表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死亡フラグが全部付箋で見えるんですが  作者: 絵宮 芳緒
第四章 結ばれ始める縁

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/41

第七話 新たな人生

数日後――。

ランベール侯爵家の玄関前には、一台の馬車が静かに停まっていた。


使用人たちは整列し、深く一礼する。


セドリックは静かに、屋敷を見上げた。


幼い頃から過ごした我が家。

父と剣を交えた中庭。

母と歩いた庭園。


何気ない日常も、今日で最後になる。


「父上、母上。」


侯爵と侯爵夫人へ向き直り、深く頭を下げる。


「今まで、本当にありがとうございました。」


侯爵は静かに頷いた。


「新しい家でも、誠実でありなさい。」


「はい。」


侯爵夫人は微笑みながらも、その瞳には涙が浮かんでいる。


「身体には気を付けるのですよ。」


「はい。」


セドリックはもう一度深く一礼すると、ゆっくりと馬車へ乗り込んだ。


扉が閉まる。

御者が手綱を握り、馬車は静かに動き始めた。


その時――。

ふわり。


セドリックの頭上に浮かぶ白い付箋が、淡い光に包まれる。


【婿入りします】


その文字が、静かに消えていく。

新たに浮かび上がった文字。


【新しい家を守ります】


もちろん、セドリックは気付かない。


ただ前だけを見つめ、静かに馬車へ身を預けていた。





子爵家。

玄関前には、一台の馬車が静かに待っていた。


ミレーユは、飾り気のない淡い灰色のドレスに身を包んでいる。


社交界で纏っていた華やかな装いは、もうない。


子爵夫人は、娘の手をそっと握りしめた。


「ごめんなさいね……。」


その声は、小さく震えていた。


「お母様。」


ミレーユは静かに、首を横へ振る。


「謝らないでください。これは、私が選んだ道です。」


子爵は静かに、娘の前へ立つ。

いつも厳格な父だった。


けれど今日は、その目が少しだけ赤い。


「ミレーユ。」


娘は背筋を伸ばし、父を見つめ返す。


「お前は、人を騙したわけではない。」


静かな声だった。


「だが、社交界は事情まで見てはくれん。」


ミレーユは、小さく頷く。

その言葉は、もう何度も自分へ言い聞かせてきたことだった。


「お前の幸せを願っていた。」


子爵は一度言葉を切る。


「……すまない。」


その一言に、子爵夫人は堪えていた涙を零した。


ミレーユは、静かに微笑む。


「お父様、お母様。今まで、本当にありがとうございました。」


子爵は静かに頷いた。


「行っておいで。」


その一言に、ミレーユは深く一礼する。


「行ってまいります。」


子爵夫人は涙を拭いながら、小さく頷いた。


ミレーユはゆっくりと馬車へ乗り込む。

扉が静かに閉まり、馬車はゆっくりと動き始めた。


その時だった。

ふわり。


ミレーユの頭上に浮かぶ白い付箋が、淡い光に包まれる。


【後悔します】


その文字が、静かに消えていく。

やがて、新しい文字が浮かび上がった。


【修道院へ入ります】


もちろん、ミレーユは、その変化に気付くことはない。


馬車の窓から、生まれ育った屋敷を静かに見つめる。


少しずつ、遠ざかっていく故郷。

父と母の姿も、小さくなっていく。


やがて見えなくなると、ミレーユはそっと瞳を閉じた。


春風が、王都を優しく吹き抜ける。


それぞれが、選んだ道は違う。

それでも、その未来は静かに動き始めていた。


――そして、新たな縁もまた、静かに動き始めようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