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死亡フラグが全部付箋で見えるんですが  作者: 絵宮 芳緒
第六章 交錯する想い

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第一話 繰り返された襲撃

王都騎士団本部。

朝の光が差し込む執務室には、紙をめくる音だけが静かに響いていた。


レオン・ヴァルフォードは、机の上に広げられた報告書へ目を落としていた。


昨日起きた、アストレア伯爵令嬢への襲撃事件。


三人の男が工房からの帰り道で令嬢を襲い、そのうち一人を捕らえた。

残る二人は逃走。


幸い、リシェルにも侍女にも大きな怪我はなかったが、護衛は男たちとの交戦で軽傷を負っていた。


レオンは報告書を一枚めくる。


「……やはり、妙だな。」


その呟きに、向かいの席にいたヴィクトルが顔を上げた。


「昨日の件か?」


「ああ。」


レオンは報告書を机に置いた。


「金品を奪う素振りはなかった。男たちは最初から、リシェル嬢を狙っていたように見える。」


「護衛を二人で引きつけ、残る一人が令嬢に向かったんだったな。」


「そうだ。」


ヴィクトルは腕を組んだ。


「偶然通りかかった令嬢を狙ったにしては、随分と手際がいい。」


「それだけではない。」


レオンは別の報告書を取り出した。


「十日前にも、同じ令嬢が襲われている。」


ヴィクトルの表情が引き締まる。


「ノアが駆けつけた件か。」


「ああ。あのときも男は三人だった。」


「……同じ連中か?」


「まだ分からない。だが、無関係と考えるには不自然だ。」


レオンは静かに言った。


一度ならば、偶然という可能性もある。


だが、短い期間に同じ令嬢が二度も襲われた。


しかも、どちらも複数の男が護衛を妨害し、リシェル本人へ近づこうとしている。


単なる物取りとは考えにくかった。


そのとき、執務室の扉が叩かれた。


「失礼します。」


入ってきたのはノアだった。


「昨日捕らえた男の取り調べについて、ご報告があります」


「聞こう」


ノアは手にした書類を開いた。


「男は王都の住人ですが、定職には就いていません。過去にも小さな揉め事を起こしているようです」


「依頼主は?」


「名前は知らないと供述しています。仕事を持ちかけた男とも、一度しか会っていないそうです」


ヴィクトルが眉を寄せた。


「随分と用心深い依頼主だな」


「報酬は前金を受け取り、仕事が済めば残りを渡す約束だったようです」


「仕事の内容は?」


レオンの問いに、ノアは一度書類へ目を落とした。


「ある令嬢を捕らえること。ただし、命は奪うなと指示されていたそうです」


「……連れ去るつもりだったのか」


ヴィクトルの声が低くなる。


「その可能性が高いでしょう」


レオンはしばらく考え、再び口を開いた。


「男たちは、リシェル嬢が装飾工房を訪れることを知っていたのか?」


「いいえ。本人は知らなかったと話しています」


「では、どうやって待ち伏せた?」


「目当ての令嬢が店に入ったという知らせを受け、出てきたところを狙ったそうです」


レオンは目を細めた。


「……店に入るところを、誰かが見ていたわけか」


「はい」


「偶然見かけたのか、それとも……」


ヴィクトルが言いかけた言葉を、レオンが引き継いだ。


「後をつけていた可能性がある」


執務室に短い沈黙が落ちた。


「十日前の襲撃でも、リシェル嬢は外出先で狙われている。二度とも偶然居合わせたとは考えにくい」


「伯爵家から情報が漏れている可能性は?」


ヴィクトルの問いに、レオンはすぐには答えなかった。


「否定はできない。だが、今の段階で使用人を疑う根拠はない」


レオンは机の上に置かれた二つの報告書を見比べた。


「外出したところから見張られていたのなら、屋敷の予定を知る必要はない」


「なるほどな」


「ノア。十日前の事件についても、現場周辺の目撃情報をもう一度確認してくれ。特に、襲撃前から付近にいた不審な人物だ」


「承知しました」


「それと、昨日逃げた二人の行方も引き続き追え。捕らえた男の証言だけでは、まだ判断できない」


ノアは一礼した。


「直ちに調べます」


「直ちに調べます」


ノアが一礼して執務室を後にすると、ヴィクトルが小さく息を吐いた。


「厄介なことになったな」


「そうだな」


レオンは椅子の背にもたれることなく、報告書を見つめていた。


「二度も失敗している。相手

がこのまま諦めるとは限らない」


「むしろ、次は手段を変えてくるかもしれないな」


レオンは頷いた。


「アストレア伯爵家には、警戒を強めるよう伝える」


「お前が直接行くのか?」


「いや。まずは正式な報告を届ける。必要があれば、俺からも説明する」


ヴィクトルはその答えに頷いた。


騎士団長として、当然の判断だった。


レオンは再び書類へ目を落とす。


昨日、石畳の上に落ちていた青い髪飾り。


差し出された髪飾りを受け取ることもできず、指先を震わせていたリシェルの姿が、一瞬だけ脳裏をよぎった。



恐ろしい思いをしたのだろう。


それでも彼女は、侍女を庇おうとしていた。


レオンは静かに息を吐き、目の前の報告書へ意識を戻した。


守るべき民を脅かす者を、放置するわけにはいかない。


まして、同じ人物が繰り返し狙われているのならば。


守るべき民を脅かす者を、放置するわけにはいかない。


まして、同じ人物が繰り返し狙われているのならば。

窓の外では、王都の朝がいつもどおりに始まっていた。




行き交う人々。

開店の準備をする商人たち。

何事もなかったかのような、穏やかな街並み。


だが、その日常の裏側で、何者かが一人の伯爵令嬢を狙っている。


