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死亡フラグが全部付箋で見えるんですが  作者: 絵宮 芳緒
第ニ章 動き出した歯車

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第ニ話 小さな一歩

王都へ向かう馬車は、石畳の道をゆっくりと進んでいた。


窓の外には、春の陽射しを浴びた街並みが広がっている。


露店には色とりどりの花が並び、焼きたてのパンの香りが風に乗って漂ってきた。


穏やかな景色とは裏腹に、リシェルの胸には、二枚の付箋が焼き付いたままだった。


【14日後 破産します】


【裏切られます】


あの二つの未来が意味するものは何なのか。

答えは、まだ見つからない。

だからこそ、今日ここへ来た。


「お嬢様、王都へ到着いたしました。」


御者の声に、リシェルは静かに頷く。

護衛が馬車の扉を開き、恭しく一礼した。


「足元に、お気を付けください。」


「ありがとう。」


リシェルは差し出された手を借り、ゆっくりと馬車を降りる。


王都は今日も多くの人で賑わっていた。


行き交う人々の話し声。

店先から漂う香ばしい匂い。

遠くで響く鐘の音。


すべてが、いつもと変わらない。


それでもリシェルには、その日常が少し違って見えていた。


自然と視線は人々の頭上へ向かう。


【本日 新しい取引が始まります】


【夕方 家族と仲直りします】


【五日後 試験に合格します】


穏やかな未来。

嬉しい未来。


人それぞれの人生が、小さな付箋となって静かに揺れている。


「……。」


付箋は、誰に対しても平等だった。


良い未来も、悪い未来も。

ただ、そこにあるだけ。


リシェルは小さく息を吐き、歩き始める。

その時だった。


「……リシェル様?」


穏やかな声に、足が止まる。

振り返ると、そこには見覚えのある青年が立っていた。


整った身なりに、落ち着いた物腰。

王宮文官、エルネストだった。


「ごきげんよう、エルネスト様。」


リシェルは、優雅にカーテシーを披露する。


「ごきげんよう、リシェル様。」


エルネストも柔らかく微笑み、一礼を返した。


「またお会いできましたね。」


「ええ。」


自然と視線がエルネストの頭上へ向かう。

白い付箋が、春風に揺れていた。


【本日 大切な相談を受けます】


「……。」


リシェルは思わず目を見開く。


大切な相談。

その文字を見た瞬間、小さく息をのんだ。


――この付箋は、私のことなのだろうか。


胸の奥で、小さな決意が固まっていく。


能力のことは話せない。

けれど、このまま一人で抱え込むこともできない。


リシェルは静かにエルネストを見つめた。


「エルネスト様。」


「はい。」


「少し、お時間をいただいてもよろしいでしょうか。」


エルネストは穏やかに微笑み、静かに頷く。


「もちろんです。」


その返事に、リシェルは小さく安堵の息をついた。


二人は人通りの多い通りを離れ、落ち着いて話ができる場所へ向かって歩き始めた。

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