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兄妹

 転移した先は自分の部屋。チョコレート生産機くらいしかおいていない質素な部屋だ。改めて思うがこの部屋はなにもなさすぎる。

 警告音が鳴り響く中で俺はすぐにメニューを開く。侵入者がいる階層は十階層。リカエル(偽)のいる場所だ。すぐさまモニターに表示させたその場所には全身青い男がいた。何やらリカエルと話しているようだが何故かうまく聞こえない。リカエルはと言えば余裕綽々と椅子にどっかりと座っており、頷き、たまに言葉を返しているようだ。この前の侵略者の時は声を聞けたのだがどうやらリカエルの方で防音をしているようだ。一応神様なのでそのくらいは余裕なのかと思っていた俺はアイリスの驚きの声で我に返った。


「何やってんだ?」


「このチョコレートって奴おいしいわね」


「いや、まぁ美味しいだろうな」


「お兄ちゃん、ほらここにきてください。一緒にチョコを食べましょう」


「え、あ、うん。って違うよ!俺は侵入者の話をだな」


 ダメだ全く聞いてねぇ。そうこうしているうちに侵入者が消えてしまった。青い男は何が目的でリカエルに接触したのか。気になるので俺はリベル達を置いてリカエルの下へ転移した。

 いきなり転移してきたのにも関わらずリカエルには驚いた様子はない。どうやら予測していたようで俺の姿を視認した瞬間に笑みを浮かべた。俺はそのままリカエルの前まで歩く。このフロアは玉座があるだけのシンプルかつ何もないのが特徴と上げられるレベルで何もないので飾り気がなく、ふと何か要望があるならDPを使って何か召喚するのもありだなと思った。


「で、説明はしてくれるのか?」


「もちろんだ。我の目の前に現れたのは静寂の神セイエット。奴は我が生まれし時からの同輩だ」


「静寂の神セイエット、か。それで?」


「奴は言った。サルダージャが動く、と。どうやら巫女をとられて怒り狂っているらしいぞ。あまり笑うことがないセイエットが笑うくらいにおかしなことだ。お前が何かしたのか?」


「まぁ巫女を返せとか言われたから返り討ちにしたけど。アイリスが巫女らしいぜ」


「アイリス……!? そやつをここに連れてこい」


「ん?まぁいいけどさ」


 サルダージャが動くというのは気になる話だがアイリスに過分に反応したリカエルも気になる。知り合いの可能性もあるがどうにもそれ以上の何かがある気がする。

 転移をして元の場所に戻るとアイリスは暇そうに寝転がっていた。


「おいアイリス、リカエルに連れてこいと言われたんだが一緒に来てくれないか?」


「え!?」


 俺の言葉にアイリスは驚いた表情してから固まったようにして動かなくなった。もう一度声をかけると今度は後ずさり、俺が一歩踏むごとに一歩分後ずさる。もう一歩踏み込めば同じように後ずさる。埒があかないので転移してアイリスの肩を掴み、リカエルの元に転移した。


「連れてきたぞ」


「やはりな。医療の神アイリスではないか。何故お前がサルダージャの巫女なぞになっている」


 リカエルがアイリスを見てからすぐにとんでもないことを言った。


「アイリスが神?それは本当なのかアイリス)


「……そうよ。私は医療の神アイリス。そして、リカエル兄様の妹よ」


 更に爆弾発言を投げつけてくれたアイリスに俺は驚愕の眼差しを向けた。なぜ驚くのかというと、似ていないのだ。傷だらけの上半身を持つリカエルだが顔はそれほどいいとは言えず、眉が濃いのが特徴だ。対してアイリスは美人のお姉さんみたいな感じと言えばいいのか。とにかくそんな感じにそこそこ整っている顔をしているのだ。

 それが兄妹などと誰が信じられようか。流石の俺も驚きが隠せず、声をあげてしまった。リカエルは渋い顔をしながらアイリスに向かって言った。


「かつてとは状況がちがうのだアイリス。我もまた邪神と呼ばれてから変わった。昔のようには言わぬから安心せよ」


「まぁそうでしょうけど。何だか安心できないわ。というよりもタツが兄様と知り合いな時点でおかしいのよ」


 まかり間違っても俺が避難される謂われはないのにアイリスは頬を膨らませて俺を睨んでくる。そんなことを言われてもどうしようもないというのが本音だし、リカエルが勝手に俺の夢の中に現れただけなので文句を言うならリカエルにしてほしい。そう言ったらリカエルは渋い顔が更に渋くなった。


