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幼馴染の激変で青春を消し去られた私は、新天地でも逃げられない  作者: Piko-Lele


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東山高校 初日②



教室に入ったまゆと達也は、黒板に貼られた座席表を確認する。どうやら出席番号順に着席するようだ。



「出席番号一番か……中藤は?」


「私は十六番だから、真ん中くらいかな」


「僕たち、席はかなり離れちゃうみたいだね。じゃあ、僕の席はこっちだから。また後で!」



達也は輝く笑顔を残して自分の席へと移動していった。

その背中を視線で追うと、達也は自分の周りの席の人たちと旧知の仲かのように笑顔で挨拶を交わすと、会話を始めていた。



(今日、初めて会った人ともあっという間に仲良くなれるんだもんな。達也ってすごいな。)



まゆも新しい友達を作りたかったが、運が悪いことに席が名前順だったことで周りを男子に囲まれていた。



(大丈夫……変な印象を与えなければ、平穏に過ごせるはず!大丈夫!)



まゆが着席してしばらくすると、教室の前方の扉が吹き飛ぶ勢いでスライドして開く。

そして、30代くらいの男性が入室してきた。



「ホームルームを始めるぞ!俺は、このクラスの担任の白井(しらい)だ!一年間よろしく!さて、高校生活の記念すべき第一日目だからな……簡単な自己紹介をしてもらう!──じゃあ、出席番号一番から!」



突然、自己紹介を求められても文句の一つも出ないクラスメイトたちの堂々とした姿に、まゆは動揺を隠せなかった。



「市原達也です。深瀬中学校出身です。僕は、部活には入らない予定ですが、行事やイベントは大好きです。皆さん、仲良くしてください。」



一人目の達也は、緊張する素振りもなく自己紹介を終えた。

そして、達也の話した出身中学と何部に入る予定か、がテンプレートとして定着し、次の人から格段に自己紹介がしやすくなったのは言うまでもない。



(──さすが達也。えー。これ、達也と同中ってバレて、比較される流れかな。)



まゆがそわそわしている間に、次々に自己紹介が終わっていく。

五組には気の良い男子が多いのか、誰かが発表する度に感じの良い反応を返していた。


しかし、まゆにとってはそれも苦痛に感じる要因の一つとなっていた。



(ど、どうしよう……感じの良い反応をされた時の返答って、どうすれば良いの──!?中学の時は、ほとんどの男子が私を避けてたからな……うぅ、緊張する……!!)



自分の番が来るまで後十五人。

その数字が地獄へのカウントダウンのように感じて、まゆは机の下で両手を握り締め祈るしかなかった。



「次──中藤!」


「──は、はい!」



まゆが立ち上がった瞬間──すぐ近くから男子の小さな呟きが聞こえた。



「……デカッ」


「っ!!!!」

(──聞こえてるよ!西村にも耳にタコができるほど言われてきたけど!悔しかったら、お前がデカくなってみろ──なんて、女の子らしくないことを考えちゃダメだね。反省。)



まゆは憤りを感じたが、中学の悲惨な三年間を思い出す。

自分を殺して目立たないように過ごした日々の光景が脳裏に蘇り、背中に嫌な冷や汗が流れる。



(……あ、まずい。これ、悪目立ちしてるよね。確かに女の子が大きかったら、男子じゃなくても驚くし。よくよく考えたら当たり前の反応なのかも。)



まゆが、自分の背の高さにげんなりしていると、これまでは聞こえてこなかった女子の反応が聞こえてきた。



「えー!!中藤さん、足長いし顔も小さいし!めっちゃスタイル良いねー」


「本当!いいなー羨ましいー」



その反応を皮切りに、先ほど呟いていた男子の声の記憶を上書きすように、女子たちの感嘆の声が上がった。


声のした方をチラリと見ると、本当に数名の女子が、羨ましそうな視線をこちらへ向けていた。


そして、こちらをニコニコと見つめる達也と目が合って、まゆは何故だかその笑顔から勇気をもらい、気を取り直して自己紹介を始めた。



「中藤まゆです。深瀬中学出身です。部活は、まだ決めていませんが、運動部に入りたいと思っています。よろしくお願いします」



まゆは一息に言い切ると、ペコリとお辞儀をして着席した。



(口から心臓が飛び出るかと思ったー!でも、そこまで顔に緊張は出さずに乗り切れたはず……!)



まゆの自己紹介に対して拍手が始まる前に、まゆの二列左隣の前方に座っている別の男子が手を上げる。

そして、立ち上がるとまゆを振り返った。



「はい!質問です!中藤さんは、彼氏はいますか!?」



その質問に、クラス中が笑いに包まれる。

彼からしたらほんのジョークのつもりで、きっとクラスの誰もが「中藤さんは、この質問を笑って受け流すだろう」と思っていたはずだった。


しかし、その質問を投げかけられたまゆの顔を見た全員が息を飲んだ。



「──えっ……と、あー……彼氏かー……」



耳まで真っ赤にして、恥ずかしそうに両頬を包んでいるまゆは、誰が見ても純情な乙女そのものだった。



「あー…………いや、ごめん。ガチで可愛いんですけど」



質問をした男子は、思わず心の声が口に出てしまっている。

その反応に、まゆを振り返ったクラスメイトや、まゆのすぐ近くの席の男子は、彼女の大きな瞳が不安げに揺れ動くのを惚けた顔で見つめていた。



(マジでーーー!?高校って、こんな感じなの!?私に脈ありって意味だよね!?いや、違うのか?ジョーク?からかい?誰か教えてーー!)



