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死亡フラグが全部付箋で見えるんですが  作者: 絵宮 芳緒
第五章 動き出す未来

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第一話 新しい付箋

朝の陽射しが、カーテンの隙間から静かに差し込んでいた。


窓辺では、小鳥のさえずりが穏やかに響いている。


リシェルはゆっくりと目を開けた。

昨日の出来事が、自然と思い返される。


王国騎士団。


鍛錬に励む騎士たち。

穏やかな馬たち。

支え合いながら働く人々。

そして――。


「レオン様……。」


小さく呟いた瞬間、自分でも少しだけ照れくさくなり、頬へそっと手を添えた。


(いけないわ。)


小さく首を振る。

その時だった。


「……。」


何気なく、視線を上げる。

頭上へ浮かぶ、一枚の白い付箋。

昨日、書き換わったばかりの未来。


リシェルは、静かに息を呑んだ。


そこには、新しい文字が浮かんでいた。


【七日後 無実の人を救います】


「無実の……人。」


リシェルは小さく呟く。

もう一度、付箋へ視線を向けた。

間違いではない。


昨日まで浮かんでいた未来は消え、新しい未来が静かに示されていた。


(誰を……助けるの?)


その答えは、まだどこにも書かれていない。


リシェルはそっと付箋から視線を外した。


「失礼いたします。」


控えめなノックのあと、マリアが静かに部屋へ入ってきた。


「おはようございます、お嬢様。」


「おはよう、マリア。」


リシェルも穏やかに微笑み返す。


何気なく視線を向けると、マリアの頭上には一枚の付箋が浮かんでいた。


【三十分後 お嬢様のお出掛けの準備をします】


思わず、小さく笑みがこぼれる。


「どうかなさいましたか?」


「いいえ。」


リシェルは、優しく首を横へ振った。


(今日も、いつも通りね。)


その何気ない未来に、少しだけ安心する。


「朝食のご用意が整っております。」


「ええ、すぐに向かうわ。」


身支度を整え、リシェルはマリアとともに部屋をあとにした。






身支度を整え、リシェルはマリアとともに部屋をあとにした。


廊下では、執事のアルフレッドが使用人へ朝の指示を出している。


「お嬢様、おはようございます。」


「おはよう、アルフレッド。」


リシェルは自然と視線を上げる。


アルフレッドの頭上には、一枚の付箋が浮かんでいた。


【十分後 朝の来客をお迎えします】


(今日も忙しそうね。)


アルフレッドは一礼すると、再び使用人たちへ穏やかに指示を出し始めた。


リシェルもマリアとともに、食堂へ向かうため、歩き出す。


少し先では、一人のメイドがティーワゴンを押しながら、食堂へ向かっていた。


何気なく視線を向けた、その時だった。


頭上に浮かぶ一枚の付箋。


【ティーポットを倒します】


(……え?)


リシェルは、思わず足を止めた。

そのまま視線を巡らせる。


すると、廊下の角から大きな荷物を抱えた使用人が足早に歩いてくるのが見えた。


荷物に視界を遮られているのか、前方へまったく気付いていない。


一方、メイドもティーワゴンを押したまま、そのまま角へ向かっている。


(あのままでは……。)


「マリア。」


「はい、お嬢様。」


「あのままでは危ないわ。」


リシェルの視線の先を見たマリアは、咄嗟に状況を察し、すぐに前へ出た。


「エマ!」


メイドが足を止める。


「トーマス!」


使用人もはっと顔を上げ、その場で立ち止まった。


あと一歩進んでいたら、ティーワゴンへぶつかっていただろう。


「申し訳ございません、お嬢様。」


メイドと使用人は、慌ててリシェルへ頭を下げた。


「マリアさんも、申し訳ありません。」


マリアは優しく微笑む。


「気にしなくて大丈夫ですよ。二人とも、お怪我がなくて何よりです。」


リシェルも穏やかに頷いた。


「大事にならなくて良かったわ。」


二人は安堵したように、顔を見合わせる。


「次からは、もっと前を見て歩こう。」


「ええ、気を付けます。」


互いに頷き合うと、それぞれの持ち場へ戻っていった。


リシェルはもう一度、メイドの頭上へ視線を向ける。


付箋の文字が静かに揺らぎ、ゆっくりと書き換わっていく。


【午後 市場へ買い出しへ向かいます】


(……やっぱり。)


未来は、変えられる。


リシェルは小さく微笑むと、再び食堂へ向かって歩き出した。






食堂へ入ると、すでに父と母が席に着いていた。


「おはようございます、お父様、お母様。」


「おはよう、リシェル。」


父が穏やかに微笑み、母も優しく頷く。


何気なく視線を向ける。


父の頭上には、


【午後 王宮で財務大臣と面会します】


母の頭上には、


【午後 ローゼン夫人とお茶会を楽しみます】


(今日も、お二人らしいわ。)


リシェルは自然と頬を緩め、席へ着いた。


朝食はいつもと変わらぬ穏やかな時間だった。


領地から届いた便りや、王都の様子などを話しながら、和やかな時間が流れていく。


「お父様、お母様。」


「今日は、商会へ行ってまいります。」


伯爵は静かに頷く。


「気を付けて行っておいで。」


「はい。」


母も優しく微笑んだ。


「楽しんでいらっしゃい。」


「はい、お母様。」


リシェルは立ち上がると、二人へ一礼した。


「行ってまいります。」


「行ってらっしゃい。」


父と母の声に見送られながら、リシェルは食堂をあとにした。




マリアとともに玄関ホールへ向かうと、護衛騎士が静かに一礼する。


「お嬢様。馬車の準備が整っております。」


「ありがとう。」


リシェルは穏やかに頷いた。


「どうぞ、お気を付けて。」


マリアが優しく微笑む。


「ええ。行ってくるわ。」


「行ってらっしゃいませ、お嬢様。」


マリアに見送られながら、リシェルは馬車へ乗り込んだ。





やがて馬車は商会の前で静かに止まる。


護衛騎士が扉を開き、日傘を差し掛けた。


リシェルがゆっくりと馬車を降りた、その時だった。


「……アストレア伯爵令嬢。」


聞き覚えのある声に、リシェルは静かに振り返る。


そこには、巡回中と思われる若い騎士が立っていた。


騎士は一礼する。


先日、騎士団で出会った騎士だった。


「先日は、大変お世話になりました。」


リシェルは穏やかに微笑み、軽く会釈した。

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