「我も人と話すことに餓えていたのだ。仕方なかろう」


「絶対正義なんて言う非現実的なことを言っているから友達がいないだけでしょ」


「むぅ、確かにそうなのだが我の存在意義であるから意見は変えられぬのだ」


「まぁそんぐらいにしてサルダージャのことを話してくれよ」


 俺は久々に再開した兄妹の話を止めてサルダージャについて話すことを催促した。最も恐れるべきは先手をとられること。この間のように壁で隔てられるのは一度で充分だ。こちらから乗り込むくらいの勢いでいかなければ俺の気が済まない。奴の住処を荒らしまくって、顔を一発ぶん殴り、それから拷問に掛けて、市中を引きずり回してから火計にかけるくらいしなければ収まらないかもしれない。

 もちろんリベルがぶん殴る分も置いておくがそれをなすためにはひとまず先手をとらなければならない。リカエルに話の先を促し、そして語り始めた。


「サルダージャが動くということはこの世界に顕現するということだ。意味が分かるか?」


「つまり、その世界に現れるってことだろ?」


「そうだ。奴は巫女の魂を使い、自身を顕現させるだ。本来は邪法と呼ばれるものだ。使われな魂は戻らぬ。しかし、アイリスが巫女なのは少し納得がいかぬのだが?」


「それは私がこの体に憑依しているからよ。もうほとんど私の物のようなものだけどね。この子はサルダージャの所に行く前は死にかけてから」


「なるほど。ということはお前はその者の意志を継いでいるというわけか」


「どういうことだ?」


 憑依やら魂やら訳が分からないことだらけなので思わず声に出して聞いてみた。リカエルはやはり渋い顔をし、アイリスもまた悲しそうな顔をしていた。


「この子の名前はアイリス。偶然にも同じ名前よ。この子は幼い頃から医者を目指していたの。そんな所に現れたのがサルダージャの使い。攫われてからなにも食べずにいた所を許可を得て体を貸して貰ってるの。ただ神が憑依するということは魂が磨耗して消し飛ぶのと同義だから……つまりそういうことよ」


「死んだのかその子は」


「ええ。皆の役に立つことが夢だったそうよ。だから、体を借りる代わりに百年、人間の生きる間だけこの子の夢を叶えることにしたの。憑依した跡は頃合いを見て逃げ出してあの町に居着いたのよ」


「そうだったのか」


 魂が消し飛ぶというのはどういう感覚なのだろうか。何も感じず逝けたのだろうか。俺には分からないその感覚がとても怖く感じられる。例えばリベルの為に負う傷ならば耐えられるだろう。推測でしかないし、人を殺すだけで吐き気を催す程度の心意気なので確証は持てない。リベルが死ぬのは怖くては仕方がない。感じ方が別のものになるのだろうがそれに匹敵するだろうと俺は何となく思った。


「ということは巫女さえ、いなけりゃいけるのか?」


 俺の問いにリカエルは首を振って答えを返してきた。


「奴は邪神だ。邪法に関することならばとことんあくどいこともする。人間百人による儀式召喚だ」


「百人を生け贄ってことか?」


「そうよ。サルダージャは人のことなんて何とも思っていないからね。むしろ虐げ、苦しむのを楽しむような狂ってる神よ」


 その言葉を聞いて俺は頷いた。実際に見たサルダージャは狂気を宿していた。見下しているような声を俺に向けてきた。あげるような声音だったし、何よりも楽しそうだった。愚かしい程狂っているサルダージャは邪神と呼ぶには相応しいものだったのだ。

 狂ってる神というのは非常に的を射ている表現だなと思った。俺にとってもその印象は間違えて見えなかったし、例えどんないきさつがあろうとも許すつもりはない。


「それでサルダージャは倒す……!?」


 ズドーン!!!


 地響きが鳴り響く。ダンジョンが揺れ動き、立っていられない程だ。何度も何度も揺れ、ついにその揺れが最も大きくなり、天井が崩れ落ちた。煙が立ち込め、辺りが見えない。ようやく煙が晴れてきた所でくくくと笑う声が聞こえ、俺はその顔に見覚えがありすぎて絶句した。奴は悠々としたただずまいでこちらに歩んできた。


「久しいなクソ坊主。今日という日を待ち望んでいたぞ。貴様を葬れるこの日をな」


 歪んだ顔でそう言ってくる相手の顔に俺はようやく驚きから冷めてようやく声に出すことができた。


「サルダージャ!」


「ほう。我の名前を知ったか。褒美に死をくれてやるぞ。くくく」


 忘れるはずもない。ずっと殴りたかった顔。リベルをこんな所に閉じ込め、俺の記憶を奪い、そして少女すら攫うような外道のことを一度たりとも忘れることがなかった。ようやくこの日が来た。神の加護が多くない今、心許ないが仕方がない。元々リカエルの力で充分なほど強いのだから。


「殴るぞサルダージャ!」


「やれるものならやってみせろ坊主!!」


 俺とクソ邪神の闘いが始まった。

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