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閑話 恐怖は人を殺す

 また、夢が始まった。リベルを抱きしめて寝てしまったけれど、この後どうするのだろうか。ああ、恐怖は人を殺す。これだけは先に言っておこう。人が抜け殻になるのは本当に些細な恐怖で充分だ。怖い怖いと呟き、それしか言わない機械となることがある。神谷さんがまさにそうだった。さぁ巡ろうか。恐怖は人を殺す回想を。



 次の日、学校をサボり、神谷さんのお見舞いに行くことにした。裕二にも電話をかけたがどうやら携帯の電源を切っているようで反応がなかった。仕方ないのでスーパーでりんごを一つ購入。それから電車を乗り継ぎ、病院についた。受付さんに病室の番号を聞こうと思っていたら裕二が青い顔をして椅子に座っていた。


「おい、裕二どうしたんだ?」


「……龍か。人ってあんな風になれるんだな。308号室だよ」


 それだけ言って裕二は立ち去っていった。一体何のことか分からず、そのまま言われたとおりの部屋に向かう。エレベーターに乗り、三階のボタンを押す。袋に入ったりんごを確認しながらエレベーターから降りて、308号室の部屋に入る。カーテンが閉まっていたのであけてみるとそこには魂が抜けたような顔でぶつぶつと何か言っている神谷さんの姿があった。


「神谷さん……?」


「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」


「お、おい!どうしたんだよ」


「助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて」


 念仏を唱えるように心を病んでしまった神谷さんがいた。見てしまった。裕二が言った意味がようやく分かった。人が恐怖で潰れる様を。裕二はどうにかしようとしたのだろうか。もしどうにかする事ができるとしたら裕二だけだ。だって、神谷さんは裕二のことが好きなのだから。

 でも、目の前の神谷さんを見て俺はどうにもならないような気がした。闇に捕らわれた彼女が光をみるとすれば一体何年かかるのか想像もできない。恐怖は人を殺す。そんな言葉が急に浮かんだ。そう、これでは死んでいるのと変わらない。ただ恐怖を言葉にするだけの彼女はもう人には戻れない。


「助けてよ、裕二くん」


「……くそっ」


 裕二は何故何もしなかったのか。恐怖と闇に溺れた神谷さんを救おうとしたのか。それだけでも知りたくて俺は外にでて電話をかけてた。


「おい、裕二!お前、神谷さんに声をかけたのかよ」


「ああ。俺の名前を呼んでたよ。返事を返したらさ首を絞められたんだ。一緒に死にましょうって」


「ま、マジなのか」


「嘘をつくわけがないだろ。俺はもう彼女を救えない。近くにいれば死にたがる奴のそばにいれないよ」


 裕二の言葉に俺は本当に神谷さんがいなくなったことを察した。よく裕二のことで相談を受けたことを覚えている。裕二の些細な仕草に見惚れるんだと言っていた彼女の言葉を覚えている。今となっては過去となり、俺の中で思い出となっている。今だから言えるが本当は彼女に惚れていたんだ。純粋な気持ちで恋する乙女な神谷さんに。

 携帯を閉じて病室に向かう。もう一度ちゃんと話してやれば戻ってくるかもしれない。そう思い込んで。


「神谷さん」


「助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて」


「俺、好きだったみたいなんだ」


「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」


「裕二はもうこないって」


「裕二くん裕二くん裕二くん裕二くん裕二くん裕二くん」


「はは、もう戻ってこれないのか」


「死にましょ死にましょ死にましょ死にましょ死にましょ」


「はは、あはははははははははははは、はははは」


「うふ、うふふふふ、うふ、ふふふふふふふふ」


 目の前の人間は魂を失い、人形になり果てた。決して戻ることのない魂を好きになって俺は馬鹿みたいだ。犯人は捕まったがこれでは報われない。神谷さんは人形に成り下がった。俺はそう事実として受け止めた。部屋を出ようとした時、彼女の言葉が止まり不意に一言。


「大好きだよ裕二くん」


 そう言ってまた言葉が続けられた。俺の心は締め付けられた。神谷さんが好きなのは裕二で魂を失ってもなお好きなのか、と。一度刺されただけで何故こうなってしまうのか、と。

 それから俺はいつも通りの日常に戻った。裕二も元に戻った。ただ一人、神谷さんだけが戻らない。俺と裕二は笑う。けれど、そこに本物の笑顔はない。神谷さんの亡霊が俺達の笑顔を乾かす。



 ああ、夢は終わる。魂が抜けた人間は機械となる。抜けぬまま機械になる者もいるけれど、それはまだマシだ。恐怖は人を殺す。ああ、俺の夢ももう終わる。この後も俺達は友達で居続けたが結局遊びに行くようなことはなかった。そこに三人目がいないから。

 人は心があるから人であるのだ。これは戒めではない。警告だ。人を殺すことは心を削るのと同じ。一度刺されて廃人となった者もいるのだという警告。

 また、記憶がなくなるのか。無くしてしまったこの記憶はどうやら切り離されたものらしい。自分で切り離した記憶。不幸な記憶が無くなる代わりに幸せな記憶も失う。そのような契約。死神の施し。これは夢であり、もう一人の自分。なんと幸せなことか。この記憶を忘れられるのは。俺もまた廃人に成り下がったからこうなっているのだから。


 夢よ、覚めよ。願わくばこの夢をもう二度と見ることがないように。


ーー夢は覚めた。

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