レオンは報告書を閉じた。


「必ず、依頼主を突き止める」


その声には、騎士団長としての揺るぎない決意が込められていた。



第6章 交錯する想い


第1話 繰り返された襲撃




王都騎士団本部。


朝の光が差し込む執務室には、紙をめくる音だけが静かに響いていた。


レオン・ヴァルフォードは、机の上に広げられた報告書へ目を落としていた。


昨日起きた、アストレア伯爵令嬢への襲撃事件。


三人の男が工房からの帰り道で令嬢を襲い、そのうち一人を捕らえた。


残る二人は逃走。


幸い、リシェルにも侍女にも大きな怪我はなかったが、護衛は男たちとの交戦で軽傷を負っていた。


レオンは報告書を一枚めくる。


「……やはり、妙だな。」


その呟きに、向かいの席にいたヴィクトルが顔を上げた。


「昨日の件か?」


「ああ。」


レオンは報告書を机に置いた。


「金品を奪う素振りはなかった。男たちは最初から、リシェル嬢を狙っていたように見える。」


「護衛を二人で引きつけ、残る一人が令嬢に向かったんだったな。」


「そうだ。」


ヴィクトルは腕を組んだ。


「偶然通りかかった令嬢を狙ったにしては、随分と手際がいい。」


「それだけではない。」


レオンは別の報告書を取り出した。


「十日前にも、同じ令嬢が襲われている。」


ヴィクトルの表情が引き締まる。


「ノアが駆けつけた件か。」


「ああ。あのときも男は三人だった。」


「……同じ連中か?」


「まだ分からない。だが、無関係と考えるには不自然だ。」


レオンは静かに言った。


一度ならば、偶然という可能性もある。


だが、短い期間に同じ令嬢が二度も襲われた。


しかも、どちらも複数の男が護衛を妨害し、リシェル本人へ近づこうとしている。


単なる物取りとは考えにくかった。


そのとき、執務室の扉が叩かれた。


「失礼します。」


入ってきたのはノアだった。


「昨日捕らえた男の取り調べについて、ご報告があります」


「聞こう」


ノアは手にした書類を開いた。


「男は王都の住人ですが、定職には就いていません。過去にも小さな揉め事を起こしているようです」


「依頼主は?」


「名前は知らないと供述しています。仕事を持ちかけた男とも、一度しか会っていないそうです」


ヴィクトルが眉を寄せた。


「随分と用心深い依頼主だな」


「報酬は前金を受け取り、仕事が済めば残りを渡す約束だったようです」


「仕事の内容は?」


レオンの問いに、ノアは一度書類へ目を落とした。


「ある令嬢を捕らえること。ただし、命は奪うなと指示されていたそうです」


「……連れ去るつもりだったのか」


ヴィクトルの声が低くなる。


「その可能性が高いでしょう」


レオンはしばらく考え、再び口を開いた。


「男たちは、リシェル嬢が装飾工房を訪れることを知っていたのか?」


「いいえ。本人は知らなかったと話しています」


「では、どうやって待ち伏せた?」


「目当ての令嬢が店に入ったという知らせを受け、出てきたところを狙ったそうです」


レオンは目を細めた。


「……店に入るところを、誰かが見ていたわけか」


「はい」


「偶然見かけたのか、それとも……」


ヴィクトルが言いかけた言葉を、レオンが引き継いだ。


「後をつけていた可能性がある」


執務室に短い沈黙が落ちた。


「十日前の襲撃でも、リシェル嬢は外出先で狙われている。二度とも偶然居合わせたとは考えにくい」


「伯爵家から情報が漏れている可能性は?」


ヴィクトルの問いに、レオンはすぐには答えなかった。


「否定はできない。だが、今の段階で使用人を疑う根拠はない」


レオンは机の上に置かれた二つの報告書を見比べた。


「外出したところから見張られていたのなら、屋敷の予定を知る必要はない」


「なるほどな」


「ノア。十日前の事件についても、現場周辺の目撃情報をもう一度確認してくれ。特に、襲撃前から付近にいた不審な人物だ」


「承知しました」


「それと、昨日逃げた二人の行方も引き続き追え。捕らえた男の証言だけでは、まだ判断できない」


ノアは一礼した。


「直ちに調べます」


ノアが一礼して執務室を後にすると、ヴィクトルが小さく息を吐いた。


「厄介なことになったな」


「そうだな」


レオンは椅子の背にもたれることなく、報告書を見つめていた。


「二度も失敗している。相手がこのまま諦めるとは限らない」


「むしろ、次は手段を変えてくるかもしれないな」


レオンは頷いた。


「アストレア伯爵家には、警戒を強めるよう伝える」


「お前が直接行くのか?」


「いや。まずは正式な報告を届ける。必要があれば、俺からも説明する」


ヴィクトルはその答えに頷いた。


騎士団長として、当然の判断だった。


レオンは再び書類へ目を落とす。


昨日、石畳の上に落ちていた青い髪飾り。


差し出された髪飾りを受け取ることもできず、指先を震わせていたリシェルの姿が、一瞬だけ脳裏をよぎった。



恐ろしい思いをしたのだろう。


それでも彼女は、侍女を庇おうとしていた。


レオンは静かに息を吐き、目の前の報告書へ意識を戻した。


守るべき民を脅かす者を、放置するわけにはいかない。


まして、同じ人物が繰り返し狙われているのならば。



窓の外では、王都の朝がいつもどおりに始まっていた。


行き交う人々。

開店の準備をする商人たち。

何事もなかったかのような、穏やかな街並み。


だが、その日常の裏側で、何者かが一人の伯爵令嬢を狙っている。


レオンは報告書を閉じた。


「必ず、依頼主を突き止める」


その声には、騎士団長としての揺るぎない決意が込められていた。

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