第六話 それぞれの未来
数日後――。
ランベール侯爵家では、静かに時が流れていた。
大きな屋敷は、いつもと変わらぬ朝を迎えている。
けれど、その空気だけは少し違っていた。
廊下を行き交う使用人たちも、どこか言葉少なだった。
セドリックは、自室で荷物を整えていた。
持っていく物は、決して多くない。
必要最低限の衣類。
数冊の本。
幼い頃から使い続けてきた剣だけは、静かに手に取る。
その時だった。
ふわり――。
セドリックの頭上に浮かぶ白い付箋が、淡い光に包まれる。
【14日後 破産します】
その文字が、ゆっくりと消えていく。
やがて、新しい文字が静かに浮かび上がった。
【婿入りします】
もちろん、セドリックはその変化に気付くことはない。
荷物をまとめる手を止めることもなく、小さく息を吐くだけだった。
「……これでいい。」
誰に言うでもない、小さな独り言。
覚悟は、もう決まっている。
静かに荷物を閉じると、窓の外へ視線を向けた。
春風が、庭の木々を優しく揺らしていた。
子爵家。
ミレーユは、自室の机へ静かに向かっていた。
引き出しの奥には、小さな箱が一つ。
そっと蓋を開ける。
中には、押し花の栞。
東屋で拾った白薔薇の花びら。
何気ない思い出が、静かに眠っていた。
ミレーユはそれらを一つひとつ見つめ、小さく蓋を閉じる。
「……さようなら。」
その時だった。
ふわり――。
ミレーユの頭上に浮かぶ白い付箋も、淡い光に包まれる。
【裏切られます】
その文字が、静かに消えていく。
代わりに現れた、新しい文字。
【後悔します】
ミレーユは、その変化を知ることはない。
ただ静かに箱を胸へ抱きしめ、瞳を閉じた。
窓の外では、小鳥が穏やかにさえずっている。
それぞれが選んだ未来は、静かに新しい一歩を、踏み出そうとしていた。




