メリー・メアーの花迷宮 1
かつてある心理学者がこういった。
「夢とは、脳の小部屋で演じられる無意識の舞踏である」と。
対して〈ホール〉は外だ。
我々は悪夢とともに脳髄から出て〈ホール〉で踊るのだ。
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「ここは?」とあなたはいう。
〈ホール〉ですよと私が答える。
始めまして。首猛夫といいます。
あなたは呆然としている。
あなたがあまりにくたびれた格好をしているので、私は思わずそのヨレヨレの襟や掛け違えたボタンを直してあげようとする。が、途中でキリがないと悟って止め、ネクタイは外し、取れかけのボタンも引き千切って捨ててしまう。どちらも〈ホール〉では必要のないものだ。
そんな無体な仕打ちに対して、あなたは何も指摘はせず「隣の部屋で目覚めたのです。それで部屋の外から声がしたので、目覚めた部屋から出たところ、目覚めた部屋の前に西瓜が転がってきたのです。転がる西瓜のやって来た方向を見ると、斜め向かいの部屋で、その開けっぱなしになったドアの向こうのあなたと目が合ったのです」
と、わずかに迂遠な言い回しで状況を説明した。要するにあなたはホテルの一室で目覚めたのだ。
私たちの部屋は鶏頭の花でいっぱい。地面には西瓜が転がっている。
鶏頭の鉢植えは私が最近はまっている遊びで、西瓜は連れの詞浪さんの所有物だ。彼女の身体の窪みから、西瓜はいくらでも転がり出てくる。〈ホール〉では珍しくないことだ。
「お。その人が客人?」
開けっぱなしの浴室から、湯気とともに詞浪さんが出てきていう。彼女は地面に散らばっていたメモ用紙を足の指で拾ったりしながら続ける。
メモ用紙の一枚一枚は書きかけの地図である。
「なんだ、すぐそこの部屋にいたのかあ。探しに行こうかって話してたけど迷路に入って探すの大変だし助かったよね」
あなたは飛び出していって、部屋の外を確認する。廊下の奥の角を曲がったところで、ホテル内が複雑怪奇な迷宮に変わっているのを目撃するだろう。私はあなたともに迷宮を眺めながらこのようにいう。
ここはこういう世界です。帰るためには、あなたはこの〈ホール〉で〈扉〉を見つけなくてはなりません。さあ、悪夢を楽しみましょう。
私が微笑みかけると、あなたはつられて頬を上げる。




