メリー・メアーの長い首 8
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映えを狙うならやはり鳥居でしょうねと私という私の意見に、二人も同意した。縦親だけが戸惑っている。
「え。何? お前らまさか、マジで? マジで」
私たちは縦親を無視した。帯を外して鳥居からぶら下げた。先端に輪っかをつくって、そこにアゴを通す。詞浪さんも純粋な興味を浮かべて真似した。
「〈ホール〉ならではのことはやっておきたいからなー」
「俺も一回体験しといた方がいいって気がするんだよな。帰れなくなったとしても、それはそれで構わねえし。どうでもいいや」
世古田も群平おじさんの横に並んだ。では。といって我々は同時に首をくくった。
きゅううう、というアマガエルをゆっくり潰していったみたいな声。音。
〈ホール〉では好きなだけ首をくくってもいい。そんな癒やしもここでは許されるのだ。
「わあああああああっ」
吊られてからどのくらい時間が経ったのか。縦親の叫び声で目を覚ました。縦親は我々を地面へ並べて、泣きながら心臓マッサージをしているところだった。
「駄目だよォ~。それは洒落にならねえだろぉ!」
「……お前がやろうとしてた行為だぞ」世古田も目を覚ましていった。
「だってお前がいなくなったら地元で俺と飲んでくれるヤツなんていねぇよォオ~」
「結局酒かよ」
我々の首は、吊る前より長く伸びたようだった。
やがて夜が明け始めた。
首の長い一団で夜祭りへ戻った。祭り囃子はもうやんでいた。日の光を浴び始めた屋台は神秘性をうしなって、汚れやセロテープのあとといった生活感を露わにしている。
群平おじさんはあいかわらず辺りにぶら下がったままだ。
「こっちも首吊り死体になっちまえば怖くねえな。っていうか見過ぎて何か麻痺してくるな。親父のゲシュタルト崩壊だよ」
「いや、怖えよ。おじさんやめてコッチ見ないで」
縦親は屋台のお面を集めて、首吊り死体の顔にいちいちかぶせている。
「群平おじさんも〈ホール〉で吊ってたら死なずに済んだのにな」
「お前も吊るときはここでしろ」
「……そっか。だよな。吊ってもよこちん俺を置いてったりしないもんな。友達だよな」
「まあ酒飲めよ」
「いえよ! 友達って」
「あれバス来てんじゃねえ?」
世古田が前方を指さした。我々はバス停へ向かった。
「つまりどっちなんだよあの二人」
詞浪さんは首をかしげている。その声が聞こえたのか世古田が振り返って「古い友達だよ」といった。「こいつと遊ぶとこいつのばあちゃんが小遣いくれたんだよ」
「……え? つまりどっち?」
世古田は笑って答えない。となりでは初耳だったらしく縦親がショックを受けていた。
「え? そうなの? 嘘だろよこちん? 嘘だよね、ばあちゃん?」
バスは確かに到着していた。
朝日のなか小型のバスがエンジンをかけた状態で震えていて、我々が近づくとガスの音と共にドアが開いた。
それとほとんど同時に、ずっと後方から音楽が聞こえだした。距離があって間延びしているが、それはピンクフロイトの「エコーズ」だった。それに録音した人間の声がサーカスの到着を告げている。海岸沿いの道をサーカスのトレーラーがゆっくり近づいて来ているのだ。
あれに追いつかれる前に、彼らは帰らなくてはならない。
「じゃあ、世話になったな」
「またここで会うことも、あるのかな? ありがとね」
二人の男は何だかスッキリした様子を見せた。もしかしたらお酒が抜けただけなのかも知れないけれど、少なくとも自殺を企てている人には見えなかった。
バスが出る寸前、後部座席の二人の会話が聞こえた。
「よこちん。俺、このまま知らない町行きてえよ」
「そうもいかねえだろ、俺もお前も」
結局、どういう二人なのか最後までわからないままだった。
協力関係にも依存関係にも見える。狭い畑に混生した野菜のようだ。いびつに絡んだ、お互いを絞め殺そうとしているのか、それとも支え合っているの見分けがつかない。
「私もそろそろ帰るよ、メアーさん」
詞浪さんがいい、私はメアーさん? と訊き返す。
「あだ名。あんた会うたび格好も名前も違うじゃん? いちいち憶えるの面倒だし、私といるときはメアーさんにしてよ。友達なんだしさ。嫌ならいいけど。嫌ならもういわない」
彼女は前を向いて歩きながらそういった。耳が赤くなっていて、怒ったような横顔だった。
私たちは友達だろうか? そうかもしれない。私は癒やされるために〈ホール〉に来ているが、同じくらいの気持ちでこの子供を癒やしたいと思う、時々は。
〈ホール〉のメアーさん。結構なことだと思う。この子供が望むなら。私たちは〈ホール〉で、このように遊び、このように呼び合う、友人のような何かなのだ、きっと。
「じゃあまたいつか」
我々はホテルの前で別れた。




