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死亡フラグが全部付箋で見えるんですが  作者: 絵宮 芳緒
第四章 結ばれ始める縁

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第十話 知らなかった世界

ノアに軽く頷くと、レオンは歩き出した。


「次は、こちらをご案内いたします。」


「はい。」


リシェルは穏やかに微笑み、その後に続く。

訓練場を後にし、石造りの廊下を進む。


窓から差し込む春の日差しが、床を明るく照らしていた。


行き交う騎士たちは、レオンの姿を見つけると足を止め、一斉に敬礼を送る。


「団長。」


「お疲れ様です。」


レオンも一人ひとりへ、軽く頷き返す。


その様子を見つめながら、リシェルは小さく微笑んだ。


「皆様、とても団結していらっしゃるのですね。」


レオンは穏やかに頷く。


「私は団長ですが、一人で騎士団を支えているわけではありません。皆が、それぞれの役目を果たしているからこそ、騎士団は成り立っています。」


リシェルは、感心したように頷いた。


「素敵ですね。私の知る貴族の屋敷とも、どこか似ています。」


レオンは少し興味深そうに、視線を向ける。


「どのようなところが、でしょう。」


「皆が、それぞれの役目を大切にしているところです。家も、騎士団も、一人では成り立ちませんもの。」


レオンは一瞬だけ、目を見開いた。

やがて、ふっと口元を和らげる。


「……私も、同じ考えです。」


訓練場を一通り見終えると、レオンはゆっくりと歩き始めた。


リシェルも、その後に続く。

その途中、レオンは一人の若い騎士の前で足を止めた。


木剣を振るうその姿は、真剣そのものだった。


額には汗が滲み、それでも一太刀一太刀を丁寧に、振り下ろしている。


「ノア。」


穏やかな声に、若い騎士はすぐに動きを止めた。

振り返ると、その表情がぱっと引き締まる。


「団長。」


木剣を収め、真っ直ぐ背筋を伸ばえて敬礼した。

レオンは静かに頷く。


「鍛錬中にすまない。こちらは、アストレア伯爵家のご令嬢だ。」


ノアは、リシェルへ向き直ると、深く一礼した。


「初めまして。ノアと申します。」


リシェルも優雅にカーテシーを返す。


「リシェル・アストレアです。先日は、助けていただき、ありがとうございました。」


ノアは少し慌てたように、首を横へ振る。


「いえ、私は団長の後に続いただけです。ご令嬢をお守りしたのは、団長です。」


レオンは静かにノアへ視線を向ける。


「お前も十分に、役目を果たした。」


短い言葉だった。

ノアは少し驚いたように目を瞬かせ、それから照れくさそうに笑う。


「……ありがとうございます。」


その笑顔を見て、リシェルも自然と微笑んだ。


(レオン様は、ご自分だけの手柄にはなさらないのね。)


部下の働きをきちんと認める。


だからこそ、皆から信頼されているのだと、自然に伝わってきた。


レオンはノアへ、軽く頷く。


「鍛錬を続けてくれ。」


「はい!」


力強い返事が、返ってくる。

その声を背に、レオンは再び歩き始めた。


「次は、こちらをご案内いたします。」




レオンは廊下の奥へ歩みを進める。


「次は、こちらです。」


大きな木の扉を開けると、ふわりと干し草の優しい香りが漂った。


馬たちが穏やかに首を上げ、一斉にこちらを見つめる。


「まあ……。」


リシェルの表情が、自然とほころぶ。


「こちらは、騎士団の馬房です。」


「任務だけでなく、巡回や伝令にも欠かせない、大切な仲間たちです。」


一頭の栗毛の馬が、ゆっくりとリシェルへ近付いてきた。


「……!」


思わず、小さく息を呑む。


レオンは、穏やかに微笑んだ。


「大丈夫です。人懐こい馬ですよ。」


その落ち着いた声に、リシェルはそっと手を伸ばす。


馬は警戒する様子もなく、優しく鼻先を寄せた。

温かな息が、指先をくすぐる。


「ふふ……。」


思わず笑みが零れる。


「とても大人しい子ですね。」


「ええ。」


レオンは、静かに頷いた。


「この馬は、まだ若い頃から私が世話をしておりました。」


「そうなのですか。」


リシェルは、少し驚いたようにレオンを見る。


「団長になられてからも、ですか。」


「時間を見つけては。」


その答えは、あまりにも自然だった。

役職が変わっても、大切にしているものは変わらない。


そんな人柄が、その一言から伝わってくる。


リシェルは、馬のたてがみを優しく撫でた。


「皆様だけでなく、この子たちも騎士団を支えているのですね。」


レオンの表情が、ふっと柔らかくなる。


「ええ。彼らも、大切な仲間です。」

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