り、小さな崖のように地面が隆起した地に立った。湿気が漂い、粘液が川のように下へと伝う。
吾輩は魔物の王。スライムを見つけるなぞお手の物である。
「いたよ……うわあ……!」
フィリィが目を見開き立ち止まる。視線の先には地を這う大きな水の玉。
透明な液状の体の中に動くものがある。ドクンドクンと脈動するそれはスライムの心臓である。そしてその少し下、胃の中で何らかの小動物が半分溶けた状態で微振動していた。
「こやつは内臓が見える種か」
「なかなか……衝撃的なビジュアルだね……」
「狩りたい者は?」
「わ、私はあとでいいや」
「私も最初は嫌です」
などと会議を行う時間はどうやらなかったようである。
スライムの上部が八つに割れ、こちらへ飛び出す。捕食の指を向けたのは吾輩の方であった。
「はらぺこか。確かに、敵対的であるな」
しかしこやつ、吾輩が何者であるかは……
「分っておらぬようだな」
指先に力を込める。
しかし貫手をしかけようとした直前。眼前の楕円が歪む。何かを押し込まれるかのようにグニャリと曲がり、その刹那、スライムは爆ぜて溶けた。
「まずは一匹」
遠くから聞こえた声はリーヴェンスのものだ。
「僕らより早くスライムを見つけるとはね。足の速い奴らだ」
声の方へと視線を向けると、リーヴェンス班の三人。岩と枝葉の影からこちらを観察するかのように覗いていた。
そしてトゲトゲ髪の少年は新たなる『棘身発現』をその身にかけていた。
細い槍の如く変じた筒状の腕、その先端に小さな穴が空いている。
「あれはなんだ?」
外膜を破壊されたスライムは溶解し、地面に染み込む。その水たまりには、細く鋭い棘が残されていた。
リーヴェンスとスライムを隔てる長い距離。つまりは──
「狙撃か」
奴は笑みを浮かべた口から魔法の名、魔称を唱える。
「『棘睨』」




