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死亡フラグが全部付箋で見えるんですが  作者: 絵宮 芳緒
第四章 結ばれ始める縁

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第八話 約束の日

数日後――。


騎士団から面会の連絡が入り、その日、リシェルはマリアとともに王国騎士団本部を訪れていた。


王都の一角に建つ騎士団本部は、重厚な石造りの建物だった。


高く掲げられた王国旗が春風にはためき、門の向こうからは、剣と剣が打ち合う乾いた音が響いてくる。


規律正しく並ぶ騎士たちの姿に、リシェルは思わず足を止めた。


「ここが……王国騎士団。」


静かな感嘆が漏れる。


マリアも辺りを見回しながら、小さく微笑んだ。


「立派ですね、お嬢様。」


門を守る騎士が二人へ気付き、一歩前へ進み出る。


「アストレア伯爵家のご令嬢でいらっしゃいますか。」


「はい。」


リシェルが静かに頷くと、騎士は深く一礼した。


「お待ちしておりました。」


「騎士団長へお知らせしてまいりますので、少々お待ちください。」


そう言うと、一人の騎士が本部の中へ駆けていく。


リシェルは胸元で、小さな箱をそっと抱え直した。


中には、丁寧に畳まれた白いハンカチ。


借りたままになっていた、大切な一枚。


(ようやく、お返しできる。)


そう思うと、不思議と胸が少しだけ高鳴る。


やがて、建物の扉が静かに開いた。


現れたのは、一人の青年。


陽光を受けながら、真っ直ぐこちらへ歩いてくる。


「お待たせいたしました。」



穏やかな声が、春風に乗って届く。


リシェルは自然と顔を上げた。


「レオン様。」


視線が重なる。


あの日と変わらない、落ち着いた青い瞳。


レオンは柔らかな笑みを浮かべると、リシェルへ一礼した。


「本日は、ようこそ王国騎士団へ。」


その所作は、騎士団長としての礼節を失わない。


それでいて、どこか温かさを感じさせるものだった。


リシェルもスカートの裾を軽く摘まみ、優雅にカーテシーを返す。


「本日は、お時間をいただきありがとうございます。」


「こちらこそ、お越しいただき感謝いたします。」


短い挨拶。


それだけのはずなのに、不思議と空気は柔らかかった。


互いに微笑み合う二人を見て、マリアは小さく胸を撫で下ろす。


(お嬢様……。)


あの日、街で見せていた緊張した表情とは違う。


今は穏やかな笑みを浮かべている。


レオンは静かに一歩横へ移動した。



「どうぞ、お入りください。」


「ありがとうございます。」


リシェルは軽く頭を下げ、レオンに続いて応接室へ入る。


その手前で、マリアは静かに一礼した。


「私はこちらでお待ちしております。」


リシェルは小さく頷き、部屋へ足を踏み入れる。


応接室は落ち着いた雰囲気だった。


窓から柔らかな春の日差しが差し込み、壁には王国騎士団の紋章が掲げられている。


扉の脇には、副団長が静かに控えていた。


会話へ加わることはなく、騎士団長の補佐として、その場を見守っている。


レオンはリシェルへ椅子を勧めた。


「どうぞ、お掛けください。」


「ありがとうございます。」


リシェルが腰を下ろすのを見届けると、レオンも向かいの席へ静かに腰を下ろした。


レオンは穏やかな眼差しをリシェルへ向けた。


「お会いできて、何よりです。先日は、お怪我がなく安心いたしました。」


その言葉に、リシェルの表情がふっと和らぐ。


「ご心配をお掛けいたしました。おかげさまで、大事には至りませんでした。」


レオンは静かに頷いた。


「あの場に居合わせることができ、本当に良かったと思っております。」


その真っ直ぐな言葉に、リシェルは自然と笑みを浮かべる。


「ありがとうございます。」


一呼吸置くと、リシェルは胸元へ抱えていた小さな箱を、そっと机の上へ置いた。


「本日は、お礼を申し上げたく参りました。」


蓋を開ける。

中から現れたのは、丁寧に畳まれた白いハンカチだった。


リシェルは両手でそれを持ち、レオンへ差し出す。


「先日は、このハンカチをお貸しくださり、本当にありがとうございました。あの時は、お礼も十分に申し上げられませんでしたので……。」


レオンは静かに受け取り、白い布地へ視線を落とした。


隅々まで整えられた折り目。

清潔な布地からは、ほのかに石鹸の香りが漂う。


「……とても綺麗にしてくださいましたね。」


思わず、零れた言葉だった。

リシェルは、少し照れたように微笑む。


「お借りした、大切なものですから。少しでも、お借りする前の状態に近づけたくて……。」


その一言に、レオンは小さく目を細めた。

ほんの僅かな笑み。

けれど、それは以前よりもずっと柔らかかった。


「ありがとうございます。」


短い言葉だった。

それでも、その声には自然な温もりが宿っていた。


応接室には、穏やかな空気が流れる。


扉の脇に控える副団長は、静かにその様子を見守っている。


やがてレオンは、ハンカチを丁寧に机へ置き、リシェルへ視線を向けた。


「せっかく、騎士団までお越しいただいたのです。よろしければ、この後、騎士団をご案内いたしましょう。」


思いがけない申し出に、リシェルは少し目を丸くした。


「よろしいのですか。」


「もちろんです。もし、ご興味がおありでしたら。」


その言葉に、リシェルの表情がふわりと和らぐ。


「ありがとうございます。ぜひ、お願いいたします。」

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