喜怒哀楽を共に
「で、結局こいつは何をしようとしてたんだ?」
俺はリベルに問いただす。あれからしばらく歩いていたのだが服装があまりにもこの世界に似合わないことに気づいた俺はダンジョンに戻り、DPを使って全身黒にして舞い戻って来たのだがそこで今、地面に首と胴を離された哀れな死体がリベルにちょっかいをかけている場所に出くわしたわけだ。
「先程も言いましたけど誘拐しようとしていたのでは?」
「なら、殺されても当然だな」
「……お兄ちゃん、やりすぎですよ」
「俺の嫁に手を出したんだ。殺される覚悟があって当然だろ」
「お兄ちゃんが壊れました」
何を言うのだリベルよ。因果応報。こいつはそれだけのことをしたから報いをうけたまで。俺は決して悪いことはしていないはずだ。
もう二度と離さないと決めたのに。決めた途端にこれだ。俺はやっぱり覚悟が決まってなかったのか。俺はやはり……そこまで考えて温かい小さい手でリベルが俺の手を掴んできた。
「やはりお兄ちゃんはやりすぎですね。気負いすぎです。私は今母になります。いいですかタツ。一人でできないことがあるのは当たり前です。一人でできないなら二人でやるのですよ」
「ああ、そうだな。ありがとう」
「分かればいいのです。さぁ行きましょう。神があれですから期待はしないことですよお兄ちゃん」
「はは、確かにな」
俺はリベルの言葉に苦笑した。俺なんかよりよっぽど大人だなリベルは。俺は果たして何者なのか。記憶がないので分からない。知識があるだけ考えてしまう。知識があるということは賢いということで。色んな可能性を考えられるということだ。そこには俺が偽物で本物が別にいるのではないかなんて恐ろしい考えもある。リベルという繋がりしかない俺にはリベルを失うことが恐ろしいのだ。結局、俺も人間でそれは傲慢な考えなのかもしれない。
けれど、リベルならきっとそんなことは関係ないと言ってくれるのだろうなという確信があった。俺は俺で私も同じ気持ちだ、と。それだけ俺の中にリベルがいることがとても嬉しいし、恥ずかしい。でも、想いは言わなければ伝わらないし、分からない。だから俺は聞いてみることにした。コップから水がこぼれ落ちるように自然と言葉にした。
「なぁリベル、俺は怖いんだ。俺が何者かも分からないから俺にはリベルしかいないからさ。失うのが怖いんだ」
リベルは小さな手で俺の手をぎゅっと握ってくる。リベルの目を見る。黒い瞳はじっと俺を見据えている。
「そうですね。じゃあこういうのはどうでしょうか。お兄ちゃんは私の父であり、母であり、兄であり、夫である。これなら四つの存在になれますよ?それに私を失うのが怖いなら守ればいいではないですか。あ、言っておきますが私もお兄ちゃんがいなくなるのは嫌ですから自分を犠牲に、とかは無しですからね」
どこまで俺の欲しい答えをくれるのだろうか。予想以上の答えをくれた。俺が俺であるなんて発想はなく、俺が四つの存在であると言う。なぜ母もあるのかは謎だが。どこまでも賢い子である。俺にはもったいない嫁だな。何だか最近、リベルのことをしか考えてない気がする。まぁ気のせいではないな。
「リベルはずるいな」
「なんですかそれは。そういうお兄ちゃんこそ私にいっぱいくれたではないですか」
「俺がか?何も覚えたはないけど」
「それは……愛とかチョコレートとかチョコレートとかですよ」
「……物で釣ったみたいだな俺」
しょぼんと落ち込んでみるとリベルは慌てて弁明し始めた。慌てふためく姿が可愛い。こんなのが俺の心に染み渡る言葉をくれるんだから人っていうのは分からない。醜い奴もいれば澄んだ心を持つ奴もいる。リベルはああいったが人間ってのは多種多様な存在だ。善も居れば悪もいる。全くもって不思議な生き物だ。
しばらくその様を眺めていたが俺が笑ったのを見て俺がわざと落ち込んだ振りをしていたのが分かった。顔を真っ赤にして顔を伏せた。
「あはは。リベル、やっぱりまだまだ子供だな」
「お兄ちゃん、一週間口聞いてあげませんからね」
「え、嘘……だよな?嘘だと言ってくれ!リベルぅぅぅ~!!」
俺はリベルの後を追い、必死に謝る。それから許してくれるまで二時間かかったがなんとか許してもらえた。
矛盾した考えをする事もあるが色々悩みながらリベルと共に成長していけたらいいなぁと思う。隣にリベルがいるから頑張れるのだ。そんなこっぱずかしいことは絶対に口にはしないけど。リベルに囁くのは愛してるの一言で充分だ。二人で悩んで、喜んで、悲しんで、怒って、楽しむ。リベルはそうしたいのだと俺に言ってくれたから。なら、それに添うように俺も努力しようと思う。大人で子供なリベルを支えていけるように。
「そうしたいなら叶えよう。俺は君のために全てを捧げよう。俺は君の喜怒哀楽の全てを共に過ごすことを誓おう。なんて、な。やっぱり中二病っぽいかな。でも、たまにはいいかな」
口にした言葉は相手に届かず、自分だけの誓いとして俺の中にしまわれた。