しかし、当の本人は恋愛経験がないため、本気で照れて困惑していた。



「おーい。男のくせに、女の子を困らせるんじゃないぞー。そーゆー男はモテないからな!はい、次!根本!」



担任がうまく流れを変えてくれたお陰で、クラスの注目はまゆから後ろの席の男子へと切り替わっていった。


五組の全員が自己紹介を終え、明日からの予定の説明があり、ホームルームが終わった放課後。


続々と教室から生徒が出ていく中、栗色の髪とアーモンドアイが印象的な小柄な女の子──宇田川美波(うだがわみなみ)が、廊下からまゆの教室の中を覗き込んでいた。



「あ!いたいたー!まゆーー一緒に帰ろーー」



彼女はそう叫ぶと、こちらへ向けて腕を激しく振りながら入室してくる。

気の強そうなアーモンドアイは、笑うと猫目のようになって、なんとも可愛らしい。


美波のいる扉から出ていく男子は、美波の顔を見ては頬を緩めて通り過ぎていく──それが、彼女の見目の麗しさを物語っていた。


大きめの登校リュックを背負ったまゆが、扉のすぐ側に立つ美波へ駆け寄る。



「美波ーー!別々のクラスなのが本当に悲しいよーー!とゆーか、自己紹介……失敗したかもー」


「え!?自己紹介で失敗とかあるの?」


「だって、『デカッ』って、言われたんだよー」


「は!?それ言ったの誰!?」



美波は、アーモンドアイをさらに鋭く光らせて、五組の教室内に視線を走らせる。

あまりの眼光の鋭さに目を逸らす人が大多数の中、縮こまって気配を消している男子が一名──間違いなく、犯人だった。



「ぅおい!うちの可愛いまゆに、変なこと言ったら容赦しないかんね!!」


「み、美波!ダメだって!悪目立ちになるようなことはなしだよ!」


「……あ、ごめん!つい中学校の頃に戻っちゃった!てへっ♪」



美波は、まゆの中学校の黒歴史の全てを間近で目撃し、そして、その打開策を共に考えてくれた親友だった。

彼女はいつも、こうやってまゆのために西村と戦ってくれていた。


まゆが美波の暴走を止めている間に、いつの間にかほとんどの生徒が教室の後ろの扉から出ていったようだった。



「宇田川って怖いけどさ……あの可愛さなら怒られても良いよな」


「分かる!美少女に怒られるのも興奮するよな!」



廊下からなんとも気色悪い会話が聞こえてくると、美波は大袈裟に肩をすくめて見せる。



「男って、これだからねー」


「もー結局、目立っちゃうじゃん!」



まゆと美波がケタケタと笑っていると、そんな二人のやり取りを見ていたのか、達也が興味深げな表情でこちらへやってきた。



「中学校の時から思っていたけど、君たちは本当に仲が良いよね」


「当たり前でしょ!小学一年生の時から、ずっと一緒にいたんだから!達也もまゆと同じクラスなら、ちゃんとフォローしてあげなさいよ!」



美波が得意気にふんぞり返り、よく響く声で喋っていると、その背後に焦った表情の悪魔が音もなく現れた。


美波が達也へと何か言っている声に、何かあったのかと慌てて駆けつけたようだった。──が、それに気がついていたのは、必死の形相で駆け抜ける慶太を目の当たりにした廊下にいた生徒と達也だけだった。


まゆの様子に変化がないと判断した慶太は、直前に聞こえた美波の発言を思い出し、不機嫌そうに口を尖らせる。



「──は!俺と中藤は、保育園から一緒だけどな」



慶太の出現を瞬時に察知した美波が、素早く振り返り扉を閉めようと動く──しかし、慶太もその動きに見事に反応して扉のレールの上に足を乗せて妨害した。



「ちょっと……足を退かしなさいよ!」


「宇田川こそ、急に扉を閉めたら危ないだろ?」


「あんたね、まゆの目の前で扉を閉めたこと、あたしが知らないとでも思ってんの!?──てか、まゆ!今のうちに後ろの扉から逃げな!」


「それは、中藤が逃げるから仕方なく……って、おい!こら、中藤!マジで後ろから出ていくつもりかよ!?って、達也!お前は、中藤についていくんじゃなくて、宇田川の方をどうにかしてくれよ!」



慶太と美波が、前方の扉でガタガタと激しい音を立てて争うのを横目に、達也がそっと開けてくれた後方の扉から、まゆは教室から静かに駆け出した。



(もーーー!!!西村が同じ学校とか本当にありえない!中学の時みたいに変なこと言われたら……私の青春は、お先真っ暗だよーーー!!あ、達也にも助けてもらえばいいか。)



まゆの高校生活は、周りから見れば十分に青春を謳歌しているように見えていた。

しかし、本人にとってこのイケメン二名の存在は、本当にはた迷惑でしかなかったのであった。



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