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死亡フラグが全部付箋で見えるんですが  作者: 絵宮 芳緒
第六章 交錯する想い

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第五話 王宮茶会

王宮の庭園には、色とりどりの花々が咲き誇っていた。


柔らかな陽射しが降り注ぐ中、白いクロスの掛けられたテーブルには、焼き菓子や果実を使った小さな菓子が美しく並べられている。


庭園の中央では、王妃が招待客と言葉を交わしていた。


この日は、王宮で王妃主催の茶会が催されていた。


招待された貴族の令嬢や夫人たちが、思い思いに会話を楽しんでいる。


「まあ、アストレア嬢。お久しぶりですわ」


顔見知りの令嬢に声をかけられ、リシェルは穏やかに微笑んだ


「お久しぶりです」


二度の襲撃を受けてから、しばらく外出を控えていた。


今日の茶会に出席することにも、最初は迷いがあった。


けれど、いつまでも屋敷に閉じこもっているわけにはいかない。


両親とも相談し、護衛を伴って出席することに決めたのだった。

護衛たちは王宮内の指定された場所で待機しており、少し離れた場所にはマリアが控えている。


リシェルは周囲を見渡した。


華やかな衣装に身を包んだ令嬢たち。

楽しげな笑い声。

漂う紅茶の香り。


何も変わらない、いつもの社交界の光景。

それでも、以前とは違って見えた。


人の行き交う場所に立つと、どうしても周囲へ意識が向いてしまう。


あの日の男たちの姿が、ふと脳裏をよぎった。


リシェルは小さく息をつく。


(大丈夫。ここは王宮だもの)


そう自分に言い聞かせ、手にしたカップへ視線を落とした。




庭園へ続く回廊では、レオンが部下たちと警備の確認を行っていた。


「庭園側の配置は?」


「予定どおりです。出入口にも騎士を配置しております」


報告したのはノアだった。

レオンは頷く。


「招待客だけでなく、給仕に入る者の出入りにも注意してくれ」


「承知しました」


王妃主催の茶会とあって、王宮内には厳重な警備が敷かれていた。


だが、今回はそれだけではない。

リシェル・アストレアが出席する。


二度も襲撃を受けた彼女が、人の集まる場所へ姿を見せるのだ。


レオンは、いつも以上に警戒を強めていた。


「団長」


傍らにいたヴィクトルが声をかけた。


「アストレア伯爵家の護衛も、指定された場所で待機しております」


「分かった」


レオンは庭園へ視線を向けた。

招待客の姿が、回廊の向こうに見える。


その中に、蜂蜜色の髪をした令嬢を見つけた。


リシェルだった。


令嬢たちと会話を交わしながら、穏やかに微笑んでいる。


その姿に、レオンはわずかに安堵した。

だが、すぐに視線を周囲へ戻す。


「警戒を緩めるな。何かあれば、すぐに知らせてくれ」


「はい」


ノアは一礼し、持ち場へ向かった。



「アストレア嬢」


背後から声をかけられ、リシェルは振り返った。


そこには、淡い色のドレスをまとった若い令嬢が立っていた。


「グランディール嬢」


セレーヌ・グランディール。

グランディール伯爵家の三女だった。


「お久しぶりですわ」


「ええ。お元気でしたか?」


「はい。アストレア嬢も、お変わりないようで安心いたしました」


セレーヌは微笑んだ。





実は、昨夜のことだった。

父であるグランディール伯爵から、今日の茶会について話があったのだ。



「セリー。明日の茶会には、アストレア伯爵家の令嬢も出席するそうだな」


「ええ。そのようですわ」


「そうか。ならば、少し話をしてきなさい」


セレーヌは不思議そうに首を傾げた。


「アストレア嬢と、ですか? 何かお話しすることがあるのでしょうか」


「ああ。最近は社交の場にもあまり姿を見せていなかったそうだ。お前から声をかければ、喜ばれるだろう」


「そうですわね」


セレーヌは頷いた。


「それから、庭園の奥にあるテラスを知っているな?」


「はい」


「あそこは静かで、ゆっくり話すにはちょうどいい。よければ、お誘いしてみなさい」


「分かりましたわ、お父様」


伯爵は満足そうに微笑んだ。


「頼んだぞ、セリー」


その笑顔の奥に、何が隠されているのか。

セレーヌは、まだ何も知らなかった。




父親の言葉を思い出しながら、セレーヌは目の前のリシェルへ微笑みかけた。




アストレア嬢とは、これまで挨拶を交わす程度の付き合いだった。

けれど、同じ年頃の令嬢同士、もう少し親しくなれるかもしれない。


「王宮のお庭は、いつ来ても素敵ですわね」


「ええ。季節ごとに違う花が楽しめますもの」


二人は穏やかに言葉を交わした。


その時、セレーヌの視線がふと、庭園を囲む回廊へ向けられた。


そこには、紺色の制服を身にまとった一人の騎士が、部下と言葉を交わしていた。


レオン・ヴァルフォード。

以前、馬車の中から見かけた人物だった。


そして、先日も。

アストレア嬢を支えるようにしていた姿が、今も記憶に残っている。


(やっぱり、素敵な方……)


セレーヌは慌てて視線を戻した。


「アストレア嬢は、最近あまりお見かけしませんでしたわね」


「ええ。しばらく屋敷で過ごしておりましたの」


「そうでしたのね。今日はお会いできて嬉しいですわ」


セレーヌはにこやかに微笑んだ。


「ありがとうございます。私も、久しぶりに皆様とお話しできて嬉しいです」


社交界で顔を合わせたことはあっても、これまで長く話したことはなかった。

けれど、セレーヌの明るい話し方に、リシェルも少しずつ緊張を解いていった。





庭園では、給仕の者たちが忙しそうに行き交っていた。


銀の盆にカップを並べる者。

焼き菓子を補充する者。

招待客の求めに応じ、紅茶を注ぐ者。


その中に、一人だけ、周囲の様子を何度も確かめている男がいた。


男は盆を持ち直すと、庭園の奥へ続く通路へ目を向けた。

やがて、何事もなかったかのように歩き出す。


華やかな茶会の喧騒の中で、その小さな動きに気付く者はいなかった。


庭園には、穏やかな笑い声が響いていた。


まだ誰も知らない。


その平穏が、まもなく破られようとしていることを。

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