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アイリスの正体~くそ神は女を貶めるのが好きなようです~

「巫女?」


 目覚めてすぐに話があるとアイリスに言われて話を聞くと巫女という思わぬワードが出てきた。リベルを狙ってやってきたくそ神サルダージャの手先もまたリベルのことを巫女と呼んでいた。そして目の前の茶色の毛を短く揃えて白衣を聞いている女アイリスもまた巫女なのだという。

 巫女。それは神に選ばれる処女のことだ。あまり言いたくはないがとにかく純潔を破られていない女が好きなくそ神が適当に選んで信託で連れてくるように言うそうだ。そして、選ばれた巫女は神に連れられてはエデンへ行くと言われているのだとかで建て前もへったくりもないくそ神は堂々と巫女を辱めるという。


「それが、巫女。で、何でそんなに詳しいんだ?」


「一度逃げ出したからよ。まさか正神と思っていたら邪神だなんて思わなかったわ」


「ふざけた真似をするな。リベルにまで手を付けようとしていたのか」


「どうやらそのようですね。サルダージャに奪われなくて良かったです」


 そんなに嬉しそうに言われても俺が恥ずかしいだけなんだがリベルはにっこり笑顔さんだ。とにかく巫女というのはサルダージャにとってのお遊び相手というわけだ。それを阻止するために巫女を集めろとアイリスは提案してきた。


「正直、リベル以外どうでもいいんだけどな」


「そういうと思ってたわ。あなた達とても仲よさそうだもの」


「お兄ちゃんもたまには私以外に優しさを発揮した方がいいのではないですか?」


「そう言われてもな」


「なら、取引をしましょう。私の持つ知識をあなたにあげるわ」


「俺に役に立つのか?」


「それはどうかしら。とりあえず外に出ましょう。見せたいものがあるから」


 そう言って俺はアイリスに連れられて外に出た。相変わらずの賑やかな街並みの中を人を避けながら行く。白衣を着ているアイリスはよく目立ち、人々が振り返るがすぐに興味をなくしたように去っていく。アイリスの方に目を向ければ片目を閉じてから説明してくれた。


「幻影魔法で見えなくしたのよ。ただ私も完全に制御できている訳ではないから不自然さがあるの。それで皆振り返ってるのよ」


「へぇ便利な魔法だな」


「あなたはスキル持っているの?」


「俺は体術、剣術、身体強化だけだな。初心者もいいところだよ」


 アビリティを習得するのにはある一定の条件があったりする。これら三つは条件がない代わりに初心者のレベルの技術から始めるというペナルティーを元に習得できることができた。

 ポイントを使えばマスタリィ状態でも習得できるがポイントが多すぎたのだ諦めた。リベルには魔法を基本にして転移魔法や空間魔法を覚えさせた。もちろん初心者レベルのだが。


「あなたそんなに強そうに見えるのにそんだけしか持ってないんだね」


「そりゃどうも」


 やはり黒のロングコートは強そうに見えるのか。客観的な証言が得られてたのでこれからもずっと着ていようと思う。正直、黒以外着る気がない。黒最強説を俺は推すぜ。夏は暑くて仕方ないけどな。

 そんな風なやり取りをしていたら目的地についたのか。アイリスは立ち止まった。そこには首輪を付けられた人が檻の中にいた。皆目が虚ろで絶望に魅入られていた。俺が見るのは二度目になる奴隷だがユースベルの時はまだマシだったのかもしれない。ユースベルにはまだ意志があった。だが目の前にいる奴隷達には生きる意志が感じられないのだ。その現実的な姿に俺の中で何かが壊れた気がした。人を獣を檻に入れるように閉じこめている様に何とも言えない苦さを感じた。


「あなたはどういう人が奴隷になっているか知ってるかしら」


「いや、知らない」


「犯罪を犯して奴隷になる犯罪奴隷、金に困ったものが自ら奴隷なる一般奴隷、戦を生業とする戦奴隷、自らの身を売る性奴隷。だいたい四つに分けられるわ」


「奴隷はそんなに不遇なのか?」


「そうでもないわよ。奴隷には食だけは保証されているの。でも首輪を皆付けられるわ。隷属の首輪。サルダージャが生み出した罪の道具。これのせいで奴隷の扱いが酷くなったの」


