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死亡フラグが全部付箋で見えるんですが  作者: 絵宮 芳緒
第六章 交錯する想い

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第七話 残された一輪

「詳しく聞かせてくれ」


レオンの声に、マリアは顔を上げた。


王宮の一室には、レオンとヴィクトル、そして数名の騎士が集まっていた。


マリアは侍従に付き添われ、椅子に腰を下ろしている。


「お嬢様は、グランディール伯爵家のご令嬢と、庭園の奥にあるテラスへ向かわれました」


震える声で、マリアは話し始めた。


「その時、庭園の方から火事だという声が聞こえて……給仕の服装をした男が、避難するようにと」


「給仕の男か」


レオンはヴィクトルへ視線を向けた。


「本日の給仕担当者を確認してくれ。臨時に雇われた者も含めてだ」


「承知しました」


ヴィクトルが部下に指示を出す。


マリアは膝の上で両手を握りしめた。


「私がお守りしなければならなかったのに……」


「マリア」


レオンは静かに呼びかけた。


「今は、覚えていることを教えてほしい。それがリシェル嬢を助けることにつながる」


マリアは唇を結び、頷いた。


「男は二人いました。一人がお嬢様をつかみ、もう一人が私を……」


そこまで話すと、声が詰まった。

レオンは急かさずに待った。


「グランディール様も、止めようとしてくださったのです。ですが、男に振り払われて……そのあと、お嬢様を追いかけてくださいました」


「グランディール嬢が?」


「はい。馬車で連れ去られたと教えてくださいました。向かった方角も、侍従の方にお伝えしています」


レオンは頷いた。


「その方角の門と通路を調べろ。通過した馬車の記録も確認するんだ」


騎士たちが動き出す。


「私も、何かお役に立てれば……」


マリアは立ち上がろうとして、わずかに顔をしかめた。

男に突き飛ばされた際、足首をひねってしまったらしい。



「まずは、アストレア伯爵家へ知らせよう。君も怪我をしている」


「ですが、お嬢様が……」


「必ず捜す」


レオンはまっすぐに答えた。

その言葉に、マリアは小さく頷いた。




レオンはノアを伴い、庭園の奥へ向かった。


煙はすでに収まり、茶会の招待客たちは安全な場所へ移されている。


「火元は?」


「庭園の隅に置かれた布類が燃えていたようです。すぐに消し止められました」


ノアが答えた。


「偶然とは思えませんね」


「ああ。人の注意をそらすためだろう」


レオンはテラスへ続く小道に目を向けた。


低い生け垣。

人目を遮る石壁。

そして、庭園の裏手へ続く通路。


「ここで襲われたのか」


「マリア殿の話では、そのようです」


レオンは周囲を見渡した。


王宮の中で、これほど大胆な行動に出るとは。

しかも、警備の配置を把握していたかのような動きだった。


「裏門の確認は?」


「ヴィクトル副団長が調べています。給仕用の荷を運ぶ馬車が出入りする門ですが、現在は封鎖しました」


レオンは頷き、通路を進んだ。

石畳には、慌ただしく人が行き交った跡が残っていた。


何か手がかりはないか。

そう考えながら、レオンは足元へ目を向けた。


その時だった。

石壁の根元で、小さなものが光を反射した。

レオンは足を止めた。


「……これは」


身をかがめ、指先で拾い上げる。

銀細工の、小さな花だった。

五枚の花弁を持つ、繊細な造り。


「勿忘草……」


レオンは呟いた。


見覚えがあった。


先日、リシェル嬢が襲われた際に落とした髪飾り。

あの時、自分が拾い、マリアに渡したものだ。


青い勿忘草をかたどった、銀細工の髪飾り。

その一輪が、今、彼の手の中にあった。


「団長?」


ノアが声をかける。

レオンは掌の小さな花を見つめた。


「リシェル嬢の髪飾りの一部だ」


「では、ここを通ったということですね」


「ああ」


レオンは懐から清潔なハンカチを取り出した。


銀の花をそっと包み、落ちないように折り畳む。

小さな一輪。


それでも、彼女が確かにここにいたことを示す、大切な手がかりだった。


「この先を調べよう」


レオンは立ち上がった。




裏門では、ヴィクトルが門番たちから事情を聞いていた。


「団長」


レオンの姿に気付き、ヴィクトルが近づいてくる。


「不審な馬車が一台、通過したことが分かりました」


「いつだ?」


「騒ぎが起きた直後です。給仕に使う道具を運び出すと説明されたそうです」


「通行の許可は?」


「書類は提示されたようですが、現在確認中です」


レオンの表情が険しくなる。


「王宮の出入りを管理する者が、確認もせずに通したのか」


「煙の騒ぎで人員が動き、通常とは違う対応になっていたようです」


ヴィクトルは言葉を続けた。


「馬車の特徴と、向かった方角は確認できています」


「すぐに追跡隊を出せ。周辺の街道にも連絡を」


「承知しました」


ノアが騎士たちへ指示を伝えに走った。


レオンは門の外へ視線を向けた。

リシェルは、あの馬車に乗せられている。


二度も襲われ、ようやく少しずつ日常を取り戻そうとしていた彼女がまた、恐怖の中にいる。


レオンは手の中のハンカチを握りしめた。

中には、小さな勿忘草が包まれている。


「……必ず見つける」


誰に聞かせるでもなく、静かに呟いた。

そして、レオンは騎士たちのもとへ歩き出した。


残された一輪が、彼を次の手がかりへと導こうとしていた。

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