愛の女神と嫉妬の女神
翌日。何とか朝に起きた俺達は早速街に出て宗教の神の確認をしにいくことにした。邪神と思われるそいつが正神を名乗っているなら何としてでもぶっ潰したい。くだらない理由で俺からリベルを奪うだなんて二度とさせない。
教会はすぐに見つかった。中に入ってみると厳かな雰囲気で包まれ、静まり返っている。長椅子が並べられたその先には二つの女神像があった。どうやらここは邪神の教会ではないらしい。偶々見えた修道女に声をかける。
「あの、済みません。ここは何の神が祭られているんですか?」
「ここは愛の女神リリルと嫉妬の女神リリムを正神としています」
「愛と嫉妬、か。何だか矛盾しそうな神ですね」
「ええよく言われます。ですが女神は姉妹でとても仲がいいと言われています。男性の方に言うのは忍びないですが女神姉妹は互いに慰め合う関係だったとか」
「は、はあ。何というか名前だけの神様なんですね」
「私もそう思っています。愛の神は妹を愛し、嫉妬の神は姉の容姿に嫉妬しながらも愛したと伝わっているのです」
思ってたよりハードな関係なようだ。俺の持っている知識に当てはめるならレズと言われる関係だろうか。
そのまま修道女の話を聞くと分かったことだが女神姉妹はとても容姿が良かったらしい。妹のリリムはその上で姉の容姿に嫉妬したというのか。何とも欲張りな気がしないでもないが本人がそう言うならそうなのだろう。今となっては分からないことか。
修道女と別れ、教会を出ようとした時、リベルが呟いた。
「お兄ちゃん、来たよ」
「えっ?」
ーー白に飲み込まれた。
目を開けるとそこは一面、白の世界だった。何もない世界には気を失っているがリベルもいて少しだけ安堵の溜め息が漏れる。ここはいったいどこなのか。俺がそう思ってると目の前に二人の女が現れた。
「女神、なのか?」
俺が勘でそう言うと二人は揃って微笑み、頷いてみせた。
「私はリリル、愛の女神」
「私はリリム、嫉妬の女神」
俺から見て左にいるのが愛の女神のリリルだ。鮮やかなピンク色の神は腰まで伸びていて、それが風もない空間なのにたなびいている。その美しい顔立ちには笑みが見える。十人中十人が見惚れるであろうその笑みは魅力的だ。程よく膨らむ胸、くびれている腰に長い足。まさに女性の理想像を表したような目の前の愛の女神は妹の手を握っている。
対して俺から右にいるのが嫉妬の女神のリリムだ。薄い青色の髪は肩辺りで揃えられていて健康的に見える。体の方もリリルには劣るがやはり男の劣情を誘うには充分に思える容姿だ。姉の腕に絡むようにして抱きついている。
「それでその女神様が何のようなんだ?」
「リカエルに会ったのでしょう?」
「私達の言葉を伝えてほしいの」
「神なのにそんなこともできないのか?」
俺が率直に思ったことを口にする。
「今は無理。私達はもう現界できないの」
「信仰心が足りないの」
「なるほど。分かった伝えよう」
「ありがとう」
「では、一言だけ伝えて。私達は待っている、と」
現界とは恐らくリカエルのように分身体を出すことなのだろう。それができなくては話もできないとは何とも不便な話だ。俺としては物のついでなので別に構わない。何やらリカエルも複雑な関係のようだし。
「あなた達に愛の女神の加護を」
「あなた達に嫉妬の女神の加護を」
薄れゆく意識の中ではっきりとそう聞こえた。何とも使えなさそうな加護だが貰えるならもらっておこう。邪神を殺すためには何があっても不足しないことだろうし。
ついに思考が途絶え、現実に戻る。
「リベル、大丈夫か?」
「はい。どうやら気を失っていたみたいですね」
「神にあっただけだから何もなかった」
「愛の女神と嫉妬の女神ですか。お兄ちゃん、まさかとは思いますが」
俺はリベルの先に続く言葉を悟り、リベルの頭を撫でる。リベルの髪は柔らかなくて俺は好きだ。黒い髪は本当に綺麗で溜め息が漏れるほどだと思う。
そんなリベルでも俺のために嫉妬するのかと思うと嬉しくなった。成長することのないリベルはずっとこのままなので大人の女性に負けないか不安なのだろう。決してそんなことはないが言葉では信用してもらえないので行動で示すしかない。
俺は少しきつめにリベルを抱きしめる。リベルの柔らかな小さな体は俺の心に火を付けるには充分過ぎた。
「大丈夫。確かに綺麗とは思ったけど、それだけだ。十人中十人が惚れるような奴だったけど、俺は例外だったよ」
「そう……ですか。何だか申しわけないですね。気を使わせたようで」
「まぁそういうもんだろ?気難しいことは分からないけど、俺がリベルを好きなのは容姿とかそんなんじゃないんだ」
「やっぱりお兄ちゃんはずるいですね」
「はは、俺はずるいか。リベルの可愛さも反則級なんだけどな」
冗談めかして言った言葉にリベルは頬を赤く染めてそっぽを向いた。少し大人で少し子供なリベルは今日もいつも通りだ。大人なリベルは頼りがいあって、子供なリベルはとても愛おしい。どちらも好きでリベルという人が好きでとても幸せな気分になれる。時折何を言っているのか分からなくなるがリベルが何よりも大切で好きなのだ。それだけは何においても変わらない事実。
リベルとしばらくそのまま抱き合っていたが戻ってきた修道女に熱々ですねなんて言われて二人そろって顔を赤く染めたのは別の話だ。