 犯罪奴隷は文字通り犯罪を犯した奴隷だ。一生解放されることのない奴隷の中でも最悪な部類で戦争捕虜もここに入るそうだ。

 一般奴隷は悲しいことに一番多い。村から口減らしの為に売られたり、金に困った親が子供を売ったりなどが原因だ。

 戦奴隷は剣術などのスキル持ちが剣を持たされ戦う奴隷のことだ。死亡率が最も高い奴隷としても知られている。

 最後に性奴隷。これがある意味最も最悪な奴隷だ。性処理用として買われる。字の通りの奴隷だ。

 目の前で虚ろな目をしている女の子や女の人達は皆性奴隷だという。俺にはとても見ていられない光景だった。

 アイリスの話の途中で鞭に打たれている奴隷を見た。それは年端のいかない女の子だった。襤褸布の服はもう服とは呼べないほど穴が開いており、女の子は泣きながら許しを願っている。それを無視して更に鞭を打つ奴隷商らしき男はようやく気が静まったのかそのまま去っていった。


「何で、こんなことに」


「奴隷はいいのよ。法律で決められているから。けれど、隷属の首輪が今の状況を生みだしたの。人を支配できるというのは快感何だそうだよ。私には理解できないけどね。奴隷の首輪は任意で締めることができるようになった。これを嵌められたらもう逆らうことができなくなったのよ」


「法律はどうなってるんだ」


「そんなものは形骸化したわ。まさに形だけの骸ね。誰も何も言わなくなった。まだ守っている国もあるそうだけどね」


「それで俺に何が言いたいんだ」


 アイリスは俺の方に振り返り、にっこり笑って手を差し出してきた。手の持っているのは紙の束。そこには隷属の首輪の作り方とある。


「つまり、俺に隷属の首輪の構造を教えるのが餌ってわけか」


「そう言うこと。悪いことじゃないでしょ。あなたお人好しそうだし」


 キャラ変わりすぎじゃないのかっていう位に人を見透かすような発言に苦笑してしまった。俺の中にある小さな倫理観を呼び起こした訳だ。確かに悪い話ではない。巫女を囲んで保護すればいいのだから。

 リベルの方をちらりと横目で見てみると期待していますよみたいな目をしていた。どうやら俺には選択の余地はなかったようだ。始めから決まっていたのだ。家のリベルが決めたことは絶対で俺も余程の理由がなければ従うのだ。


「はぁ……分かったよ。交渉成立だ」


「お兄ちゃんはやっぱり私の夫ですね」


「熱々なことね。タツ、一つだけ言っておくわ。サルダージャは己の欲望の邪魔になるものに容赦はしないわ。きっとまだ私を狙っていることでしょうから」


 リベルに誉められ、アイリスに茶化され、忠告された。俺だってサルダージャが如何に陰険な奴なのかを分かっているつもりだ。あいつは人を如何に苦しめるかを考えているような奴だ。神でも何でもない。あんなのはただの獣だ。本能のままに欲望を満たそうとするただの獣。ただ俺は油断をしていないとアイリスには伝えておいた。

 それから昼時になったので昼ご飯を食べようと適当に定食屋に入り注文した。丁寧な店員さんに感心していたらいつの間にか料理が出てきた。驚きの早さに感動して早速一口を食べる。その後はもう止まらず二口、三口だ。リベルもアイリスもそれなりに満足していたので良かったと思う。

 そうして外を出た時に俺は思った。


「フラグってあるんだなぁ」


 と。

 目の前には柄の悪そうな男を十人程従えた礼装の男。三十代を越えたその男は偉そうな口調で言ってきた。


「アイリス、来てもらおうか。サルダージャ様がお呼びだぞ」


「いやよ誰がいくもんですか。私はゲス野郎なんかには触られたくないの」


 男は口を歪めてから男達に命令した。


「やれ。男だけ始末しろ。アイリス以外は後でいっぱい可愛がってやろう」


 こうしてアイリスがおった立てたフラグが見事に立ち、俺は男達と対峙した。

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